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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『宵山万華鏡』森見登美彦
評価:
森見 登美彦
集英社
¥ 1,365
(2009-07-03)

「宵山は終わらないよ」(「宵山万華鏡」より)

 祭りの雑踏ではぐれてしまった幼い姉妹の話(「宵山姉妹」)、“超金魚”を育てたと言う高校からの友人乙川に宵山を案内してもらうはずだった藤田が祇園祭司令部に引っ立てられてしまう話(「宵山金魚」)、つかみどころのない人物乙川に頼まれて大掛かりなある仕掛けを仕込むことになった学生劇団の話(「宵山劇場」)、宵山の日に娘が消えた叔父と姪の話(「宵山回廊」)、同じ宵山の日を何度も繰り返す男の話(「宵山迷宮」)、雑踏ではぐれた妹を探す姉が不思議な場所へ辿り着く話(「宵山万華鏡」)。

 祇園祭の宵山を中心に6つの話からなる短編集。それぞれ独立した話としても読めるけれど、6編を通して読むと妖しくも美しい宵山の風景が浮かび上がってきます。登場人物や出来事などがすこしずつ繋がっていて、導入はこちら側の話だったのに気がついたら虚実入り乱れた幻想的な物語の中にいる感じ。小学生の姉妹の話(妹の視点)で始まって、同じ姉妹の話(姉の視点)で終わり、それも内容がひとつの出来事の表裏になっているので綺麗に物語が閉じる心地良さがありました。
 私が好きなのはリプレイものの「宵山迷宮」。京都の妖しさを存分に味わえました。この話を含む3編に顔を出す謎の古道具屋・乙川をメインにした話が読んでみたいなあ。そのうち書いてくれませんかね。それから、『夜は短し歩けよ乙女』で、ドキドキさせてくれたゲリラ演劇「偏屈王」にかかわった人たちが出てきたりもするので、あちらの話を読んだ人には嬉しい後日譚も見ることが出来ます。

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2009.09.02 Wednesday * 19:47 | 森見登美彦 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『恋文の技術』森見登美彦
評価:
森見 登美彦
ポプラ社
¥ 1,575
(2009-03)
 せっかくの機会だから、俺はこれから文通の腕を磨こうと思う。
 魂のこもった温かい手紙で文通相手に幸福をもたらす、希代の文通上手として勇名を馳せるつもりだ。そしてゆくゆくは、いかなる女性も手紙一本で籠絡できる技術を身につけ、世界を征服する。
 皆も幸せ、俺も幸せとなる。
 文通万歳。 (「第一話 外堀を埋める友へ」より)

 おっぱい万歳……あ、いやいやいや、こほん。森見さんの新刊は、全編書簡のみで構成された非常に笑えるお話でした。教授に肩を叩かれ、能登半島の実験所に送り込まれた大学院生・守田一郎が主人公。あまり興味のないクラゲの研究に日々を費やし、しかし一向に実験の成果は上がらず、先輩研究員の谷口に罵倒されたり励まされたりしている。
 そんな一郎が無聊を慰めるべく京都の仲間達に手紙を書き送って始まった、数名との文通。ここに収録されているのは一郎が彼らに書いた手紙のみです。相手からの返信はいっさい載っていません。にもかかわらず、彼らの間にどんなやりとりがあったのかほんのり行間から漏れてくるのです。肝心な文面はわからないけれど、おおまかな雰囲気はわかる。想像をたくましゅうして、ひたすら彼らのやりとりを心の目で見るのです。これが面白い。
 マシマロのような外見を持つ友人・小松崎が恋をしたらしい、その相談に乗っていたと思ったら、小松崎が手紙に108回も「おっぱい」という言葉を書いてきて、そんな友人に呆れつつ、一郎もまた触発されておっぱいを語りおっぱいに思いを馳せて返事がおっぱいのことばかりになってしまう――なんて調子です。
 小松崎以外にも、京都の研究室で女帝のごとく振舞っている大塚女史や、家庭教師をしていたときの教え子・間宮少年、愚痴を書き連ねてくる学生時代の先輩・作家の森見登美彦氏、女子高生でありながらたびたび本質を突き「高等遊民になりてえ」と言う一郎の妹らが文通相手なのですが、読み進めていくとそれぞれに書き送ったことが繋がってきて、全体が立体的に見えてきます。
 なにぶん手紙ですから、一郎も相手に虚勢を張ったり本心を誤魔化するのですが、隠していても「ははあん」と推察できる、その微妙な匙加減がいい。そして一郎が弁解したり誤魔化したりする事の中でも一番は、学生時代から思いを寄せていた伊吹夏子という女性についてです。内弁慶ならぬ手紙弁慶、文通弁慶な一郎がなかなか書けずにいる彼女への手紙。果たして一郎は彼女に恋文を書くことが出来るのか。出来たとしたら、それはどのような恋文なのか。どうか彼の恋がうまくいきますようにと祈るばかりです。いや、きっとうまくいったんじゃないかな。一郎は、ヘタレだけれど一緒にいて楽しい人だと、どの手紙を見ても思いますもん。最後の手紙も、不器用で誠実な良い手紙でした。

【目次】
 第一話 外堀を埋める友へ
 第二話 私史上最高厄介なお姉様へ
 第三話 見どころのある少年へ
 第四話 偏屈作家・森見登美彦先生へ
 第五話 女性のおっぱいに目のない友へ
 第六話 続・私史上最高厄介なお姉様へ
 第七話 恋文反面教師・森見登美彦先生へ
 第八話 我が心やさしき妹へ
 第九話 伊吹夏子さんへ 失敗書簡集
 第十話 続・見どころのある少年へ
 第十一話 大文字山への招待状
 第十二話 伊吹夏子さんへの手紙

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2009.05.09 Saturday * 03:11 | 森見登美彦 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦
評価:
森見 登美彦
祥伝社
¥ 1,470
(2007-03-13)
「あるのだ。そういう友情もあるのだ。型にはめられた友情ばかりではないのだ。声高に美しい友情を賞賛して甘ったるく助け合い、相擁しているばかりが友情ではない。そんな恥ずかしい友情は願い下げだ!俺たちの友情はそんなものではない。俺たちの築き上げてきた繊細微妙な関係を、ありふれた型にはめられてたまるものか。クッキー焼くのとはわけがちがうのだ!」(本文「走れメロス」より)

 中島敦「山月記」、芥川龍之介「薮の中」、太宰治「走れメロス」、坂口安吾「桜の森の満開の下」、森鴎外「百物語」を、森見さん流にアレンジした短編集。私はこの中でいうと鴎外の「百物語」だけ未読であとは読んだことがあるのですが、どれも元の小説の文体や雰囲気を上手く出していましたね。有名な部分はそのまま引っ張ってきていたし、「桜の森の〜」はあの「ですます調」を再現していて、ちょっと幻想的な雰囲気が出ていました。
 自分が元ネタで一番好きなのが「桜の森の〜」であるせいか、本書の中でもこの話が一番気に入ったかな。「メロス」もいいんですけどねー。元ネタとは真逆の方向へ突っ走る意外性といい、“桃色ブリーフ”というインパクトといい、おかしさでいえば確かに「メロス」が一番ぐいぐいと読まされた。
 けど、「桜の森の〜」の雰囲気に惹かれるんだよなあ。安吾のほうは人の生首を欲しがる女だったけど、森見版の彼女が欲しがったものはなんだったんでしょう。男の視点で書かれているからそこのところははっきりとわかりませんが、女の側から見たらまた違う物語になるでしょうね。
 詭弁論部や象の尻など、『夜は短し歩けよ乙女』で出てきたキーワードがいくつも出てきて、ところどころでにやりとしました。それぞれ違う題材からなる短編集ですが、全体を通してリンクしている部分があるので、ひとつの群像劇と見ることも出来るでしょう。ただ、ひとつひとつはいいのに全体的に見ると弱い感じがしたかな。

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2007.08.10 Friday * 19:13 | 森見登美彦 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦
評価:
森見 登美彦
角川書店
¥ 1,575
(2006-12)
「奇遇ですね」
「たまたま通りかかったものだから」

 京都を舞台に、黒髪の乙女と彼女に恋をしてしまった同じクラブの先輩が繰り広げる騒動と顛末を描いたお話。可愛いお話ですねえ。とってもキュートなんですよ。主人公のふたりが。無垢で天然な彼女と、彼女の視界に入るため、いつも血の滲むような努力の末に偶然を装って現れる先輩。これだけ硬派に、そして一途に想われてみたいなあ。もうほんとに一度は死にかけてますからね、先輩(笑)

 春の夜の先斗町で、夏の神社の古本市で、秋の大学の学園祭で。ふたりは(というか、彼女とそれを必死で追いかけていく先輩の周囲では)いろいろなことが起こります。最初の先斗町でのお話ではまだそんなにぴんとこなかったんだけど、次の古本市の章で「おお〜っ」と物語に惹きこまれていきました。古本市には神がおわすんですよ。本好きや、古本市に行き会うと立ち寄らずにはいられぬ人には、「うんうん、そうそう」「耳が痛いなあ」って思う箇所がいっぱいじゃないでしょうか。古本市の神様はきっと本当にいるんですよ。私も溜め込んでばかりじゃなくて、さくっと読んで次へと繋いで本を生かさなくては。なむなむ。
 その次の学園祭のエピソードが一番お気に入り。乙女に引っ張られて、読者も次から次へと学園内を縦横無尽に駆け回ることになります。なにより、なんだかちょっぴり先輩が恰好いい。先輩視点で書かれているところではロマンチック・エンジン全開のヘタレだけど、乙女視点だと素敵に見えますもん。偏屈王とプリンセス・ダルマのゲリラ演劇が見たくなっちゃいました。特にラスト!

 ひとことでいうなら恋愛ファンタジーとでもいいましょうか。ちょっと癖があると思うので、人によっては読みにくいと感じるかも。私は気になりませんでしたね。この文体が全体を不思議な空間にしていたし、レトロな雰囲気を醸し出してくれてました。表紙のイラストがまた、ナイスアシスト賞をあげたいくらい本書の雰囲気作りに一役も二役も買っていると思います。途中何度か表紙の二人を見返しちゃったなー。
 ところどころ笑えるところもあったりして。私が一番笑ったのは「恐ろしい子!」(笑) そういえば、大学生の頃電気ブランを部室で飲んだことがあったっけなあとか、いろいろと自分の学生時代を思い出したりもしました。こんなに不思議な出来事に見舞われたことはないけど。京都を知っている人は更に楽しめるでしょうね。

 本ブログ 読書日記
2007.06.11 Monday * 20:45 | 森見登美彦 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『きつねのはなし』森見登美彦
きつねのはなしきつねのはなし森見 登美彦 新潮社 2006-10-28売り上げランキング : 14598おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。注目の俊英が放つ驚愕の新作。細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。さらに次々起こる怪異の結末は―。(「BOOK」データベースより)

 京都という土地には、どこかほの暗い闇の匂いがする。歴史ある町並みや重要文化財の数々が鎮座ましましているだけではない、土地の持つ霊的な力というものを感じてしまう。そんな土地柄だからだろうか、この本の中で語られる不思議譚がなんの解決もなく、読者をぐわりぐわりと揺す振るだけものであっても、なんとなく納得してしまう。
 「芳連堂」という名の骨董店、狐の面などなど、四つの物語が少しずつリンクしている。それはほんの微かな接点で、そして微妙にずれている。はっきりとしたリンクでないところがまた読んでいてもやもやとして、不安定な地面の上に乗っているような気にさせられる。
 読む前に期待し過ぎたかな。表題作の「きつねのはなし」以外は少し退屈してしまった。朧で淡い怪談ともいえるのだけど。
 四つの話が終わった後、読者の前に姿を現すのは、真っ暗な淵だろうか。
 それともつるりとして捉えどころのない狐の面だろうか。

<収録作>きつねのはなし/果実の中の龍/魔/水神
2007.01.23 Tuesday * 20:42 | 森見登美彦 | comments(2) | trackbacks(1)

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