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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『水銀奇譚』牧野修
 決して取り戻すことの叶わない何かが失われたのだ。(本文より)

 シンクロナイズド・スイミングに打ち込む高校生香織の耳に、元同級生や教員の訃報が入る。彼らとは小学校が同じで、そのうち亡くなった元同級生とは「真の科学クラブ」という秘密のクラブで一緒だった。彼らの死と小学生時代の出来事に繋がりはあるのか。当時失踪した部長である美少年との関連は――。

 牧野さんの作品はこれが初めてなんですが、随分とざっくりしてるというか、道をならすことなくザクザク進んでいくなあという感じでした。「え、なんでそんなこと出来るの?」「どうして急にそういうのが出てくんの?」と、とにかく「え?」「は?」が読み始めてすぐ頭の中にいくつも浮かび、そのまま細かい説明なしでどんどん引っ張っていかれます。「わかったわかった。細かいこと気にしちゃいけないんだね」と了解してからは、この話のスピードについていくことが出来ましたけどね。
 あとがきを読んだら、作者もそこのところは意図して書いたようで、「リアリズムなんか知らぬ顔の、暢気な野放図さをか描きたかった」とありました。なるほどなるほど。大人になった今と子供の頃の自分の本の読み方は、当然変わっているのですが、それを再認識することになりました。きっと子供の頃に読んだら、細かいことや説明なんぞ求めずに、まったく気にすることなくどんどん読み進んだことでしょう。特に登場人物たちのオカルト趣味やクラブ活動を、面白く読んだだろうと思います。なんの裏づけもない全能感や選民意識というものが、あの頃の私にも多少ありましたもの。ここまでじゃなかったにしても。

 論理的解決というのはなくて、ホラーミステリーと銘打っているけれどミステリ色はほとんどなし。ミステリを期待して読むと肩透かしを食らいます。オカルティズム溢れたホラー青春小説でした。主人公たちがきらきらして眩しいタイプとも違います。十代の頃に持っている孤独やプライド、潔癖さとそれゆえの行動(暴走?)が大半を占め、ある程度年を経た読者は唖然としながら「ああ、そんな感情もあったなあ」と苦く笑うことでしょう。
 作品全体を蔽っているのは「水」です。そしてその「水」の描写が実に幻想的で美しかった。中でも主人公香織と、彼女が好意を寄せている聾者の少年滝田が、作中<水銀>と呼ばれる不思議な水の中で互いの気持ちが溢れ出るシーンは、実に魅力的でした。
 物語が収束した後、たとえそこにある世界が平和で美しくとも、そのために失ったものを惜しみ、なんだか寂しい気持ちになったのですが、この感情はなんでしょうね。彼女たちが失ったものはなんでしょうか。

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2008.01.11 Friday * 20:38 | 理論社ミステリーYA! | comments(0) | trackbacks(0)
* 『カカオ80%の夏』永井するみ
評価:
永井 するみ
理論社
¥ 1,365
(2007-04)
 主人公の凪(なぎ)は女子高生。突然書置きを残して姿を消した同級生、雪絵を探すことになる。凪と雪絵は特別親しかったわけではないが、雪絵が姿を消す前日に凪と一緒に買い物に出かけていたのだった。

 凪は周囲と群れるのをよしとしない、一匹狼タイプの大人っぽい雰囲気の女の子。かたや雪絵は真面目で清楚な普通のお嬢さんタイプ。正反対のふたりの間には特別な交友はなく、かといってそれで行方不明になってしまった同級生を放っておくことも出来ないところが凪にはある。一見きつく見られがちな凪の内面はとても繊細で、離婚した両親や、恋愛体質で娘よりも恋人に夢中になっている母親に対する孤独感などが、事件を追いつつ吐露されていく。
 とても読みやすくて先の気になる展開は、永井さんらしいリーダビリティだと思う。特に雪絵がモデルの卵や正統派お嬢様たちにネットを介して接触し、彼女たちに少々度を越した質問を投げかけたことの謎と、失踪の真相が絡まり始めるあたりからは一気読み。凪と馴染み店のマスターとの仄かに香る恋の予感もいい。少年少女向けということで、どぎつい犯罪シーンやはっきりとした恋愛のあれこれは出てこないけれど、老人介護や福祉についてさらっとした書き方ながら当事者の感情をしっかり書いてあったりもして、品良くまとまっていると思う。

 気になることがあるとすれば、ネットでメールを一度したくらいで即オフで会うってのは、無防備なんじゃ?ということくらいかな。老人介護に関する話も出てきて、そこで老婦人の危機管理の甘さを凪が内心で突っ込むんだけど、雪絵のことを仄めかされただけで嫌な感じの男の誘いに乗ってしまう凪も充分甘い。そうやって人のことはあれこれ気づいても自分のことは見えてないってのもまた、若さと青さを表しているのかもしれないけれど。
 単なる脇役だと思っていた登場人物が、読み終えたときには主人公と読者にとって大きな存在になっていて、それが意外で嬉しい半面もっと彼女たちの話を読みたくさせた。シリーズ化しても良さそうなキャラ配置だと思うんだけど、どうでしょう。マスターと凪の今後も気になるし。

 本ブログ 読書日記
2007.06.27 Wednesday * 12:56 | 理論社ミステリーYA! | comments(2) | trackbacks(1)
* 『タイムカプセル』折原一
評価:
折原 一
理論社
¥ 1,470
(2007-03)
告! 栗橋北中学校・三年A組卒業生の選ばれ死君たち
 「日時 三月十日、午後二時
  場所 栗橋北中学校 校庭
  ○出席 欠席」
  本日はご挨拶がわりの「サプライズ」を差し上げました。お気に召したでしょうか。
  お粗末さまでした。(本文より)

 中学校卒業から十年後、タイムカプセルを埋めた栗橋北中学三年A組の有志6人に、奇妙な手紙が送りつけられる。封筒には切手も差出人もなく、直接投函されるのだ。それも非常識な方法で。悪戯にしては度を越しているし、文面を見ると当時のことをよく知る人物かららしい。主人公綾香のもとにもそれは届いた。カメラマンの卵である綾香はそれを機に、タイムカプセルを埋めたメンバーたちに会って当時の話を聞くことにする。

 折原さんにしては読後感が爽やかだ!(笑)
 いやいや、もっとエグイものを期待してたとか、ねちねちとした妄執を予想してたとか、そんなことは……ないとはいえないんですけど。さすがに少年少女向けレーベルということもあり、そこらへんは抑えめになってました。それでもじわりじわりと迫ってくる恐怖感やいやぁな感じというのは健在で、エグ味が少ない分万人に受け入れられやすいのではないかなあ。盆の窪がチリチリするような危険信号とか、出てくる人物みんなになにか裏があるように思われるところとか、そういう「一番怖いのは人間」って感覚は大人向けでも子供向けでも変わることはなくて、ちょっと恋愛要素も加わったことでそれがいい具合に薄まってました。ここから折原作品に入るっていうのはいいかもしれない。このレーベルの趣旨にも合ってるし。

 タイムカプセルを埋めたのは実は8人いて、主要メンバー6人の他の2人は不登校児。卒業式にも埋設時にも立ち会っていなかった。そして主人公の綾香もまた、当時事故に遭ってその現場には立ち会っていなかった。彼女がメンバーに話を聞いていく中で出てきた「ホール」というキーワードと、それに対するメンバーたちの過敏な反応。なにかあるぞ、きっと悪いことだぞ〜と思わせたまま引っ張ります。合い間合い間にゴシック体のフォントで書かれた別の時系列の話が挿入されていて、現在と過去の出来事を並行して読み進めていくことになり、現在にひとつ疑問が生じると、それを煽るような過去の話や別場面の話が差し挟まれるので、いやがうえにも不安感が募ります。そんな中、不意に行方不明になる元学級委員長。タイムカプセルと掘り起こすべく集まるメンバーたち。結末や謎解きよりも、そこへ至る過程でのゾクゾク感を愉しむお話でした。

 「ミステリーYA!」第一弾の三冊を連続して読みましたが、これが一番私の好みでしたね。
2007.04.12 Thursday * 13:07 | 理論社ミステリーYA! | comments(2) | trackbacks(0)
* 『王国は星空の下』篠田真由美
評価:
篠田 真由美
理論社
¥ 1,365
(2007-03)
 王国は星空の下に
 神の吐息は世界樹の内に
 流転を超えて不滅へ
 闇を抜けて光へ
 叩かば開かれん
 求むれば見出さん
 青き森の騎士たちよ
 風のまなざしを目覚めしめよ
 さらば――(本文より)

 深い森にかこまれた全寮制の北斗学園。その広大な敷地の一角には戦前からの建物が点在し、異空間をつくりあげている。中等部二年で新聞部の三人、行動派のアキ、慎重派のハル、知性派のタモツは学園に伝わる「七不思議」をさぐろうとした矢先に、学内にある森の中で怪しい男と遭遇、そして数日後にはその男の首吊り死体を発見してしまう。

 ミステリというよりは、学園冒険ライトノベルといったテイスト。篠田さんが書いているからには、もっと歴史ある学園内でのゴシックミステリだと思ってたんですが、意外にも軽い味付けでちょっとびっくり。謎の金髪少年Jとか、才媛の美少女不破宙美、旧図書館の主であり数々のヒントと宿題を出す淵野先生など、主人公たちをサポートする人物配置がハリポタっぽいのもそう思った要因かも。
 今回は、登場人物のキャラ説明や北斗学園にまつわる七不思議の話に触れたところまでで、結構頁を割かれてましたね。第一の不思議にまつわる学内探検と殺人鬼との応酬がメイン。サブタイトルが「北斗学園七不思議1」となっているのでシリーズ化は確定か。これからひとつひとつ七不思議の謎を追っていくんだろうけど、その謎がすべて解けたとき、若しくは解いていく過程でこの1巻の冒頭に出てきた学園創立者の泰山と、謎の女性についてが明らかになるのかな。ここではまだ現実的な事件と殺し屋しか出てきてませんが、七不思議についてハルが調べていた中で儒教や仏教、占星術など篠田さんらしいキーワードがいくつも出てきていたんで、これからそれらが繋がっていくのか。
 12歳以上を対象とした「ミステリーYA!」の第一弾ですが、事件そのものは汚職や殺人など結構重いものが出てきます。でも、主人公たち三人組が明るく行動的なのでさらっと読めます。
2007.04.10 Tuesday * 20:29 | 理論社ミステリーYA! | comments(0) | trackbacks(0)
* 『雨の恐竜』山田正紀
評価:
山田 正紀
理論社
¥ 1,470
(2007-03)
 たった一日が過ぎただけでもう渓谷に警察の姿はなかった。吊り橋の両側に青いテープが張りめぐらされていた。渓谷から風が吹きあげていてテープの橋が音を立てて揺れていた。淋しい音だった。何かが決定的に終わってしまったという印象が強かった。
 ――終わってしまったのはわたしたちの少女時代かもしれない。(本文より)

 恐竜の化石発掘現場がある田舎町で、ある日事件が起こった。14歳のヒトミが通う中学の映画部顧問、浅井が吊り橋から転落死したのだ。事故か事件かはわからないが、ただひとつだけその現場には恐竜の足跡らしきものが残されていた。犯人は恐竜なのか? ヒトミは幼馴染でありながら疎遠になっていたサヤカやアユミと共に、それを調べ始めるのだが……。
 理論社から新設された新叢書シリーズ《ミステリーYA!》の第一弾。まず装丁が美しくて店頭で目を惹かれました。タイトルを雨の雫が囲っていて、背表紙も同じようになってるんですよ。表紙を見ても美しいし、書棚に差しても背表紙がまた映える。本文も見やすいフォントとレイアウト。そして頁数の部分はやはり雫で囲われています。
 肝心の中身はというと、ミステリ仕立てだけれどファンタジーであり、青春小説でありました。それでいて結構どろっとしたテイストもあって、14歳の少女たちから見た大人世界の嫌な部分や閉塞感が全体に漂ってましたね。それを嫌だ嫌だと思いつつ、大人の都合で振り回される子供という立場から脱したいという願いもある。読後の印象は、ミステリがどうとか謎解きがどうとかいう話よりも、子供から大人へと脱皮する瞬間のせつなさみたいなものがすーっと目の前を横切っていくような感じ。

 恐竜なんて現代にいるはずがない、けどそれじゃ残されていた足跡はなんなのか? これが第一の謎。そして第二の謎は、ヒトミ、サヤカ、アユミの中にある恐竜と遊んだ記憶。第三の謎は、二十年前にも今回の件と同様の恐竜の足跡と共に見つかった死体があったということ。もうひとつおまけに、ヒトミは浅井先生と仲良くしてたわけでもないのに、その死の周辺を調べることになる、その理由はなんなのかというところもちょっとした謎ではありましたね。それは読み始めてすぐに見当がつくんだけど。
 全体を貫くのは、少女が子供から大人へと脱皮する瞬間とその前後のぐるぐるした感情なので、こっちも同じところをぐるぐる歩かされているような気持ちに多々なりました。遅々として進まない謎解きと、結構な割合を占める恐竜話に、軽くイラッとしたり。ノスタルジックでせつなさの漂うラストに「ま、いっか」と思わされそうにもなったけど、君音(クイーン)くんの扱いは可哀相だー(笑) 一向に謎を解かない主人公たちに変わって、謎解き要員として出てきたキャラである君音くん。それなのに世渡り上手でいやなヤツと嫌われています。不憫な……。彼がいなかったら謎は解かれなかっただろうに、登場人物たちの誰もそれを評価せずに謎解きなんぞどうでもよくなっているあたりが本当にかわいそうです。名探偵好きとしては「彼に救いを〜」と思っちゃいました。
2007.04.10 Tuesday * 20:15 | 理論社ミステリーYA! | comments(0) | trackbacks(0)
* 【理論社ミステリーYA!一覧】
起爆剤としてのミステリー《ミステリーYA!》
※読了したものは書名から感想ページにリンクしてあります。

【2007年11月刊行】
 皆川博子『倒立する塔の殺人』
【2007年9月刊行】
 新津きよみ『ユアボイス 君の声に恋をして』
 大倉崇裕『オチケン!』
【2007年8月刊行】
 真瀬もと『キューピッドの涙盗難事件 ベイカー街少年探偵団(ストリート・イレギュラーズ)ジャーナル』
【2007年7月刊行】
 田中芳樹『月蝕島の魔物』(ゴシック・ホラー三部作1)
 牧野修『水銀奇譚』
【2007年6月刊行】
 鯨統一郎『ルビアンの秘密』
 早見裕司『満ち潮の夜、彼女は』
【2007年5月刊行】
 芦原すなお『カワセミの森で』
【2007年4月刊行】
 永井するみ『カカオ80%の夏』
 柳広司『漱石先生の事件簿』
【2007年3月刊行】
 折原一『タイムカプセル』
 篠田真由美『王国は星空の下 北斗学園七不思議』
 山田正紀『雨の恐竜』

【刊行予定・ラインナップ】(2007年11月30日現在)※順番は入れ替わる可能性があります。未刊行作品のタイトルはすべて仮題です。
●2007年12月刊予定
 岸田るり子『過去を呼ぶ手紙』
 倉阪鬼一郎『ブランク 空白に棲むもの』
●2008年1月刊予定
 澤見彰『燃えるサバンナ』
 海堂尊『医学のたまご』
●2008年2月刊予定
 篠田真由美『闇の聖杯、光の剣 北斗学園七不思議2』
 小前亮『シンドバッド23世の冒険 エイレーネーの瞳』
 山田正紀『オフェーリアの物語』
●2008年3月刊行予定
 横森理香『渋谷ビター・エンジェルズ』
●2008年4月刊行予定
 鯨統一郎『ABCDEFG殺人事件』
●2008年5月刊行予定
 松尾由美『人くい鬼モーリス』
 芦辺拓『月蝕姫のキス』
●2008年6月刊行予定
 山田正紀『オフェーリアのつづきの物語』
 折原一『クラスルーム』
●2008年7月刊予定
 あさのあつこ『曲がり角の向こうには』
 梶尾真治『小夢の奇妙な仲間たち』
●2008年8月刊行予定
 大原まり子『怪盗ルパソとロボット少女』
●2008年9月刊行予定
 柴田よしき『不思議な町のあしながおじさん』
 霞流一『ロング・ドッグ・バイ』
●2008年10月刊予定
 太田忠司『まいなす』
 永井するみ『レッド・マスカラの秋』
●2008年11月刊行予定
 大倉崇裕『オチケン!2』
 坂木司『山の学校』
●2008年度刊行予定
 北森鴻『七不思議の町』
 田中啓文『サキソフォンに棲む狐』

JUGEMテーマ:ミステリ
2007.04.09 Monday * 01:02 | 理論社ミステリーYA! | comments(0) | trackbacks(0)

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