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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『冥談』京極夏彦
評価:
京極夏彦
メディアファクトリー
¥ 1,449
(2010-03-03)

 岩の上に居たのは、女だったそうです。しかし、そんな場所に女が居る訳はありません。いいえ、居てはならないのです。里の者は絶対にそんな場所に行きません。行こうとしても行けるものではありません。居る筈のない場所に居るものは――。
 それは人ではないのです。(「遠野物語より」より)

 タイトルの「冥」という文字が表すように、どことなくクライ話が多かったです。陰気な話というのではなく、道理がわからずに物事がよく見えていないくらさと、そのものずばりあの世と繋がっている話たち。
 好きな順に挙げると、巻頭にあってしっとりとした余韻を残す「庭のある家」、恐怖の対象イコール死者というわけではない民俗学的な考察が興味深かった「遠野物語より」、思わず自分の住む家について考えてしまった「予感」がお気に入り。「予感」の中にある「家は生命のアナロジー」云々っていうところが面白かったです。それと、掉尾を飾る「先輩の話」はなんともおぼろげで、あちら側とこちら側どちらに立って読んでいるのか心許なくなりました。この話がラストにくることで、それまで読んできた冥談の数々がぼうっと遥か彼方に霞んでいくような感じ。

【収録作】
 庭のある家/冬/凮の橋/遠野物語より/柿/空き地のおんな/予感/先輩の話

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2010.04.13 Tuesday * 20:10 | 京極夏彦 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『幽談』京極夏彦
評価:
京極夏彦
メディアファクトリー
¥ 1,449
(2008-07-16)
 ああ、手首だと、私は思ったものである。
 切断された手首だとは思わなかった。誰の手首だろうとも思わなかった。
 ただ、手首だと思った。何故かは解らない。(「手首を拾う」より)

 怪談雑誌「幽」に連載された短編を収めた本。

■「手首を拾う」
 男は汽船に乗り、七年前に妻と訪れた旅館へ向かった。以前と同じ部屋に通されて、三年前に別れた妻のことや、ふたりで旅した時のことを想う。そして、ここで見つけた手首のことも……。

■「ともだち」
 男は有給を取り、三十年以上前にほんの数年過ごした場所へやってきた。長い月日が過ぎて、以前とは違った様相を呈する街をあてもなく歩く。電柱の横には旧友の森田君が立っていた……。

■「下の人」
 下の人がうるさい。しかし住んでいるのはマンションの1階だ。下の人は、何かを擦るような、身じろぐ気配のような、そんな微かな音を立てる。時にはしくしくと掠れた声で泣く。下の人は、ベッドの下に居た……。

■「成人」
 「人形のどうぐ」という題の小学生が書いた作文。「奇妙な箱」という題の高校生が書いた文章。そしてそのふたつの話を繋げる、B君が成人式の晩に体験した奇妙な出来事。

■「逃げよう」
 子供の頃、がむがむがむ、という声を発する、翠色の変なものに追いかけられて逃げた。僕はおばあちゃんの家に逃げ込んだ。汚くて、臭くて、嫌いだったおばあちゃん。しかし、僕のおばあちゃんは8歳の頃に死んでいる。では、あのおばあちゃんは……。

■「十万年」
 人はみな違っている。だからその目で世界を見たら、人それぞれ違って見えるのだろう。自分が見ているものが果たして正常なものなのか。そもそも、そんなことを思う時点で既に正常ではないのかもしれない。そんな男の中学時代のクラスメートに、霊が視えると言っていた女生徒がいた。

■「知らないこと」
 隣に住む中原光次という親父は、頭がおかしい。彼の奇行を、中原ウォッチャーを名乗るニートの兄が、私に逐一報告するのだが……。

■「こわいもの」
 怖いものとは何か。男はひとり黙考する。死に関係するものが怖いのだろうか、それとも嫌いなものが怖いのだろうか。しかし考えれば考えるほど、男は恐怖から遠ざかってしまう。恐怖とは、いったい何なのか……。

 一番良いなと思ったのは、「手首を拾う」です。私は川端康成の「片腕」がとても好きなのですが、もともとどこか、手首だの指だの腕だのに惹かれる性質なのかもしれません。「十万年」は、意外や意外の恋愛ものでした。「こわいもの」は、まるで禅問答のよう。
 「怪談」ではなく「幽談」としているだけあって、人の心が幽かに揺れる瞬間を書いている印象でした。思ったよりずっと読後感が軽いなあ。うっすらとした話が多いせいか。

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2008.10.22 Wednesday * 19:23 | 京極夏彦 | comments(0) | trackbacks(1)

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