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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『獣の奏者 II 王獣編』上橋菜穂子
評価:
上橋 菜穂子
講談社
¥ 1,680
(2006-11-21)
 人は、獣は、この世に満ちるあらゆる生き物は、ほかの生き物を信じることができない。心のどこかに、常に、ほかの生き物に対する恐怖を抱えている。
  (中略)
 武力で、法で、戒律で、そして、音無し笛で、互いを縛り合ってようやく、わたしたちは安堵するのだ……。(本文より)

 「闘蛇編」ではエリンが王獣のリランと心を通わせていくところで終わっていたけれど、この「王獣編」ではその交流そのものが問いかけになっています。
 獣と人は通じ合えるものなのか。
 通じ合えるとしたら、それは思いやりとか温かさからくるものなのか、それとも生理的な操作による主従関係なのか。
 あっという間に読み終えましたが、もう一冊分欲しいかな。エリンとリランについては、長々と続けてもこれ以上の展開はないように思えるけど、イアルとエリンの関係が気になるじゃありませんか!(笑) 凄まじい混乱と戦闘にまみれた国がどうなったのかも気になるし。ああでも、結局イアルは真王の護衛としてしか生きられず、エリンはリランと共に人前から姿を消して生きていくしかないのかも。だとしたら、ここで話を切ったのは僅かばかりでも想像の余地を残した終わり方なのかもしれませんね。読んだ人それぞれがさまざまな想像をして、彼らの行く末をたくさん生み出していけば、その数だけこのお話は続いていく。この後エリンはどうなったのか、真王と大公の長子はどうなったのか、国は、王獣は……。そんな風に読んだ者同士で話をするのにちょうどいい終わり方ともいえますね。

 本ブログ 読書日記
2007.09.03 Monday * 13:12 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『獣の奏者 I 闘蛇編』上橋菜穂子
評価:
上橋 菜穂子
講談社
¥ 1,575
(2006-11-21)
「エリン、おかあさんがこれからすることを、けっしてまねしてはいけないよ。おかあさんは、大罪を犯すのだから」(本文より)

 上橋さんのお話は、どんなに分厚い本でも気がつくと読み終わっているということが多いです。この本もそう。作られたお話の世界じゃなく、どこかに確かにある世界に入り込んでいくような、そんな感じ。

 獣ノ医術師の母と暮らす少女エリン。けれどある日母が看ていた闘蛇が死に、その責任を問われ、エリンの目の前で母親が処刑されてしまう。母親が命を賭して逃がしたエリンは、蜂飼いのジョウンに助けられ彼と暮らすことに。やがて山中で王獣と出会ったエリンはその力強さ、神々しさに魅了され、王獣の医術師になろうと決心するまでになるが――。

 「守り人」シリーズのチャグムもそうですが、この話のエリンもまた聡明な少女です。チャグムには父帝に命を狙われた過去があり、自由な生活よりも帝として生きなくてはいけない宿命を背負っていましたが、エリンにもまたつらい過去とこれから訪れるだろう過酷な運命が垣間見えます。
 エリンの場合、チャグムよりもさらに「悲壮」な様相があるかな。異民族同士の混血児として生まれ、密やかな差別に遭い、母は目の前で殺される。聡明な彼女は、「この世のいきものがなぜそうあるのか」を知りたいと願い、そして誰も知りえなかったその一端を掴もうとしています。
 しかしそれは、人間(じんかん)にあっては様々な思惑に利用され、翻弄されてしまうものなのかもしれません。

 まだ「王獣編」を読んでいないので、感想はここまで。すぐに続きを読み始めたいと思います。

 本ブログ 読書日記
2007.09.02 Sunday * 01:59 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『虚空の旅人』上橋菜穂子
評価:
上橋 菜穂子,佐竹 美保
偕成社
¥ 1,575
(2001-07)
「……シュガ」
「はい。」
「わたしは、あやうい皇太子だな。」
 シュガが、意味をはかるように眉をあげた。
「ときに自分がおさえられなくなる。神聖なるヨゴの皇太子としては、あまりにもあやうい性格をしているな。」(本文より)

 新ヨゴ皇国の皇太子チャグムを主人公に据えた、「守り人」シリーズの外伝。友好国であるサンガル王国の新王即位式に出席したチャグムと星読博士のシュガは、そこで起こった陰謀に巻き込まれてしまう。
 皇太子であることを厭う気持ちを持ちながら、聡明さと優しさで帝としての器を覗かせるチャグム。見ているこちらは彼以上に帝に相応しい者はいないと思うけれど、チャグムにとっては一生を宮と国に絡めとられた生き方なんですよね。個人としての幸せはなかなか得られないかもしれない。でも、国の末端の生活を経験した彼だからこそできる治世もある。この巻ではそんな彼の揺れる心が、「あやうさ」というキーワードで描かれています。
 訪れた海の国サンガルの第二王子タルサンとの対比がくっきりとしていて、民や自分の部下たちへ対する誠実さは似ているのに、向かう方向はまったく違っています。いや、チャグムが気づいていることをタルサンはまだ気づいていないのかな。それとも帝という国の最高位に着く予定のチャグムと、国王にはならない第二王子であるタルサンの違いでしょうか。もちろん持って生まれた性格の違いも大きいけれど、チャグムのほうが孤独でつらそう。国風も対照的。開放的なサンガルと、水面下の権謀術数が多い新ヨゴ皇国。この巻では、ストーリーよりもこのふたりの王子と国の違いが一番印象的でした。
 チャグムとシュガの主従関係にも礎が出来たように思います。この巻で起こった出来事は、今後のふたりの関係にとても大きな意味のあるエピソードとなったでしょう。
2007.05.12 Saturday * 06:05 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『夢の守り人』上橋菜穂子
評価:
上橋 菜穂子,二木 真希子
偕成社
¥ 1,575
(2000-05)
 ……人はね、生きるのに理由を必要とする、ふしぎな生き物なんだよ。
 鳥も獣も虫も、生きていることを思い悩みはしないのにね。ときに、人は、悩んだすえに、自分を殺してしまうことさえある。(本文より)

 シリーズ三作目。前二作に比べると、テーマが人の見る「夢」とそれを糧として育つ不思議な「花」なので、なんともあまくうつくしく不思議な雰囲気に満ちていました。特に「花」の咲く世界の描写には、噎せかえるような芳香すら感じられるほど。現実から逃避してしまうくらい幸せな夢で咲いた花なのに、途中からなにか毒々しいものを含んでしまいます。そこが、精霊や神とは違う、「人間」の見る夢ゆえなのでしょう。人の望む楽しさや幸せは、いつも正しく清いものばかりとは限らず、誰かが望むことの裏には、他の誰かの不幸が必要なこともある。それに囚われて自ら悲しむために突き進んでいくのか、引き返してやり直せるのかは、心の持ちようとどうありたいかを強く望む気持ちなのかもしれません。

 なんだか抽象的な感想になってますが、『闇の守り人』で故郷カンバルへ行っていたバルサが、この話では再び新ヨゴ皇国へ戻ってきて、タンダやトロガイ師そしてチャグムと再会するのが嬉しい。
 皇太子となったチャグムは、帝にならねばならぬ己の運命と、おそらく一生宮から出られぬことに閉塞感を感じ、夢に囚われてしまいます。そのあたりの遣り取りはちょっとせつない。チャグムが持っていたはずの諦観と責任感が、バルサやタンダへの想いに傾いていくのは仕方のないこと。
 けれど、『精霊の守り人』で彼は皇太子として帰ることを決めたのですから、もう市井の人々に混じって生きることはできぬのです。チャグムでなくても「どうして彼ばかりがこんなつらい選択を迫られるのか」と思うけれど、そのぶん賢さと度量を身につけつつある様子が窺えました。時折ちらりと覗く翳もあるものの、それも併せて彼はきっと良き帝になることでしょう。

 もうひとつ、この巻のキーパーソンであるユグノについて。
 彼のとらえどころのなさが、この話の雰囲気をよく表しているように思われます。悲しみや虚しさを抱いている人々を眠りに誘う歌をうたうユグノ。そのまま人々が夢に囚われて帰ってこなくても(つまり、死んでしまっても)、彼はそれが悪いことだとは毛ほども思っていません。だって、幸せな夢を見たままでいられるなら、それがその人にとって幸せだろうと思うから。どんなことがあっても生き抜こうとするバルサたちとは、根本から物の見方や考え方が違うのです。そんな彼の様子を見ていると、どうにももやもやするような、すっきりしないような気持ちになります。けれど彼が考えを改めることはないし、その必要もないのです。なぜなら、彼は「風」だから。いたずらに人の心を揺らしては、花が受粉するための夢を飛ばして去っていく風。だからこの巻を読んで、前二作と比べてすっきりしない感じを受けたとしたら、それは彼の有り様がどこか納得いかないのかもしれませんね。
2007.05.10 Thursday * 17:47 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『闇の守り人』上橋菜穂子
評価:
上橋 菜穂子,二木 真希子
偕成社
¥ 1,575
(1999-01)
 からだについた傷は、ときがたてばいえる。だが、心の底についた傷は、わすれようとすればするほど、ふかくなっていくものだ。
 それをいやす方法はただひとつ。
 きちんと、その傷をみつめるしかない。(本文より)

 本書は『精霊の守り人』の直後、チャグムを守りきったバルサは、タンダやトロガイと別れ、それまで忘れようと務めていたつらい自分の過去と向き合うため、数十年帰っていなかった生まれ故郷のカンバル王国にやってくる。昔、父を殺されたバルサは父の親友ジグロに助けられ、故郷を去ったのだった。そのことがどういう形で語られているのかようやく知ったバルサ。ジグロに着せられた汚名を晴らそうとするのだが――。

 前作から一転、女用心棒バルサの過去にまつわる陰謀と現在の故郷の様子が描かれた、これだけ単独で読んでもまったく支障のない話です。でも、やっぱり前作『精霊の守り人』を読んでいたほうが、バルサの回想シーンに出てくる人々の名前や、新ヨゴ皇国と比較した際のカンバル王国の貧しさがくっきりと際立って感じられることでしょう。潤った国ヨゴとは違い、ヤギを飼い、数年から数十年に一度<山の王>から送られる宝石によって生活が成り立っているカンバル。武人たちは冬になると出稼ぎへ出かけ、家を離れる。
 前作でちらっとバルサの口から出ていた、育ての親ジグロとバルサの過去がはっきりとわかる今回は、「精霊〜」とはまた違った、人の心や世の中にある「闇」について描かれていました。
 ヨゴとは違う神話や伝説のあるカンバル。私たちのいるこの世界もそうですが、土地が違えば価値観も思想も変わるのだということが無理なく自然に描かれていて、今更ながら、上橋さんの中にこの物語世界がくっきりと存在しているんだなと思いながら読んでいました。
 卑劣な前王や氏族の英雄が出てきます。卑劣ではあるけれど、彼らにとってはそれは当然の行為であり、とってつけた悪役ではない生々しい賢さや狡さがあって、なんかもうめちゃくちゃ腹立つんですよ(笑) 本を読んでいて本気で怒ってる私。そしてそんな彼らと相対したときのバルサの格好よさといったら――。「運命」という言葉で片付けることを許さない強さに惹かれますね。
 ジグロがバルサを守るために刺客を殺すたびに泣いていたその本当の理由がわかったとき、奸計は深く非常なもので、最初に見えたように思われたものよりももっと複雑に絡み合った苦味と哀しみがあったことに気づかされます。
 終盤の山場である闇の守り人<ヒョウル>との対峙は圧巻でした。このシリーズは、戦闘シーンの迫力も魅力のひとつだと思います。

 話の中にティティ・ラン<オコジョを駆る狩人>というのが出てくるんですが、それがもう可愛くて凛々しくて、今回だけでなくまたどこかで出てきてくれることを望みます。私は書籍版で読んでいるので挿絵もあったんですが、ほんとに可愛い。オコジョに乗った小さい人なんですけどね。
2007.04.24 Tuesday * 18:17 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『精霊の守り人』上橋菜穂子
評価:
二木 真希子,上橋 菜穂子
偕成社
¥ 1,575
(1996-07)
 100年に一度卵を産む精霊<水の守り手ニュンガ・ロ・イム>に卵を産みつけられ、<精霊の守り人>としての運命を背負わされた新ヨゴ皇国の第二王子チャグム。母妃からチャグムを託された女用心棒バルサは、チャグムに憑いたモノを疎ましく思う父王と、チャグムの身体の中にある卵を食らおうと狙う幻獣ラルンガ、ふたつの死の手から彼を守って逃げることになるのだが……

 『狐笛のかなた』ですっかりファンになった上橋さんの代表作「守り人」シリーズの一作目。
 まず、女用心棒のバルサが格好良い! ファンタジーの主人公というと、少年少女か、勇敢な青年か、美しいお姫様か…そんなイメージがある。けれどバルサは30代のオバサン(敢えて親しみを込めてこう呼ばせてもらおう)。のっけから意外性があって、「それでバルサはどうするの?」と彼女の行動ひとつひとつが気になって、先を読み急いだ。
 そして「物語」全体も面白い。上橋さんは、登場人物たちそれぞれの心情を書きながらお話を「物語る」のが上手い作家さんだと思う。目に見えない大きな何かにそうさせられているのではなく、それぞれが様々な思いを抱いて行動しているからこうなったんだ、と納得できる。各人がそれぞれ魅力的で。だからきっと、読む人によってお気に入りの登場人物がばらけるのではないだろうか。
 私はトロガイとシュガがお気に入り。あのふたりが、「ヤクーの知」と「天道」を額つき合わせて講義し合っている姿を想像するだけで楽しくなってくる。改竄されない真実と智慧が、後世に残されることを願ってやまない。
2007.02.24 Saturday * 01:08 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『狐笛のかなた』上橋菜穂子
 祝、文庫化記念!
 ということで、以前のブログに載せていた感想の再アップです。
狐笛のかなた狐笛のかなた
上橋 菜穂子

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 ひとの思いが聞こえる「聞き耳」の才を持つ少女・小夜が幼い日に助けた子狐は、恐ろしい呪者に命を握られ「使い魔」にされた霊狐だった。森陰屋敷に閉じ込められた少年・小春丸、そして小夜と霊狐・野火。彼らの運命は?

 いつのどの時代とは書かれていないものの、日本人なら誰でもがきっと心の奥底に持っていそうな原風景、なだらかな山肌豊かな緑心地よいせせらぎを聞かせてくれる小川、胸いっぱいに吸い込んだ草木の匂い、そんな風景がこの本を読んでいると目の前に広がります。それは美しくて、どこか懐かしい場所。
 はじまりは、強欲な一人の領主が弟の土地を奪ったこと。それにまつわる恨みつらみが、子の世代さらにまたその子の世代へと連綿と受け継がれ、もはや絡まりあった毛糸玉のごとく解すことなど不可能に見えますが、そう思っているのは実は当事者たちだけで。恨みの元になったものを相手へ返せばよい話。けれどそう簡単にはいかぬのが、人の感情というものですよね。親が受けた仕打ちを、殺された者を、思う心が相手をまた憎む。わかっていながら止められぬ。その様子がとても歯痒いです。
 そんな中で、小夜と野火が命をかけて互いを守る姿にじんわりと涙腺を刺激されました。途中からもう、話の大局よりも野火は死ぬのだろうか、小夜は自分の力で野火への思いをまっとうできるだろうか、とそればかり考えてページを繰り続け、ラストシーンでじわじわじわっと。
 物語における民俗、社会、人の心の描写がとても丁寧に書かれていて、著者の代表作と言われている「守り人シリーズ」も是非読みたいと思いました。ちなみに「狐笛」とは、呪者が霊狐の魂を封じ込めた笛のこと。
2006.11.30 Thursday * 14:01 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(0)

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