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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『悪党』薬丸岳
評価:
薬丸 岳
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,575
(2009-07-31)

 犯罪の被害に遭った者にとって、最も苦しいのは、加害者が幸せに暮らしていると知ったときだ。加害者が自分の犯した罪をこれっぽっちも反省していないと悟ったときだ。(「第二章 復讐」より)

 昔、まだ高校生だった姉を輪姦の末に殺害された過去を持つ佐伯修一は、婦女暴行犯に拳銃を突きつけたことで警察を懲戒免職になり、現在は探偵事務所の調査員をしている。佐伯の勤める探偵事務所では犯罪被害者に加害者のその後を調査する依頼も受けており、佐伯は様々な依頼人と出会い、その加害者たちの現在を調べることになる――。

 薬丸さんの作品はデビュー作からずっと読んでいるのですが、いつも読んだ後に考えさせられます。今回も、犯罪被害者遺族は加害者を赦せるものなのか、というテーマで読みながらどういうことをすれば償いになるのか、罪は帳消しに出来るものなのかなど、いろいろ考えました。
 といっても、表紙が与える印象ほどには暗く重たい雰囲気ではなく、薬丸作品の中では一番とっつきやすいのではないかと思います。それというのも各章ごとに一話完結に近い連作長編の形をとっていて、ひとつの依頼ごとに一応の帰結が見えるからで、中には加害者家族の苦しみを書いているものもあり、章ごとに角度を変えて描いているので読む者を飽きさせません。
 依頼者たちは加害者のその後を見て、煩悶しながらもそれぞれの判断を下します。ひとつの依頼が終わるたびにそれを見つめた主人公佐伯の心も動揺し、自分の姉を殺した犯人達をどうしたいのか悩みます。
 薬丸さんは、犯罪者よりもその被害に遭った側の苦しみをよく書く作家さんだと思います。普通のミステリやサスペンスが事件の始まりから終わりまでを書いているとしたら、薬丸作品は事件のその後を一貫して書いているように思うのです。犯人が捕まればそれで終わりではなく、殺された者達や残された者達のどうやって救われ、その痛みや苦しみはどう癒されるべきなのかを追い続けている、そんな印象を受けます。
 この話の主人公佐伯がどういう道を進むのか、読みながら復讐したくなる気持ちも痛いほどわかるし、かといってそうした場合、佐伯自身もまた加害者として周囲の人間を傷つけるかと思うと止めたい気持ちにもなります。最後のページまで読んで、私は満足して本を閉じました。

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2009.10.01 Thursday * 19:47 | 薬丸岳 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『虚夢』薬丸岳
評価:
薬丸 岳
講談社
¥ 1,575
(2008-05-23)
『刑法三十九条』
 心神喪失者の行為は、これを罰しない。
 心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する。

 『天使のナイフ』で乱歩賞を獲った薬丸さんの第三作目。少年犯罪、児童を対象とした性犯罪をテーマにしていた薬丸さんが次に取り上げたのは、精神鑑定によって不起訴や無罪となる犯罪についてでした。
 もし自分の愛する人を、家族を、殺した人間が刑務所にも行かず、裁判にかけられることもなく、わずか4年足らず後に街中ですれ違ったとしたら、どんな気持ちになるでしょう。話は「心神喪失」状態の通り魔に愛娘を殺された三上、事件が原因で三上と離婚した佐和子の再婚相手坂本、家出をしている風俗嬢ゆきの視点で進みます。この複数視点で語られる構成のせいか、前二作よりも若干読み進む速度が上がりました。場面転換が多いので、ぱっぱとページが進む感じ。
 三上の視点では心神喪失とはいったいどういう状況なのか、殺人を犯す瞬間は誰もが異常な心理状態なのではないか、なぜ人を殺して罪を問われないのか、といった犯罪被害者の家族の苦悩が描かれています。三上と佐和子が離婚した原因は、事件後佐和子が精神を病んだことにあるのですが、それを知らずに再婚した坂本の視点では佐和子の異常性が描かれ、それはそのまま一般的な精神障害者に対する周囲の反応でもあります。そして風俗嬢ゆきの視点では、精神疾患のある弟を持ち周囲から差別や嫌がらせを受けた経験が、過去の話として描かれます。三上の娘を殺した藤崎や藤崎と同じ病名と診断された佐和子、ゆきの弟らの視点が出てこないのは、当然といえば当然。彼らの見えているものを、私達は知ることが出来ないのですから。
 しかし、そうなると完全に理解することの出来ない彼らが犯罪を犯したとき、その精神を鑑定するということは果たして可能なのでしょうか。医師によっても鑑定結果に違いが出るとも聞きます。人の心に唯一の答えや方程式がない以上、なにを正常とし、なにを異常とするのか。負うべき責任能力とはどこからどこまでなのか。難しい問題ですが、考えずにはいられません。
 ただ、「精神に障害のある人」と「精神に障害のある犯罪者」を混同してはいけないと思いました。精神に障害がある場合、その言動を私達はなかなか理解できず、そして理解できないものに対して恐怖を感じます。その恐怖が差別となるのだということにも、本書は触れていました。
 次は、逆の視点から書かれた帚木蓬生氏の『閉鎖病棟』を読んでみようかな。

【この著者の他作品感想】
 『天使のナイフ』
 『闇の底』

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2008.07.26 Saturday * 02:35 | 薬丸岳 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『闇の底』薬丸岳
闇の底闇の底薬丸 岳 講談社 2006-09-08売り上げランキング : 29735おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 面白かったです。乱歩賞を受賞した前作は少年犯罪を描いたものでした。今作は幼い子供を襲う性犯罪を扱っています。重罪を犯しても、数年経てば社会復帰してくる犯人たち。一向に無くならない同様の事件。自分の子供や姉妹を亡くした被害者家族は、どこに救いを求めればよいのでしょう。

 主人公の長瀬刑事には妹をそういった犯罪で亡くした過去があり、母親はそのショックで精神を病み、その母親と離婚した父親は現在再婚して幼い娘がいます。彼と共に捜査をする村上刑事には被害者たちと同じ年頃の娘がおり、作中には他にも娘を持つ登場人物が数名出てきます。誰もがいつ被害者家族になるかわからない状況。それは犯人との接点云々ではなく、社会それ自体が駄目になってしまったがための危機感です。そんな中起こる、幼女を襲う事件を抑止するためとうたった、前科者を狙った連続殺人事件。
 実はこの連続殺人事件の犯人にも幼い娘がいるのです。彼は娘を愛し、娘が健やかに成長できる社会を守るため、少女を狙う者たちへ向けてメッセージを発信しようと決めたのです。前科者をひとりひとり殺していくという手段を使って。

 犯罪を捜査する刑事たちからの視点と、連続殺人犯“サンソン”の視点両方が同時進行で進んでいきます。サンソンが誰なのかというのが最大の謎であり、彼である可能性のある登場人物が幾人も出てきます。私は、ラスト近くまでこの犯人を見破れませんでした。けれど、彼のもうひとつの犯行動機は理解できる気がします。すべては愛する娘のため。最悪な事態を迎える前に、彼はそうしなければならなかったのでしょう。自分ではどうにもできない衝動ゆえに。それを思うと、この『闇の底』というタイトルが薄ら寒いほど怖いものである気がしました。人の心の奥には深い深い闇があって、更にその底を覗いたら、どんなものが見えるのだろうかと。

 読み始めは、犯罪を抑止するための連続殺人という点でちょっと『DEATH NOTE』と似てるかなと思ったんですが、読み進んでいったらそんなことはまったくなかったですね。あっちはキラがどんどん当初の目的からずれていって神になろうとしちゃったけど、サンソンのほうは自分がなにをしているのかをよくわかっているので。

 このラストには意見が分かれると思います。私は余韻が残って好みでした。
 サンソンと家族たちの遣り取りがとても穏やかで哀しかったなあ。
2007.01.26 Friday * 20:51 | 薬丸岳 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『天使のナイフ』薬丸岳
天使のナイフ天使のナイフ
薬丸 岳

講談社 2005-08
売り上げランキング : 706
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 桧山貴志は自分の留守宅で妻の祥子を惨殺された過去を持つ。生後五ヶ月の娘の目の前で妻を殺したのは、まだ13歳の少年三人組だった。少年たちは更生施設へ送られ僅かな年数で社会復帰し、そして四年後、そのうちのひとりが何者かによって殺された。「国が罰を与えないのなら、自分で殺してやりたい」と発言したことのある桧山は、たちまち疑惑の目を向けられるようになる。過去の事件を調べるうちに見えてきた真実は――。

 第51回の江戸川乱歩賞受賞作。少年犯罪がテーマです。ただちょっとだけ、最近よく見かけるようになった同じテーマのものと違うところがありました。少年法についての是非だけではなく、その後の更生について掘り下げているところです。むしろそちらがメインでしょう。少年の罪を裁けるかどうかよりも、罪をどう償い悔い改めるのか。真の更生とは?
 犯罪において、被害者側が圧倒的に虐げられた不利な立場であることは、いろいろな本や雑誌テレビで現在取り上げられています。犯罪者を裁いて欲しくて裁判などの行動を起こすのは被害者側で、経済的負担も大きい。少年犯罪の場合、裁判記録など公にされないので被害者家族にもその内容は知らされないず、少年法改訂によって閲覧できるようになった裁判記録も、謄写代という高い料金を取られるというのは、本書を読んで初めて知りました。被害者たちは、お金を払って情報を買うのだという現状を。そしてこの少年法のために事件の情報が公開されないことで、更なる事件が生じるのです。
 中盤まではだいたい予想どおりに話が進みますが、後半、それぞれの登場人物たちと事件とこのテーマがすべて繋がってゆくあたりは、頁を捲る手も速くなりました。タイトルの意味も、ああなるほど、と。本当の償いとは、更生とは、どうすればよいのでしょうね。少年犯罪をテーマに扱っていながら、読後感はそう暗くならず、どこか救いというか期待が持てる気がしました。
2006.01.21 Saturday * 00:42 | 薬丸岳 | comments(0) | trackbacks(0)

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