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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』大崎梢
「こんにちは、名探偵さん」
 蔵本に声をかけられ、多絵はにこやかに付け足した。
「本屋限定ですよ」 (本文より)

 「成風堂書店」シリーズの三作目。乗ってますねえ。二作目は長編だったけど、今回は一作目と同じ形式に戻って短編集。このシリーズは日常の謎がメインだから、あんまり引っ張らずに短編でさくさく読めるほうがテンポ良く感じますね。
 収められた話は、同じ本を四人の客が注文するが連絡をするとみなそんな注文をした覚えがないという話や、小学校の社会科見学でやってきた男の子がとる奇妙な行動の謎、バイトの金森君が恋をした話、書店員と年配の常連さんとの交流など。

 一番読みごたえがあったのは、表題作である「サイン会はいかが?」。サイン会が決定してから当日終了するまでの様子が活写されていて、イベント時のわいわいがやがやした感じがとてもよく伝わってきました。

 ある人気ミステリ作家がサイン会を開く際に条件を出した。「この暗号を解読でき、またこの文章を作った<レッドリーフ>と名乗る人物がどこの誰なのか、見事解き明かしてくれる店員のいる書店で開きたい」と。

 肝心の暗号はこのミステリ作家の著作を知らないと解けないもので、それは読者に提示されないので、読んでいるほうは探偵役の多絵ちゃんが解いてくれるのを待つのみとなります。せっかくの暗号モノなので、読者に解くチャンスを与えて欲しかったな。でもまあ、あれだけのタイトル数を自然に話の中に織り込ませるのは無理か。
 暗号が解けた後からが本題で、犯人は誰なのか、なぜこのミステリ作家にこういうものを送りつけてくるのか、ちょっと強引な持っていき方だとは思うけど、<レッドリーフ>の正体がわかる瞬間はちょっとドキドキさせられましたね。ミステリ作家と<レッドリーフ>との遣り取りとか。このミステリ作家は、落としてきてしまったものを上手く拾い上げられると良いなあ。
 密かに、この話でたいぶ出番が増えた文庫担当の内藤さんが好きです。いい人で終わるな!(笑) 杏子さんとロマンスが生まれたりしたら面白いのに、なんてことも考えてました。ならないかなあ。多絵ちゃんには「ちゃん」付けなのに、杏子さんは「木下さん」て苗字で呼ぶところとか、ちょっと意識してるのかな〜?と思ったんだけど。駄目ですかね。堅実で実務が有能なところとか、口数少ないところとか好きなんですけど、杏子さんが彼を意識する日はこないでしょうか。いや、そもそも内藤さんが杏子さんを意識してるとも限らないんだけど。

 あ、それと。作中でちらっと出てきた成風堂で発行しているフリーペーパー「成風堂通信」がおまけでついてました。A4判の薄緑の紙。実用書担当の福沢さんのコーナーとか、文庫担当の内藤さんのイチオシ本とか、読んでいて楽しい〜。そして、大崎さん名義の特別掌編「落とし主は誰?」が載っていたのでちょっと得した気分。大崎さんの今後の予定なんかも載っていて、他出版社のことも普通に書いてある創元社の心の広さを感じました(笑)

【収録作】
 取り寄せトラップ/君と語る永遠/バイト金森くんの告白/サイン会はいかが?/ヤギさんの忘れもの

【このシリーズの感想】
 配達あかずきん 成風堂書店事件メモ
 晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)

 本ブログ 読書日記
2007.06.13 Wednesday * 20:58 | ミステリ・フロンティア | comments(2) | trackbacks(3)
* 『夏の魔法』北國浩二
評価:
北國 浩二
東京創元社
¥ 1,785
(2006-10-24)
 わたしはいま、罪を犯そうとしている。とてつもなく大きな罪を。残酷で、あまりにも利己的な罪を。それによって、いまの自分自身が醜く穢れてしまってもかまわない。
 後悔は……しない。(本文より)

 ああ、もう、なんて言ったらいいんだろう。せつなくてかなしくて、そしてとてもつらい話だった。主人公の気持ちが痛いほど伝わってきて痛い。そして誰ひとり責めることが出来なくてつらい。
 出てくる人がみんな善人だなんて、それがたとえおとぎ話の世界だとしても不自然だと、作中で主人公が言う場面がある。そんなことはないと力強く前向きな発言をする少女がいる。「悪」は人の弱さが生むもので、人はみなどこかに「弱さ」を持っているから、「悪」も心のどこかにひっそりと姿を隠しているに違いない。それがなにかをきっかけにしてあるときはふらりと姿を現し、またあるときは一気に噴き上がるように顔を覗かせ、「罪」を犯してしまう。「罪」に対する「罰」で一番重いものはなんだろう。それはきっと周囲の誰にもそれを責められず、一生涯悔恨の情から逃れられない状況じゃないだろうか。責められたほうがまだましだと思うほどの、深い深い悔恨。

 この話の主人公は早老症によって22歳の若さで老婆の風貌を持ち、末期癌を患っている。最後の夏を過ごすため訪れた思い出深い島で、かつて恋人だった青年と再会する。彼の中に生きるかつての美しく溌剌とした自分の姿をそのまま残しておくため、主人公は正体を隠して彼や宿泊先の人々とこの夏を過ごすことにする。
 初恋の人というのは、他のどの恋愛よりも特別なものだと思う。できればそれは、ずっと綺麗なままでいてほしいと願うもの。初恋の人との再会は胸ときめくものだし、ましてや今でも忘れられない相手なら尚更。けれど、主人公の夏希は現在の自分を思ってそれを手放しで喜べない。彼や周囲の人が優しく接してくれることが、時折痛い。
 読みようによっては、登場人物全員が罪を犯している。全員善良な人々で、だからこそ悪意のない罪に相手は傷つく。ラストシーンもさることながら、そのことにどうしようもないせつなさと哀しさを感じた。
 ただひとつ、終盤に出てくるトリックの場面が、読んでいても映像としてすんなり頭の中に思い浮かべられなかった。作者がミステリを得手としないということなのか、それともそれまでの心理描写からいきなり犯罪の生々しさを読者に晒すのを避けたのか。後者だったら素直になるほどと思う。
 ああ、なんだか上手く語れない。語ろうと思えば際限なく語れそうで、でもそれだとただ感情をダラダラ書くだけになってしまいそう。とにかく読んで、そしてこのなんともいえない気持ちをわかってほしい、そんな本。
 『夏の魔法』は恋愛小説です。そして、〈罪〉の物語です。
 (東京創元社【ここだけのあとがき】より)

 私は昔から、東京創元社という出版社を信用している。特に目当ての物もなく、でもなにか読みたいんだよなあと思って本屋に行ったときには、まず東京創元社の本の中から目についたものを買うくらい。そんなわけで、この本と作者のことについて、なにも予備知識なく手に取ったけど、思いがけず良い出会いだった。ミステリ・フロンティアというレーベルは、どんどん新しい作家さんと出会わせてくれる。北國さんのデビュー作にも興味が湧いたし、今後の作品も追いかけてみたくなりましたよ。ご本人のブログによると、既に第三作目の出版の予定もあるようで楽しみ。
2007.04.17 Tuesday * 20:17 | ミステリ・フロンティア | comments(0) | trackbacks(1)
* 【ミステリ・フロンティア一覧】
次世代を担う新鋭たちのレーベル《ミステリ・フロンティア》【四六判仮フランス装】
※読了したものは書名から感想ページにリンクしてあります。

【これから出るミステリ・フロンティア】(タイトルは一部仮題)※2007年11月30日現在
 上田早夕里 『ショコラティエの勲章』
 翔田寛   『競馬狂ハリスの最後の不運』
 高井忍   『漂流巌流島』
 早瀬乱   『サトシ・マイナス』

【第42回配本】岸田るり子『ランボー・クラブ』
【第41回配本】中野順一『ロンド・カプリチオーソ』
【第40回配本】小路幸也『HEARTBLUE』
【第39回配本】門井慶喜『人形の部屋』
【第38回配本】海堂尊『夢見る黄金地球儀』
【第37回配本】滝田務雄『田舎の刑事の趣味とお仕事』
【第36回配本】秋梨惟喬『もろこし銀侠伝』
【第35回配本】石崎幸二『首鳴き鬼の島』
【第34回配本】久綱さざれ『神話の島』
【第33回配本】福田栄一『エンド・クレジットに最適な夏』
【第32回配本】大崎梢『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』
【第31回配本】藤野恵美『ハルさん』
【第30回配本】北山猛邦『少年検閲官』
【第29回配本】蒼井上鷹『ハンプティ・ダンプティは塀の中』
【第28回配本】北國浩二『夏の魔法』
【第27回配本】道尾秀介『シャドウ』
【第26回配本】大崎梢『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』
【第25回配本】鳥飼否宇『樹霊』
【第24回配本】山之内正文『八月の熱い雨 便利屋〈ダブルフォロー〉奮闘記』
【第23回配本】大崎梢『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』
【第22回配本】岸田るり子『出口のない部屋』
【第21回配本】加藤実秋『インディゴの夜 チョコレートビースト』
【第20回配本】永嶋恵美『一週間のしごと』
【第19回配本】桜庭一樹『少女には向かない職業』
【第18回配本】米澤穂信『犬はどこだ』
【第17回配本】ほしおさなえ『天の前庭(ぜんてい)』
【第16回配本】東川篤哉『館島(やかたじま)』
【第15回配本】小路幸也『HEARTBEAT(ハートビート)』
【第14回配本】獅子宮敏彦『砂楼に登りし者たち』
【第13回配本】藤岡真『ギブソン』
【第12回配本】加藤実秋『インディゴの夜』
【第11回配本】森谷明子『れんげ野原のまんなかで』
【第10回配本】石持浅海『BG、あるいは死せるカイニス』
【第9回配本】大山誠一郎『アルファベット・パズラーズ』
【第8回配本】鳥飼否宇『太陽と戦慄』
【第7回配本】翔田 寛『消えた山高帽子 チャールズ・ワーグマンの事件簿』
【第6回配本】三津田信三『シェルター 終末の殺人』
【第5回配本】伯方雪日『誰もわたしを倒せない』
【第4回配本】畠中 恵『百万の手』
【第3回配本】米澤穂信『さよなら妖精』
【第2回配本】ほしおさなえ『ヘビイチゴ・サナトリウム』
【第1回配本】伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』※[吉川英治文学新人賞受賞]

JUGEMテーマ:ミステリ
2007.04.06 Friday * 19:36 | ミステリ・フロンティア | comments(0) | trackbacks(0)
* 『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』大崎 梢
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 『配達あかずきん』に続いて早くも刊行された「成風堂書店」シリーズ(って呼んでいいのかな?)の第二弾。今回はなんと、殺人事件が絡んでました。

 地元の老舗書店に勤める元同僚から届いた一通の手紙。そこには彼女の勤める書店での幽霊騒ぎと、それにまつわる二十数年前のある事件について書かれていた。強い要請により渋々その書店へと出かけた成風堂書店店員の杏子とアルバイトの多絵。そこで見たのは店主が手間と年月をかけ、周辺住民たちに愛され続けている老舗書店と、解決したはずの老作家殺害事件に関係するいくつかの小さな謎だった。

 短編集だった前作とは違ってこれは長編。書店ならではの謎や書店員の視点でそれを解いてゆくのがこのシリーズの持ち味ですが、それがこんな長編になるとはいったいどんな事件なんだろうと思って読み始めたら、意外とシリアスな展開になりました。
思えば前作の中にも、きらりと水底で魚が白い腹を見せるように、何気ない日常の謎に深刻な背景が覗いていた部分もあったんですよね。醜悪だったりドロドロしたりというようなことはないんですが、このお話もまた、さらっとした語り口や穏やかな主人公たちの後ろにすうっと薄暗い影が垣間見えるような印象を受けました。
 でもそれはあくまでもうっすらとした影であって、黒々と主人公たちを飲み込む闇じゃない。問題の殺人事件は既に四半世紀以上前に起こったことであることと、その犯人として獄中死した青年がどこか端正で硬質な雰囲気を持った人物であるということがそう思わせるのかもしれません。幽霊騒動の真相よりも、作家殺害事件の犯人とされている秋郎(あきお)青年についての人となりに興味を惹かれました。それが即ち幽霊騒ぎの謎を解く鍵でもあるんですけれど。
 事件の収束もすっきりまとまっていたし、多絵が成風堂書店でアルバイトを始めるきっかけとなったある出来事について書かれていたのもシリーズ読者としては嬉しかったです。多絵が杏子に薦められたという本、そのうちタイトルが明かされるんでしょうか。ああでも、あそこまで書いてあるから、後は自分で書店でみつけるっていうのもまた楽しいですよね。
2006.11.16 Thursday * 22:19 | ミステリ・フロンティア | comments(0) | trackbacks(2)
* 『配達あかずきん』大崎梢
4488017266配達あかずきん大崎 梢 東京創元社 2006-05-20by G-Tools

 「いいよんさんわん」―近所に住む老人に頼まれたという謎の探求書リスト。コミック『あさきゆめみし』を購入後、失踪した母の行方を探しに来た女性。配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真…。駅ビル内の書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の良いアルバイト店員・多絵のコンビが、さまざまな謎に取り組んでいく。初の本格書店ミステリ、第一弾。(「BOOK」データベースより)

 面白かったです。書店ミステリというよりも、書店員が謎を解くミステリ。私も本屋さんでバイトをしていたことがありますが、読んでいて「そうそう、こういう人いるいる」とか「あーこういうことされると困るんだよねえ」と頷く箇所がいくつもあって、この作家さんも本屋さんで働いていたことがあるのかなと思いました。作者のプロフィール知らないんですけど、書店の業務がさりげなく詳しく書かれてるんですよね。これ、やったことある人じゃないと書かないんじゃないかなあと。「六冊目のメッセージ」なんか特に、一日中本屋さんにいたことのある人じゃないとああいう風にネタに出来ないんじゃないかと。
 どれもあまり筋を語ってはネタバレしてしまいそうなので控えますが、私のお気に入りは「ディスプレイ・リプレイ」でした。少しだけ顔の見えたある登場人物がなんか好きだなあ、と。実はとある人気マンガとその作者さんをイメージして読んでたので、そのせいかもしれません。ファンからの一方通行な思いではなく、こんな風にどこかでつながっているかもしれないと思わせてくれたのが嬉しかった。
 なるほど、と思ったのは「パンダは囁く」で、既に亡くなっている少年にちょっとだけときめかせてもらったのは「標野にて。君が袖振る」、「配達あかずきん」は一番長いお話で読み応えがありましたし、「六冊目のメッセージ」は本好きなら誰しもこんな風に自分の薦めた本を気に入ってもらえたら幸せだよねえと思うようなお話。
 本が好きな人、書店が好きな人には、「うんうん」「そうそう」の連続じゃないでしょうか。作中にいろいろ出てくる実際にある本や小説の数々も「あーこれ私も読んだなあ」なんて思ってました。小説じゃないけど「あさきゆめみし」なんていう懐かしいマンガも出てきて、思わず自室の本棚から引っぱり出して読み返しちゃいましたよ。
【収録作品】パンダは囁く/標野にて。君が袖振る/配達あかずきん/六冊目のメッセージ/ディスプレイ・リプレイ
2006.10.02 Monday * 17:55 | ミステリ・フロンティア | comments(2) | trackbacks(2)

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