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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『野球の国のアリス』北村薫
 「昨日までわたし、おかしなところで投げていたんですよ。」
 (第一部「金色の午後、アリスが話し始める。」より)

 講談社ミステリーランド第14回配本。ミステリーランドではありますが、北村さんが書いたのは謎解きなどミステリ要素の出てこない、純粋なジュブナイルでした。
 タイトルから見てもわかるとおり、『鏡の国のアリス』と『不思議の国のアリス』をモチーフとして、野球好きな少女アリスが左右逆なもうひとつの世界へ入り込んでしまうお話です。そこは中学野球の最終戦というのが行われ、負け進んだワースト1を決める試合を“スポーツと思いきや、実はお笑い”番組として楽しみ、嘲笑するような風潮のある世界でした。野球を愛し、自らもピッチャーとして打ち込んできたアリスには到底許せない状況です。野球を笑いものにするのではなく、感動するもの、熱いなにかを感じるものとして、もう一度世間に訴えかけたいという強い気持ちから、ベスト1のチームと試合をすることになるのですが――。
 とてもまっすぐなお話でした。執筆陣の中に北村さんの名前を見つけたときから、どんな作品を発表されるのか楽しみにしていたんですが、こうくるとは予想してなかったなあ。本格ミステリ好きな北村さんのことだから、少年少女をそちらに導き入れるような話になるのかなあ、と思ってました。
 「大変だ!大変だ!」と言いながら駆けて行く新聞記者宇佐木さんを、アリスが追いかけて行くところから物語は始まります。アリスを見てニヤリと笑うメタボ猫とか、宇佐木さんに誘われてのお茶会とか、ところどころに『不思議の国のアリス』ネタがちらほら。
 こちらの世界ではなかなかのピッチャーであるアリスが、向こうの世界で弱小チームに参加して……というと、華やかに活躍するのを予想しますが、そんなに物事思い通りに運ぶもんじゃないよ、というワンクッションがちゃんと用意されているところが、なんというかとても真っ当というか、ある意味フェアだなあと思って読んでました。本題に入る前にちゃんと書いてあったんですよね、「皮肉って、わかりますか?」と、冒頭に。
 一番負けたチームを決める最終戦もそうだし、子供たちが傷つくからと過度に競争することを排除しようとする社会とか、女の子であるがゆえにどんなに野球が好きでも中学以降公式試合はおろか野球部にも入ることが出来なくなるアリスとか、いくつもの皮肉なことが出てきます。それにどう立ち向かっていくか。まっすぐに進んで行こうとするアリスと仲間達が気持ちよかったです。アリスとライバルの五堂のその後が、ちょっと気になるところ(笑)

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2008.10.04 Saturday * 00:07 | 講談社ミステリーランド | comments(0) | trackbacks(0)
* 『ぐるぐる猿と歌う鳥』加納朋子
 おれは人生最大の勇気をふりしぼって言った。
「あのさー、おれと友だちになってくれない?」と。(本文より)

 小学五年生の高見森(シン)は、父親の転勤で東京から北九州へと引っ越してきた。前の学校では、腕白で怪我ばかりして乱暴者のいじめっ子というレッテルを貼られていたシンだが、ある日不思議な少年パックと出会い、ある場所に描かれた巨大なサルの絵を見つける。

 謎解きに力を入れたミステリではなく、どちらかというと少年の冒険と成長を描いたお話。あらすじを読むとなにやらファンタジーっぽく見えますが、読んでみると空想上の生き物が出てくるわけでもなく、話の底には結構シビアな現実があったりします。パックの正体、シンが過去にあった誘拐といなくなってしまった「あや」のこと、そして学校生活における日常的だけれど当人にとっては重大な出来事の数々。
 ちょっと無愛想で頭より先に行動してしまうタイプのシンが、新しく知り合った仲間たちと打ち解けられるのか。そのことを一番気にかけて読んでいました。物は壊すは級友を泣かせるは、シンは大人からしたら問題児に見えるんですが、本人の言い分を聞けばそれらの大部分が誤解からなる認識だとわかるはず。そのかわりシンのほうも、担任教師が出席をとるときに自分の名前を毎回間違えることに腹を立てています。けれどそれも、見方を変えると教師の気遣いが見えるのです。
 人に誤解されるというのはツライ。それが解けないままでいるのは、大人でも子供でも本当に嫌なものです。けど、つい見かけで判断したり、一面的に物事を見てしまったりするんですよね。それまでの経験則がある分、大人のほうが断定的に判断してしまうことが多いけど、子供だって子供なりの偏見があるように思います。この本を読んで一番最初に思ったのは、「誤解を解く努力をしよう」でした。諦めることを覚えてしまった身には、なかなかその勇気が出ないんですが。

 シンには、幼稚園の頃誘拐されかけた過去があり、当時よく一緒に遊んでいた仲良しのあやという女の子と共に抵抗して事なきを得たのですが、その事件がきっかけであやはシンの前から姿を消してしまいました。住んでいた団地の誰に聞いても、あやなどという子供はいなかったというのです。この出来事ともうひとつ、シンにとって重大な出来事が転向する前の学校であったのですが、どちらも友だちに絡んだエピソード。全体を貫いているのは、先に書いた「誤解」とこの「友情」というキーワードかな。
 ただの冒険もので終わっていないのは、あややパックが絡んでいるからでしょう。パックに関しては先行きに不安を感じますが、それでもなんとか少しでも長くみんなでカバーしていけるようにと祈るばかりです。「あや」との再会はシンにとって大きなものになったでしょう。ああ、あとは佐藤くんの誤解が解けるといいなあ。

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2007.11.09 Friday * 00:00 | 講談社ミステリーランド | comments(2) | trackbacks(2)
* 『びっくり館の殺人』綾辻行人
 けれどもきっと、そう、この世界の出来事というのはたいていそんなものなんじゃないか、と思うのだ。特別な何かが起きるときには決まって、こんなぐあいにいくつもの妙な偶然が重なるものなのだろう、と。(本文より)

 読んだけど感想書いてなかったな、と思って再読。
 一読した時もそして再読した後も、まず思ったのは『虚無への供物』と編集者・宇山日出臣氏に捧げられた一作だなということ。作中でちらっと語られる数十年前の海難事故や、その際亡くなった人の名前が日沼(「虚無〜」は氷沼家の話)だったり、新谷という登場人物が読んでいる本が『虚無への供物』そのものだったりと、端々にそれを感じました。
 宇山さんは、「虚無」を文庫として出版したくて、それまで勤めていた商社を辞めて講談社に入社したという方。そして新本格ムーブメントの生みの親でもあり、この「ミステリーランド」というレーベルを立ち上げた人でもあります。そういえば、ミステリーランドを立ち上げる際に、宇山さんは最初に綾辻氏に人選などを相談したとか。

 それはさておき。これはタイトルからもわかるように、ジュブナイル化されているとはいえ、「館」シリーズの第8作目。
 とある古書店でたまたま手に取った1冊の推理小説から、過去の記憶を揺り起こされる主人公三知也の回想録として話は進みます。10年前、三知也が小学校6年生のときに近所にあった「びっくり館」と呼ばれるお屋敷には怪しい噂があり、そこに住む病弱で内気な少年トシオとは友人でした。そのお屋敷には奇矯な言動をするトシオの祖父と、人形のリリカがいて――。
 綾辻さんの作品は、いつもどこか暗くて怖い雰囲気が漂いますね。子供ってそういうオカルティックなものに惹かれるから、ミステリーランドにはこういうのが合っているんじゃないかな。『暗黒館の殺人』の時には、トリックなどがフェアかアンフェアかで賛否が分かれたように思いますが、そういう目で見るとこれもまた「暗黒館」と同じく意見が分かれそう。私はフェアに感じましたね。怪奇幻想風味を差し引いてみると、そこのところは気をつけて記述されているなあ、と。
 というか、子供向けレーベルならこれくらい「えー!?」って言わせてちょうどいいように思います。乱歩の少年探偵団にどっぷり嵌って、学校の図書室に通い詰めていた昔を思い出す身としては。このレーベルに期待するのは、ワクワク、ドキドキ、ハラハラですもん。

 本ブログ 読書日記
2007.10.04 Thursday * 13:15 | 講談社ミステリーランド | comments(2) | trackbacks(1)
* 【講談社ミステリーランド一覧】
かつて子どもだったあなたと少年少女のための――《ミステリーランド》
※読了したものは書名から感想ページにリンクしてあります。(2007年9月27日現在)

【第13回配本】
 加納朋子『ぐるぐる猿と歌う鳥』
【第12回配本】
 上遠野浩平『酸素は鏡に映らない』絵:toi8
【第11回配本】
 山口雅也『ステーションの奥の奥 』絵:磯良一
【第10回配本】
 乙一『銃とチョコレート』絵:平田秀一
【第9回配本】
 綾辻行人『びっくり館の殺人』絵:七戸優
 法月綸太郎『怪盗グリフィン、絶体絶命』絵:本秀康
【第8回配本】
 二階堂黎人『カーの復讐』絵:喜国雅彦
【第7回配本】
 田中芳樹『ラインの虜囚』絵:鶴田謙二
 麻耶雄嵩『神様ゲーム』絵:原マスミ
【第6回配本】
 倉知淳『ほうかご探偵隊』絵:唐沢なをき
【第5回配本】
 歌野晶午『魔王城殺人事件』絵:荒井良二
【第4回配本】
 高田崇史『鬼神伝 神の巻』絵:村上豊
 西澤保彦『いつか、ふたりは二匹』絵:トリイツカ サキ
 森博嗣『探偵伯爵と僕』絵:山田章博
【第3回配本】
 太田忠司『黄金蝶ひとり』絵:網中いづる
 高田崇史『鬼神伝 鬼の巻』絵:村上豊
 竹本健治『闇のなかの赤い馬』絵:スズキコージ
【第2回配本】
 有栖川有栖『虹果て村の秘密』絵:矢吹申彦
 篠田真由美『魔女の死んだ家』絵:波津彬子
 はやみねかおる『ぼくと未来屋の夏』絵:長野ともこ
【第1回配本】
 小野不由美『くらのかみ』絵:村上勉
 殊能将之『子どもの王様』絵:MAYA MAXX
 島田荘司『透明人間の納屋』絵:石塚桜子

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2007.04.07 Saturday * 19:13 | 講談社ミステリーランド | comments(0) | trackbacks(0)
* 『くらのかみ』小野 不由美
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 講談社ミステリーランドの一冊。
 家督相続のために呼び集められた親戚一同。本家では昔から、行者の祟りで子供が生まれず、後継者が育たないという。そこで子供のいる者に次の家督を譲るという話なのだが、子供たちは蚊帳の外。大人たちから離れたところで始めた「四人(しびと)ゲーム」で、ひとり人数が増えてしまった。誰かひとりが座敷童子らしい。自分たちで考えても埒が明かずに大人たちのもとへゆくと、そこでは毒草が混入された食事に苦しむ親たちがいた――。

 いやあ、とにかく出てくる人数が多くてごちゃごちゃしちゃう。大人たちをそれぞれの本名ではなく、関係性から見た独自のニックネームで子供たちに呼ばせるのは、苦肉の策なんだろうな。幾分呼び名から関係が掴めたけど、それでも個別に顔が浮かんでくるような状態にはほど遠く、推理ゲームのコマ的な印象しかなかった。作者もそれを意識してか、たびたび子供たちのメモ書きとして系統図や見取り図、出来事の順番を差し込んでくれたんだけど、私は途中から自分で覚えることを放棄してしまった(笑) ええもう話の流れるままに、子供たちの推理に身を委ねてましたとも。
 一応、少年少女向けの叢書だけど、これは結構話についていくのが大変じゃないかな。自分で推理しようとすると。
 小野さんには伝奇的なものをよくするイメージがあって、これも座敷童子メインの物語になるのかと思ってたけど、意外や本格でした。座敷童子は誰かという謎と、毒草を料理に混ぜた犯人は誰かという謎。現実的なほうの毒草の犯人を特定するのに、座敷童子が子供たちの中に混ざっているということが上手く絡んできて、ちょっと伊坂幸太郎の『死神の精度』の中の一遍と同じ“人外の者がいることが前提として成り立つ論理”が面白かったです。
 この叢書で読んだ中では、有栖川有栖『虹果て村の秘密』麻耶雄嵩『神様ゲーム』と本書がベスト3ですね。今のところ。
「富は、よいことを与えてくれもするし、悪いことを呼び寄せもする。気をつけていないと呑みこまれてしまう。得体がしれなくて、油断のならないお化けみたいなものだ。」(本文より)
2006.11.24 Friday * 20:21 | 講談社ミステリーランド | comments(0) | trackbacks(2)
* 『銃とチョコレート』乙一 "A gun and a chocolate"
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 少年リンツの住む国で富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。現場に残されているカードに書かれていた“GODIVA”の文字は泥棒の名前として国民に定着した。その怪盗ゴディバに挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた手書きの地図を見つける。その後、新聞記者見習いマルコリーニから、「“GODIVA”カードの裏には風車小屋の絵がえがかれている。」という極秘情報を教えてもらったリンツは、自分が持っている地図が怪盗ゴディバ事件の鍵をにぎるものだと確信する。地図の裏にも風車小屋が描かれていたのだ。リンツは「怪盗の情報に懸賞金!」を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが…。(「BOOK」データベースより)

 ミステリーランド第10回配本。待っていた乙一さんの書き下ろしです。次は恩田さんの書き下ろしに期待。
 さて、この本に出てくる人物名や固有名詞はみなチョコレートのメーカーなどからつけられたようで、怪盗はゴディバだし探偵はロイズ、主人公の少年はリンツで後半彼と行動を共にするキレたナイフのような少年の名はドゥバイヨル。読んでるだけで楽しくなります。子供にこれを読ませた後で、「このお話の中で一番好きな人はだあれ?」と尋ね、その名前のチョコレートを上げたらとっても喜ぶんじゃないでしょうか。平田秀一さんのペン画の挿絵も雰囲気があって素敵。平仮名の多い本なのですが、読んでいる間はちっとも気にならなかったな。逆に「平仮名って、曲線多くてつるつるしていて可愛いなあ」なんて思ったくらい。
 名探偵のロイズは子供たちの憧れで、みんなが彼の助手になりたいと思っています。主人公のリンツもそのひとり。怪盗ゴディバのものと思われる地図をロイズに送ったことでリンツは……と、普通なら名探偵と少年助手の活躍する冒険物になるんでしょうが、そこは乙一さん、なかなかブラックでビターな展開になってゆきます。明智小五郎と小林少年と怪人二十面相みたい、なんて思ってたら「うぇっ!?」とびっくりさせられます。
 話の筋を語るとそのままネタバレになりそうなのでやめときますが、私は序盤はそれほど話に乗れずにいて、途中である少年が出てきたあたりから俄然面白く感じられてサクサク読めました。彼の名はドゥバイヨル。学校ではみんなから恐れられている暴れ者で言動もキツく、下級生をいじめたり老人を蹴り飛ばしたりするような不良少年です。リンツのことも酷い目に遭わせました。そんな彼なのに、とても魅力的なんですよ。いつも何かに腹を立てているように不機嫌で、けれど高貴な貴族の血が流れていると噂されてもいるみなしご。唾を吐いたり口汚く人を罵ったりするけど、顔立ちはどことなく気品があって整っている。矛盾だらけの彼がカッコイイ。いや、やってることは悪いことばっかりなんですけど。なんでしょうね、本当は内に秘めた何かがあるのかもと思わせる不思議な少年です。リンツの話を聞いただけで、その中に潜んでいる矛盾点に気づいたり名探偵ロイズと張り合うほどの頭脳を見せたりもします。ロイズも結構憎めない男で、彼とドゥバイヨル、そしてリンツの活躍する続編を読んでみたいです。続いてもおかしくない終わり方でしたし、是非。
2006.08.18 Friday * 18:39 | 講談社ミステリーランド | comments(2) | trackbacks(1)
* 『虹果て村の秘密』有栖川有栖
虹果て村の秘密虹果て村の秘密
有栖川 有栖

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 推理作家にどうしてもなりたい12歳の少年・秀介は、憧れの作家二宮ミサトを母にもつ同級生の優希(刑事になりたくてしょうがない)と、虹果て村にあるミサトの別荘で夏休みを過ごすことになった。虹にまつわる七つの言い伝えがあるのどかな村では、最近、高速道路建設をめぐって賛成派と反対派の対立が激しくなっていた。そんな中、密室殺人事件が起こり、二人は事件解明におとなも驚く知恵をしぼる。

 児童向けミステリシリーズとして刊行された講談社ミステリーランド。
 児童向けとはいいながら、ロジックと本格を愛する有栖川氏らしい論理的な謎解きが、充分大人の鑑賞にも堪える作品に押し上げています。謎を解いた子供たちが犯人と対峙する場面では、作者の優しさを感じました。途中で飽きることもなく、子供騙しだなあなどと思うこともなく、ラストまで一気に読めました。面白かったな、うん。
 作者のミステリに対する思いや子供たちへのメッセージが散りばめられていて、それが説教臭くなることなく優しい語り口の中に織り込まれている感じ。
2006.07.05 Wednesday * 02:32 | 講談社ミステリーランド | comments(0) | trackbacks(0)

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