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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『聖女の救済』東野圭吾
評価:
東野 圭吾
文藝春秋
¥ 1,700
(2008-10-23)

「だから前にいったんだ。これは完全犯罪だ、とね」(本文より)

 男が死んだとき、その直前に離婚を言い渡されていた妻は北海道に居た。男の死因は毒物による殺人。しかし妻には完全なアリバイがあり――。

 「探偵ガリレオ」シリーズの一番新しい長編。草薙刑事が容疑者である被害者の妻に恋をしてしまい、それが話をややこしくするかと思いきや、刑事としての本分は見失わずに終盤正気に返ってくれました。といっても、この話ではやはり、草薙刑事の容疑者に対する心情の描写が読みどころのひとつでしょう。容疑者に思いを寄せてしまった刑事というシチュエーションでありながら、シリアスさよりもコミカルな印象が強かったです。絵面を想像すると結構笑える。そんな感じで「草薙さんたらもう…」と読んでいたら最後に彼の行動が活きてくるとは。
 内海刑事も女性ならではの視点から発言することが多くて、なかなか鋭いところを見せてくれました。恋する草薙刑事と女性容疑者を同性の目で厳しく見つめる内海刑事が対照的で、そこに中立な湯川が入って真面目なミステリなのに、やっぱりどこか笑える要素が感じられました。内海に話を聞いて草薙と会話する湯川が、思ったほど草薙がダメダメになっていなくて、「それならいい」と事件についての推理を聞かせずに帰ってしまうところとか。
 ミステリとしては、犯人の目星もついていてどうやって殺したかを突き詰めていく、ハウダニットもの。いくつもの仮説や論駁がやりとりされて、ひとつだけ残った方法に辿り着きます。キーワードは虚数解。
 このトリックは、よほど強い意志を持った犯人じゃないと出来ないだろうなあ。読後タイトルを見返してなるほどと納得したけれど、果たしてこれをやり遂げた彼女は「聖女」と言えるのでしょうか。
 それにしても被害者が嫌な男だった。みんななんで彼に惹かれるのか。「どこがいいんだ、こんなやつ!」と思いながら、始めのほうは読んでました。自分の子供を産めるかどうかだけでどんどん相手を変えるなんてなぁ。

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JUGEMテーマ:ミステリ
2009.08.21 Friday * 17:45 | 東野圭吾 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『探偵ガリレオ』東野圭吾
評価:
東野 圭吾
文藝春秋
¥ 570
(2002-02-10)

 ドラマ化されたのを機に再読。
 不可解な事象を伴う事件が起こると、警視庁捜査一課の草薙俊平は、親友である帝都大学理工学部物理学科助教授の湯川学を訪ねて助言を請う。一見オカルティックな事件を、科学の目で解き明かしていくシリーズ。

■燃える(もえる)
 深夜の騒音により近隣住民から疎まれていた若者たちのひとりが、突如頭部が発火して焼死する事件。
 刑事の草薙、そして天才物理学者湯川の初登場作品。人体発火とプラズマという、なかなか心惹かれるキーワードです。被害者に対する悪感情は読んでいるこちらにもわかるので、どちらかというと加害者側に同情してしまう部分もあるかな。ラストシーンに出てくる、犯人が連行される前にしたあること。なぜ彼は最後にアレを選んだのだろうと考えると、しばし余韻が残ります。

■転写る(うつる)
 池で発見されたアルミ板のデスマスク。後日そこから行方不明者の遺体も上がったが、なぜ硬い金属板にデスマスクが出来たのか。
 草薙の姉と、その娘の通う中学校が出てくる話。本筋とはあまり関係ないけれど、シリーズものの主要人物の血縁関係や交友関係がわかったりする、ちょっとしたエピソードっていうのは楽しいもんです。
 デスマスクが出来上がった真相については、哀しいかな、文系脳の私には完全に理解できたかどうか怪しいんですが、ラストの湯川の言った「科学者の冗談」は面白かったです。

■壊死る(くさる)
 浴室で発見された男の遺体。死因は心臓麻痺だと思われたが、解剖の結果、胸に壊死した痣があることがわかる。
 この殺害方法が実際に有効なのか私にはわかりませんが、一見簡単そうに見えちゃうところが怖い。真似する人が出ないことを祈ります。トリックよりもそれを使う人間の描写が印象に残る話。タイトルとオチが綺麗にまとまってますね。

■爆ぜる(はぜる)
 海でゴムボートに浮かんでいた女性が、突然火柱となって焼死する事件。
 この本の中で一番読み応えを感じたのが、この話でした。もっと長い話に広げてもいいんじゃないかと思えるくらい。ここで描かれている犯行のきっかけとなったある種の甘えは、最近よく耳目に触れる気がします。こういう人って、なんでも人のせいにしますよね。

■離脱る(ぬける)
 ある女性が殺害され、その被疑者となった男性のアリバイを証明する少年は、幽体離脱によって男の車を目撃したという。
 子供嫌いな湯川が子供と接した話でもありますが、その際に起こった湯川のある変化に笑いました。そこまでですか、先生(笑)
 トリックというか幽体離脱の真相は、馴染みのある現象を引き合いに出されているので解りやすかったです。この話あたりでは、すっかり捜査一課の中での湯川の認知度も上がっていますね。草薙に「ガリレオ先生に聞きに行け」みたいなことを上司も言うようになって、シリーズが固まってきた印象を持ちます。

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JUGEMテーマ:ミステリ
2007.10.24 Wednesday * 20:07 | 東野圭吾 | comments(0) | trackbacks(4)
* 『容疑者Xの献身』東野圭吾
4163238603容疑者Xの献身東野 圭吾 文藝春秋 2005-08-25売り上げランキング : 262おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 面白かった! 久々に東野圭吾きたぞーって感じ。
 最近『手紙』『さまよう刃』など、犯罪者家族や被害者家族が主人公の重くて考えさせる話が続いてましたが、これは久しぶりに純然たるミステリ。しかも、切ない純愛の物語。人は、他人をどこまで愛せるのか。
 ミステリファンじゃない人にもオススメですよ。いや、むしろミステリをまったく読んだことのない人に読んでもらいたいかも。変に気構えずに読めると思うから。なまじミステリを読みなれてると、眉に唾しながら読んじゃうじゃないですか。「はは〜ん、これは伏線だな」とか、そういうイヤラシイ読み方を(笑)
 そういうことなしでひとりの男の物語として読んで、最後に「えっ」と驚かされてもう一度読み返し、「……ミステリって、面白いかも」――そう思ってもらえれば嬉しい。
 高校の数学教師・石神は、アパートの隣人・花岡靖子に密かに想いを寄せ、彼女の働く弁当屋で毎日昼食を買うことを日課としていた。ある夜、靖子と娘が刑務所帰りの元夫を殺害してしまったことを知った石神は、二人に力を貸すと申し出る。一見脆そうに見えて実は緻密に組み上げられた隠蔽工作。しかし、石神の大学時代の友人であり物理学者の湯川によって……。

 連載中は「容疑者X」というタイトルだったんですが、単行本化する際に「献身」という言葉が加えられました。この「献身」の言葉の意味がねえ、読後胸にくるんですよ。
 妻でも恋人でもない、ただ片思いしているだけの女性のためにここまでやるか!
 いや、ここまで出来るのか!
 男の純情なんて青臭い言葉では片付けられないものがあります。

 作中に
 「人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある」
 という一文があるんですが、それでそこまで自分を犠牲にできる石神は凄い。
 あんまり細かく書くと興がそがれると思うのでもうやめておきますが(後でサイトのほうにちゃんとした感想書きます)、読んだ人とネタバレありでひとつひとつ「あれはどうよ?」と語りたいです。

 ラストシーンも人によって意見が分かれることでしょう。
 「報われた」
 「救いがあった」
 とするか、その反対か。
 私は「ああしたことで、彼は絶望に突き落とされた」と思います。
 だってだって……。

 もう、これがあるから東野圭吾はやめられん。
2005.10.29 Saturday * 13:06 | 東野圭吾 | comments(2) | trackbacks(1)

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