* スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集』ピーター・トレメイン
「あらゆることに、説明はつきます」とフィデルマはイレールに答えながら、墓の内部に視線をめぐらした。「でも、時には、それを見てとりにくいこともありますけれど」(「大王廟の悲鳴」より)

 七世紀の古代アイルランドが舞台の本格ミステリ、修道女フィデルマシリーズの日本オリジナル短編集。既刊の長編に手を出す前に、どんなものだか様子を知ろうと短編集から入ってみました。作品の発表と日本での翻訳刊行順がイコールではないようだし。古代アイルランドが舞台ですが、主人公が結構現代人と同じ思考をしているので、現代物と錯覚しそうになります言葉遣いは丁寧だけど現代語っぽいものがちらっと出てくるのは、原書のほうにもそう書いてあるんでしょうか。
 事件には宗教的な事柄が絡んできたりして、時代背景あってこその謎解きもあるので楽しめました。それにしても、ヨーロッパなどでは女性の人権がほぼ無視されていたこの時代に、アイルランドでは女性も学ぶことが出来、法律家として上位の資格も得ることが出来たというのは素晴らしいですね。女性がどんどん社会参加している様子が窺えます。このアイルランドの文化・風俗の描写が読みどころのひとつでもあって、それまでまったく知らなかった古代アイルランドに少し興味がわきました。

■「聖餐式の毒杯」
 ローマに出かけたフィデルマは、聖餐式において公衆の面前でワインを飲んだ若者が急死する場面に遭遇する。誰がワインに毒を入れたのか……。

■「ホロフェルネスの幕舎」
 幼馴染であり、アナムハラ<魂の友>でもあるリアダーンから助けを求める手紙を受け取ったフィデルマ。夫と息子を殺した容疑で逮捕された彼女を救うため、事件を調べ始めるのだが……。

■「旅籠の幽霊」
 王都を目指していたフィデルマは激しい吹雪に遭い、旅籠に一夜の宿を求める。その旅籠の主人達は様子がおかしくてなにかに怯えていた。話を聞くと、その旅籠に出る幽霊が自分達を呪っていると女将は言うのだが……。

■「大王の剣」
 アイルランド全土を統べる大王(ハイキング)即位の儀式を前に、王家伝来の宝剣<カラハーログ>が盗まれてしまった。その宝剣を見つけ出すために王都に呼ばれたフィデルマだったが……。

■「大王廟の悲鳴」
 死者の霊が現世に戻ってくるという日の夜、千五百年にわたって封印されてきた<死の王者>こと第26代大王ティーガーンマスの墳墓から悲鳴が聞こえてきた。王宮警護隊隊長のイレールらと共に封印を解いて中へ足を踏み入れると、そこには息を引き取ったばかりの男の死体があった……。

 中には、フィデルマが事件に関与してくることを犯人側が予め想定して起こったものもあって、なかなか面白かったです。謎解きの進め方も丁寧。これからシリーズを追いかけてみようと思います。

にほんブログ村 本ブログへ
【ほんぶろ】〜本ブログのリンク集
JUGEMテーマ:ミステリ
2010.01.16 Saturday * 02:08 | 海外ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『天使と悪魔 (上)』ダン・ブラウン (著)、越前敏弥 (翻訳)
評価:
ダン・ブラウン
角川書店
¥ 620
(2006-06-08)
「神はまちがいなく存在する、と科学は語っている。自分が神を理解することは永遠にない、とわたしの頭は語っている。理解できなくていい、と心は語っている」(本文より)

 ハーヴァード大の図像学者ラングドンは、欧州原子核研究機構(セルン)の所長から突然かかってきた電話を受けた。そして、ある紋章についての説明を求められる。それは十七世紀にガリレオが創設した科学者たちの秘密結社“イルミナティ”の伝説の紋章で、ある死体の胸に焼印として押されていたのだという――。
 『ダ・ヴィンチ・コード』のラングドンシリーズですが、こちらのほうが先の、シリーズ第一作なんですね。発端から展開まで、つくりは『ダ・ヴィンチ・コード』とそっくりです。扱っているのも秘密結社関係だし。あとはその秘められた過去とそれに基づく推論がどれだけ面白いかってところにかかってますが、なにしろまだ上巻なのでどれだけ楽しませてくれるか今の段階ではわかりません。
 映画化されたので観る前に読もうと、積読本の中から掘り出しました。う〜ん、これは単行本で出た2003年じゃなくて、文庫になった今読んでよかったかも。日本人研究者たちがノーベル物理学賞を受賞して、素粒子関連の文章や映像を目にすることが多かったから、この上巻の前半に書かれていることになんとかついていけた気がします。「あ、反物質って聞いたことあるぞ」ってくらいには(笑)
 物語はヴァチカンでのコンクラーベ(教皇選挙会)と大きくかかわるのですが、ここで出てくる前教皇の侍従(カメルレンゴ)を務めるカルロという人物が、早くもお気に入りです。

にほんブログ村 本ブログへ
【ほんぶろ】〜本ブログのリンク集
JUGEMテーマ:読書
2009.05.22 Friday * 19:19 | 海外ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『狂人の部屋』ポール・アルテ
「どうも気に入らないんだな」と彼はため息混じりに言った。「家族がひとり残らず古い屋敷に集まり、金持ちで気前のいい男が……小説だったらろくな結末にならないと、相場が決まってるんだが」 (本文より)

 まさにこの言葉の通り、奇怪な出来事と死人の出る展開になったわけです。
 ポール・アルテの作品を読むのはこれが初めて。なんでも「フランスのディクスン・カー」と呼ばれているそうではないですか。カーが好きなので、これは読まないとと思い手に取りました。探偵役を務めるアラン・ツイスト博士シリーズの第四作目。作者の長編小説としては五作目にあたるそうです。
 いつもなら、ミステリのシリーズものを読むときは、既刊のネタバレを避けるためシリーズの第一作目から読み始めるんですが、あらすじに惹かれたのと他作品のネタバレがなさそうに見えたのとでここから手をつけました。実際ネタバレはなかったです。しかも解説を読むと、この作品をアルテの最高傑作に推す声が多いとか。

 ハットン荘にはいわくつきの部屋があった。100年ほど前に、当時部屋に引きこもって小説を書いていた一族の青年が怪死したのだ。死因は不明。不思議なことに部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れており、青年は死の間際「罪人よ……死ね、炎に包まれて……」と言い残したという。以来、あかずの間となっていたその部屋を現在の当主ハリスが開き、それと時を同じくして奇怪な出来事が屋敷で起こり始めた――。

 この当主であるハリス・ソーンが怪死し、その後死んだはずの彼の姿が目撃されるなどの事件が起こるんですが、それについての謎解きは、終盤一気に解明されて気持ちよかった。なぜ部屋の絨毯は濡れていたのか。ハリスの妻セイラは何を見たのか。屋敷に住む者たちの運命を次々言い当てる青年は、真の予言者なのか。
 ただ、作者も探偵役のツイスト博士に言わせている通り、謎解きの大部分があることに頼りすぎている気もします。ハーストがツイスト博士に向かって言う言葉(P250.上段L6-9)も、まったくその通り。この部分は作者の述懐でしょうか。
 「なるほど」と思う部分と「それはどうかな」と思う部分とがあって、面白いんだけどちょっと惜しいなあと読了直後は思ってました。けれど少し時間を置いてみると、一部の隙もない完璧な真相じゃないところが、この作品の魅力なのかもと思い始めています。車で言えばハンドルの“遊び”部分のような、必要な隙なのかも、と。特にラストは、もう一度1ページ目に戻って読み返したくなる終わり方。そしてプロローグをもう一度読むと、全体に漂っていた空気が一段濃くなるような気がします。

にほんブログ村 本ブログへ
JUGEMテーマ:ミステリ
2007.12.14 Friday * 00:05 | 海外ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『10ドルだって大金だ』ジャック・リッチー
評価:
ジャック・リッチー
河出書房新社
¥ 2,100
(2006-10-13)
 実は『ダイアルAを回せ』(リッチー短編集三作目)を読もうとして、二作目である本書を読んでいなかったことを思い出しました。なんとなく、順番に読まないと気持ち悪いのでこちらを先に。
 『クライム・マシン』でも出てきた、ふたつのシリーズキャラクター(謎の怪人カーデュラとある時は迷刑事である時は迷私立探偵のヘンリー・S・ターンバックル)がまたここにも収められていました。カーデュラについては探偵事務所を開く以前の番外編的お話だけど、金欠病は相変わらずのようです。一方のターンバックルは、またしても見事な迷推理を披露していましたね。最初は鋭い推理だと思えるのに、なぜか彼の予想に反した形で事件が解決してしまう、愛すべき人物。今回、本書の後半にこのターンバックル物が続いて巻末を締めていたんですが、ラストの一編が掉尾に相応しい一編でした。
 ノンシリーズものでは、金庫にある金額と収支書の金額が10ドル合わない(しかも、少ないのではなく10ドル多い)「10ドルだって大金だ」、妻殺しの嫌疑をかけられた男の話「とっておきの場所」、名画の精巧な贋作に関する話「誰が貴婦人を手に入れたか」などが面白かったです。

【収録作】
 「妻を殺さば」「毒薬で遊ぼう」「10ドルだって大金だ」「50セントの殺人」「とっておきの場所」「世界の片隅で」「円周率は殺しの番号」「誰が貴婦人を手に入れたか」「キッド・カーデュラ」「誰も教えてくれない」「可能性の問題」「ウィリンガーの苦境」「殺人の環」「第五の墓」

【この作家の他の感想】
 ・『クライム・マシン』

にほんブログ村 本ブログへ
JUGEMテーマ:ミステリ
2007.11.30 Friday * 22:23 | 海外ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』ウィリアム・ブリテン
 巨匠J・D・カーに憧れ、自ら密室殺人を企てる青年。
 クイーン顔負けの論理で謎を解く老人。
 身に覚えのない手紙を受け取ったアメリカ在住のワトスン。
 ユーモラスな結末の表題作をはじめ、「エラリー・クイーンを読んだ男」、「コナン・ドイルを読んだ男」等、ミステリへの深い愛情とあざやかな謎解き、溢れるユーモアで贈る<〜を読んだ〜>シリーズ全十一編。
 付録として、チャールズ・ディケンズの愛読者が探偵として事件に挑む「うそつき」等三編を収録。EQMMの常連作家ブリテンによる、珠玉のパロディ群をご堪能あれ。(表紙見返しより)

 表題作「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」が妙に気に入ってしまいました(笑) バカミスとも言えるオチなんですが、これってカー作品を読んでいるとたまに出会う、「カー…あんたって人は……」と怒るよりもむしろ笑ってしまうようなしょーもなさと相通じるものがある気がします。まさか、そこまで計算されてるのか。
 そういえば以前、なんの本だったか「カー初心者に最初に読む本として薦めるならどれか?」について数名が話している文章がありました。そこで一致したのは、「最初に読む本はこれ!とひとつ挙げるのは難しいけれど、最初に読んじゃダメ!という本ならいっぱいある(笑)」ということだったのが印象に残ってます。
 そういう点で言うと、「コナン・ドイルを読んだ男」もラストでちょっとにへら〜とした笑顔になっちゃいましたね。「○○○かい!」と。

 さて、話を本書に戻して。
 冒頭の表題作がそんな感じの話でしたが、他の作品はみなちゃんとした(というのも語弊があるか)パロディミステリでした。一番のお気に入りは先にあげた表題作ですが、他にはラストの予想がつくもののその雰囲気に惹かれる「読まなかった男」、まさに些細なことから論理的解釈で真相を言い当て、ちょっぴりラストが良い話になっている「エラリー・クイーンを読んだ男」、ポアロばりの推理と「モナミ」の口癖を真似る天才少年の出てくる「アガサ・クリスティを読んだ男」あたりが好きかな。「ザレツキーの鎖」は、ルパン三世と銭形警部のような関係のふたりが出てきます。泥棒と警察ではないけれど、良い意味での好敵手。
 元ネタとなる作家を知らなかったのは、「ジョン・クリーシーを読んだ少女」でした。他の作品もそうですが、知らなくてもまったく問題なく楽しめます。知ってたら知ってたでニヤリとすることでしょう。

【収録作】
 「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」「エラリー・クイーンを読んだ男」「レックス・スタウトを読んだ女」「アガサ・クリスティを読んだ少年」「コナン・ドイルを読んだ男」「G・K・チェスタトンを読んだ男」「ダシール・ハメットを読んだ男」「ジョルジュ・シムノンを読んだ男」「ジョン・クリーシーを読んだ少女」「アイザック・アシモフを読んだ男たち」「読まなかった男」「ザレツキーの鎖」「うそつき」「プラット街イレギュラーズ」「好事家のためのノート」

にほんブログ村 本ブログへ
JUGEMテーマ:ミステリ
2007.11.28 Wednesday * 18:27 | 海外ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『治療島』セバスチャン・フィツェック
評価:
セバスチャン・フィツェック
柏書房
¥ 1,575
(2007-06-21)
「ご興味を持たれましたか? わたしを治療して下さいますか? もう先生のところに来ているんですもの」(本文より)

 有名な精神科医で資産家のヴィクトルは、愛娘が四年前に原因不明の病気にかかり行方不明となってしまったために身を持ち崩していた。診療所も閉鎖して別荘のある島に引きこもっていたが、ある日ひとりの女性が彼のもとを訪れる。統合失調症だと言う彼女が語る「妄想」は、ヴィクトルの娘ヨーズィの病気や失踪とあまりにも酷似していて、ヴィクトルは関連を疑い始めるのだが――

 なんでもドイツでベストセラーになっていて、映画化も既に決定しているとか。確かに続きが気になってどんどん読み進められました。しかし、読後感がやや薄いかな。謎の真相を隠すためには描けない部分がいろいろあって、それが物語の濃さを薄めてしまっているような。ネタバレになりそうで多くを語れませんが、ヴィクトルと関わる人々がもっと厚く描かれていればなあと、ちょっと思いました。特にロート博士。彼が動く場面は、少し唐突な印象ですね。ミステリというよりはサイコホラーかな。ジェットコースター型で一気に読めると思います。

にほんブログ村 本ブログへ
2007.11.05 Monday * 20:05 | 海外ミステリ | comments(6) | trackbacks(2)
* 『クライム・マシン』ジャック・リッチー
評価:
ジャック リッチー
晶文社
¥ 2,520
(2005-09)
 作者のジャック・リッチーは短編の名手と言われているとか。私は初読の作家さんなので、失礼ながら名前も知りませんでした。でも、確かにどれも短くてぴりっとした話でしたよ。

 表題作は、ある殺し屋のもとに「あなたの殺しの現場を見ていた」という男がやってくるところから始まります。彼はタイムマシンを発明し、それを使って主人公の“仕事現場”を見物していたのだといい、そんなことがあるものかと相手にしてなかった主人公が次第にその話を信じていくというものです。主人公も読者も、眉に唾しているのに騙されてしまうこの心地良さ。おおー!?
 「ルーレット必勝法」「日当22セント」「殺人哲学者」「エミリーがいない」がお気に入り。中には同じ主人公が出てくるシリーズものもあったりします。どれも短くて無駄を省かれた文章は読みやすく、ついつい一遍終わるともう一遍という風に頁を捲る手が止まらなくなります。

■収録作■クライム・マシン/ルーレット必勝法/歳はいくつだ/日当22セント/殺人哲学者/旅は道づれ/エミリーがいない/切り裂きジャックの末裔/罪のない町/記憶テスト/こんな日もあるさ/縛り首の木/カーデュラ探偵社/カーデュラ救助に行く/カーデュラの逆襲/カーデュラと鍵のかかった部屋/デヴローの怪物
2007.03.01 Thursday * 14:08 | 海外ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)

| 1/1Pages |