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評価:
東野 圭吾
文藝春秋
¥ 570
(2002-02-10)
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ドラマ化されたのを機に再読。
不可解な事象を伴う事件が起こると、警視庁捜査一課の草薙俊平は、親友である帝都大学理工学部物理学科助教授の湯川学を訪ねて助言を請う。一見オカルティックな事件を、科学の目で解き明かしていくシリーズ。
■燃える(もえる)
深夜の騒音により近隣住民から疎まれていた若者たちのひとりが、突如頭部が発火して焼死する事件。
刑事の草薙、そして天才物理学者湯川の初登場作品。人体発火とプラズマという、なかなか心惹かれるキーワードです。被害者に対する悪感情は読んでいるこちらにもわかるので、どちらかというと加害者側に同情してしまう部分もあるかな。ラストシーンに出てくる、犯人が連行される前にしたあること。なぜ彼は最後にアレを選んだのだろうと考えると、しばし余韻が残ります。
■転写る(うつる)
池で発見されたアルミ板のデスマスク。後日そこから行方不明者の遺体も上がったが、なぜ硬い金属板にデスマスクが出来たのか。
草薙の姉と、その娘の通う中学校が出てくる話。本筋とはあまり関係ないけれど、シリーズものの主要人物の血縁関係や交友関係がわかったりする、ちょっとしたエピソードっていうのは楽しいもんです。
デスマスクが出来上がった真相については、哀しいかな、文系脳の私には完全に理解できたかどうか怪しいんですが、ラストの湯川の言った「科学者の冗談」は面白かったです。
■壊死る(くさる)
浴室で発見された男の遺体。死因は心臓麻痺だと思われたが、解剖の結果、胸に壊死した痣があることがわかる。
この殺害方法が実際に有効なのか私にはわかりませんが、一見簡単そうに見えちゃうところが怖い。真似する人が出ないことを祈ります。トリックよりもそれを使う人間の描写が印象に残る話。タイトルとオチが綺麗にまとまってますね。
■爆ぜる(はぜる)
海でゴムボートに浮かんでいた女性が、突然火柱となって焼死する事件。
この本の中で一番読み応えを感じたのが、この話でした。もっと長い話に広げてもいいんじゃないかと思えるくらい。ここで描かれている犯行のきっかけとなったある種の甘えは、最近よく耳目に触れる気がします。こういう人って、なんでも人のせいにしますよね。
■離脱る(ぬける)
ある女性が殺害され、その被疑者となった男性のアリバイを証明する少年は、幽体離脱によって男の車を目撃したという。
子供嫌いな湯川が子供と接した話でもありますが、その際に起こった湯川のある変化に笑いました。そこまでですか、先生(笑)
トリックというか幽体離脱の真相は、馴染みのある現象を引き合いに出されているので解りやすかったです。この話あたりでは、すっかり捜査一課の中での湯川の認知度も上がっていますね。草薙に「ガリレオ先生に聞きに行け」みたいなことを上司も言うようになって、シリーズが固まってきた印象を持ちます。