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評価:
牧野 修
理論社
¥ 1,365
(2007-08)
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決して取り戻すことの叶わない何かが失われたのだ。(本文より)
シンクロナイズド・スイミングに打ち込む高校生香織の耳に、元同級生や教員の訃報が入る。彼らとは小学校が同じで、そのうち亡くなった元同級生とは「真の科学クラブ」という秘密のクラブで一緒だった。彼らの死と小学生時代の出来事に繋がりはあるのか。当時失踪した部長である美少年との関連は――。
牧野さんの作品はこれが初めてなんですが、随分とざっくりしてるというか、道をならすことなくザクザク進んでいくなあという感じでした。「え、なんでそんなこと出来るの?」「どうして急にそういうのが出てくんの?」と、とにかく「え?」「は?」が読み始めてすぐ頭の中にいくつも浮かび、そのまま細かい説明なしでどんどん引っ張っていかれます。「わかったわかった。細かいこと気にしちゃいけないんだね」と了解してからは、この話のスピードについていくことが出来ましたけどね。
あとがきを読んだら、作者もそこのところは意図して書いたようで、「リアリズムなんか知らぬ顔の、暢気な野放図さをか描きたかった」とありました。なるほどなるほど。大人になった今と子供の頃の自分の本の読み方は、当然変わっているのですが、それを再認識することになりました。きっと子供の頃に読んだら、細かいことや説明なんぞ求めずに、まったく気にすることなくどんどん読み進んだことでしょう。特に登場人物たちのオカルト趣味やクラブ活動を、面白く読んだだろうと思います。なんの裏づけもない全能感や選民意識というものが、あの頃の私にも多少ありましたもの。ここまでじゃなかったにしても。
論理的解決というのはなくて、ホラーミステリーと銘打っているけれどミステリ色はほとんどなし。ミステリを期待して読むと肩透かしを食らいます。オカルティズム溢れたホラー青春小説でした。主人公たちがきらきらして眩しいタイプとも違います。十代の頃に持っている孤独やプライド、潔癖さとそれゆえの行動(暴走?)が大半を占め、ある程度年を経た読者は唖然としながら「ああ、そんな感情もあったなあ」と苦く笑うことでしょう。
作品全体を蔽っているのは「水」です。そしてその「水」の描写が実に幻想的で美しかった。中でも主人公香織と、彼女が好意を寄せている聾者の少年滝田が、作中<水銀>と呼ばれる不思議な水の中で互いの気持ちが溢れ出るシーンは、実に魅力的でした。
物語が収束した後、たとえそこにある世界が平和で美しくとも、そのために失ったものを惜しみ、なんだか寂しい気持ちになったのですが、この感情はなんでしょうね。彼女たちが失ったものはなんでしょうか。