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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
人が、過ぎ去った日々を「記憶」という形でとどめるように、道や建物は、そして街は、記憶を持っているだろうか。(「第五章 光のしるべ」より)
かつて「彼ら」は、図書館という名前ではなく、「本を統べる者」と呼ばれていた。
多数の本を引き連れて世界の空を回遊し、「統べる者」同士が引き連れる本の多寡で覇を競いあったのは、もはや伝説にしか残っていない、はるか昔の話だ。(「図書館」より)
赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。
鼓笛隊は、通常であれば偏西風の影響で東へと向きを変え、次第に勢力を弱めながらマーチングバンドへと転じるはずであった。(「鼓笛隊の襲来」より)
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やがて、空の際が夜の色を深め、宵の明星が光る頃、それは始まった。
「あ……、光」
月ヶ瀬に、一つ、また一つと、明かりが灯り始めたのだ。光は、まるで一日の終わりの夕餉の明かりのように広がっていった。住む者のいない町に。
(本文より)
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出産で留守にしている妻に代わってひとり家にいる主人公のところに、近所の人と思われる女性が「回覧板に書いてあったでしょ! お宅だけなんですからね、早く二階扉をつけてださいよ」と文句を言いにきた。普段から回覧板など見ない主人公は、周囲の家々を見渡してどの家にも二階に扉がついていることを知る。二階扉というものの意味がわからないまま電話帳で調べた業者に取付を頼み、その使い方も知らぬまま放っておいたある日、妻から生まれたばかりの赤ん坊を連れて帰宅するとの連絡が入り……。
僕の記憶と彼女の記憶にはズレがある。昨日したこと、食べたもの、ふたりで旅したことのない場所での思い出話。思い違いの重なりなのか、彼女がおかしいのか。それとも自分の頭に問題があって食い違うのか……
「バスジャック」をすることがブームである世界の話。「バスジャック公式サイト」では、移動距離・占拠時間・総報道時間・オリジナリティの四つの観点からランキングが更新され、「バスジャック規正法」でバスジャックが法的に認められている。ある日主人公の乗ったバスで、バスジャック犯たちがバスジャック開始の名乗りを上げ……。
一人暮らしの主人公の部屋を、図書館と思い込んで本を借りに来る女性と主人公の話。
動物園であたかもそこに動物がいるように幻影をみせることを職業としている日野原(女性)の話。動物園の職員達は彼女に白い目を向け距離を置くが、その幻影の完成度に驚く。しかし、そこでの仕事をライバル会社にとられ……。
小学生の麻美は、家出した母を追って「つつみが浜」という見知らぬ土地をひとりで訪ねる。そこで知り合った不思議な人たち。精巧な人形たちと暮らす人々のいる「若草荘」。そこには麻美の母もいて――。
【収録作】二階扉をつけてください/しあわせな光/二人の記憶/バスジャック/雨降る夜に/動物園/送りの夏
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ある日ふと目にとまった町の広報での「となり町との戦争が始まりました」の文章。主人公は半信半疑ながらも、公募されている特別従事者に応募する。その任務とはとなり町のスパイ活動をすることなのだが、自治体が公共事業として戦争を行っているため、すべてが役所的な事務手続きで処理されていく。市の特別職員として印鑑と筆記具を役場に呼ばれたり。そこには戦争という生々しいものの実感はない。けれど、毎月発行されている公報では、交通事故者数などと一緒に明記されている「今月の戦死者数」がどんどん増え続けている。爆撃音も銃撃戦もない、いつもの一見平穏な町。戦争はどこで起こっているのか。