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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン』小路幸也
「あの、急いでいますのでお礼も出来ないんですが、お名前を」
 からからと笑いながら、ひらひらと右手を顔の前で振りました。
「礼なんかいいさ。名前は堀田勘一ってんだ」
 (第一章「On The Sunny Side Of The Street」より)

 「東京バンドワゴン」シリーズの最新刊。これが4冊目ですかね。時代が昭和20年代へと遡り、堀田家の頑固親父・勘一とその亡き妻でシリーズの語り手・サチの馴れ初めと、ふたりが知り合うきっかけとなったとある<文書>についての話です。今までの話はご近所の「文化文明に関する些事諸問題」を解決していましたが、これはまたずいぶんと大きい話になっていました。それこそ、戦後日本を左右するほどの。
 終戦直後の昭和20年、子爵令嬢・五条辻咲智子は父・政孝からとある<文書>の入った箱を持って親類の家へ逃げるよう言いつかります。ところがそこへ向かう途中で追っ手に捕まりそうになり、それを堀田勘一という若者に助けられ――。
 我南人のあの口調の理由や堀田家の家訓の理由、藍子・紺・青の名前の理由など、このシリーズのルーツがわかり、今までちらほら話に出てきていた名前が当事者として活躍するので、シリーズ読者は家族の昔話を聞いているような気持ちになるでしょう。といっても、シリーズを読んでいなくてもなんら問題なく楽しめます。ここから入って、シリーズ既刊分をその先の物語として読む進めてもいいんじゃないかな。
 作中のキーパーソンとなるブアイソーなる人物は、実在したある人物を想像させますね。「従順ならざる日本人」とくれば。それに。バンドワゴンの馴染みの客で吉川という作家がちらっと出てくるんですが、これも戦後しばらく筆をとらなくなってしまったところなど、吉川英治をモデルとしているんだろうなあと思って読んでいました。そういうちょこちょこ出てくるお遊びも楽しいです。

 堀田家は今も昔も「LOVE」に溢れていました。そしてみんなの知恵と心意気で突き進んでいました。次は、我南人とその亡き妻の話が読みたいなあ。今回は勘一とサチに関するエピソードよりも、ジョーの生みの親がバンドワゴンに姿を表すシーンにぐっときました。
 集英社の公式ページを見たら、担当編集者さんが「とにかく、時代背景は今とまったく違っても、ああ、あの温かくて優しい<東京バンドワゴン>はここからもう始まっていたんだ、と思えるようなものがいいんです」とリクエストしたとか。なるほど納得です。

 ※集英社のサイトに試し読みのページがありますよ。

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2009.05.17 Sunday * 22:55 | 小路幸也 | comments(0) | trackbacks(2)
* 『スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン』小路幸也
 古書店「東京バンドワゴン」シリーズの三作目。赤ちゃんが二人も生まれて一層賑やかになった堀田家。さすがに今回からは人物相関図が付されていました。それと家や店舗の見取り図。今までイメージで読んでいたので、家の見取り図はなかなか重宝しました。家族それぞれがどんな配置で暮らしているのかわかると、より雰囲気が掴める気がします。
 で、今回の内容はというと、店の本が数冊並べ替えられている謎や買い取った本の表紙裏に「ほったこん ひとごろし」とクレヨンで書かれていた謎など、堀田家の面々やお馴染みさんやご近所さんひっくるめて、下町のノリと人情で事情が明かされていきます。
 大いなるワンパターンになりかけていますが、その予定調和がとても心地良いシリーズなんですよね。それに、なりかけてはいるけどワンパターンに陥っているってわけでもないんです。毎回持ち込まれる雑事や謎は、ちょっと不思議でほんのり後味が良くて時たまほろ苦い。三作目になってもちっとも飽きさせません。日曜の夕方になるとつい「笑点」を見てしまったり、なんとなく「サザエさん」をつけてしまったり、そういう感覚と似ています。
 ただ、四編収録されているうちのラストに配された一編は、藤島氏が大活躍過ぎて彼がいなかったら解決できていないのかも、とちょっと考えてしまいました。もっとも勢いのあるIT会社社長である藤島氏は、ある意味ジョーカーだと思うんですよね。それを出されたらなんでもありになってしまう、便利だけどちょっと危険なカード。彼に手を出されたら、大抵の無理は通ってしまいそう。そんな彼が協力してくれるのも堀田家の人々の人徳ゆえだとは思いますが、あまりそっちに頼ってしまわないように、いざって時のジョーカーとして取っておいて欲しいかな。藤島氏が好きなだけに。
 青とすずみさんの間に生まれた鈴花ちゃん、紺と亜美さんの間に生まれたかんなちゃん、藍子と結婚したマードックさんなどなど、家族が増えて手狭になってきた堀田家。藍子の娘花陽(かよ)がもう中学生になったんですが、意外と初恋を実らせてゆくゆくは藤島さんと一緒になるっていうのもありかなあ、なんて思います。

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2008.07.04 Friday * 19:38 | 小路幸也 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『モーニング Mourning』小路幸也
評価:
小路 幸也
実業之日本社
¥ 1,680
(2008-03-19)
「なんて言った?」
 ヒトシの問いに、淳平は少しだけ手を広げるようにしてから、言った。
「自殺するんだ。俺は」(本文より)

 タイトルの「モーニング」は、ラストシーンの風景の「朝」と物語の内容の「喪に服す」の両方にかけてあるのかもしれませんね。
 大学時代、ひとつ屋根の下で共同生活を送りバンドも組んでいたダイ、淳平、真吾、ワリョウ、ヒトシの5人。卒業してから20年の月日がが過ぎ去り、突然の事故で亡くなった真吾の葬儀のために集まった。その帰り際、淳平が「自殺する」と言い出し、他の三人はなんとかそれを阻止しようと「自殺の理由を当てたらやめる」約束をとりつけ、仲間だけのロングドライブが始まった……。
 椎名誠さんの『哀愁の町に霧が降るのだ』や高野秀行さんの『ワセダ三畳青春記』のような賑やかで楽しい学生生活を書いた本が好きなのですが、この話の中でも主人公達の学生時代が描かれていました。その年代によくある騒がしさと明るさとせつなさ。けれど自殺宣言をした友人を止めるための回想なので、そこには秘密や哀しい出来事も絡んできます。45歳の主人公たちにとってそれは過去ではあるけれど、ずっと忘れ得ぬ特別な時間。
 何があったかはネタバレになるので触れませんが、彼らの秘密に関しては私は共感できませんでした。全くといっていいほど。まあ、共感を得ようとして書かれたパートではないようにも思うので、作者と自分の感覚の齟齬を感じることもさほどなかったんですけどね。むしろ友人の自殺を止めるために長い長いドライブに出る、そのロードムービーな感じを楽しむものなんだろうなあと思います。車内という限定された空間の中での少人数による回想とディスカッション。こういう設定は好きです。
 ただ、最後の伏線の回収方法が、少々強引で納得できないものだったかな。茜が真吾に託したとされる手紙の件なんかは特に。ミステリとして読むと肩透かしを食らいます。ああ、それに読み手が男性か女性かでも感じ方が変わりそうだなあ。

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2008.05.22 Thursday * 15:51 | 小路幸也 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』小路幸也
 『東京バンドワゴン』の二作目。今回の話の中にも未解決の出来事があったり、惹きの強い終わり方であったりするので、次作が出ることも決定してるんでしょう。なのでもう「バンドワゴン」シリーズと言ってもいいかな。

 東京下町にある明治創業の古本屋「東京バンドワゴン」。大黒柱であり頑固な店主の堀田勘一、その一人息子の我南人(がなと)、彼の長男・紺、長女・藍子、次男・青、紺の奥さん・亜美、青の奥さん・すずみ、藍子の娘・花陽(かよ)、紺の息子の研人(けんと)、あとは猫が四匹、犬が二匹。この大家族が繰り広げる本と人情にまつわるエピソードの数々。語るのは既に物故した勘一の妻で幽霊のサチ。
 今回は季節ごとに話が綴られています。
・「冬」…中身をくりぬかれた古書と置き去りにされた赤ちゃんの話。
・「春」…売った本を変装して一冊ずつ買い戻しに来る客と常連客・藤島の話。
・「夏」…幽霊と話す少年と長い長い年月を経て思わぬ人と再会を果たす話。
・「冬」…マードックさんと藍子のイギリス行きと堀田家に新しい家族が増える話。

 相変わらずのホームドラマっぷりにほっと息をつける作品。のんびりゆるゆると読むタイプの本。ここにあるのは「LOVE&PEACE」。ホームドラマを緊張感いっぱいで見ることってないですもんね。またこの東京バンドワゴンに面々に会えたんだなあと古馴染みの一家の話を聞くような、そんな感じです。
 前作で青と結婚したすずみさんは、もうすっかり堀田家に馴染んでます。義姉である藍子や兄嫁である亜美とも、とっても仲良くやっていて羨ましい限り。なかなかこんな風に早々と嫁ぎ先に溶け込んで本当の家族のようになるのって難しい。
 一番印象に残ったのは「夏」の話だけど、多分メインの読みどころである再会話よりも、私は夜中にひとりで幽霊と喋る男の子の話のほうが強く残ってます。おばあちゃんは、どうしてもあの男の子のことを理解できないようだったので。彼が後に素敵な話を書く作家にでもなったら、この時のことを思い出してようやくわかってくれるのでしょうか。研人と仲良くなって、これからも彼には出てきて欲しいな。
 全体的に見ると、前作のほうが面白く感じました。二作目ってことで、登場人物たちに対する親近感はあるのだけれど、持ち込まれる謎が前作のほうがわくわくしたし、堀田家に関することも、今回の秋実についてより前回の青の母親についてのほうが読み応えがあった。

【このシリーズの感想】
 『東京バンドワゴン』

 本ブログ 読書日記
2007.07.03 Tuesday * 14:16 | 小路幸也 | comments(2) | trackbacks(3)
* 『東京バンドワゴン』小路幸也
 今、WOWOWではFUJI-ROCKの様子を放送していて、レッチリの演奏を見ながらこれを書いています。まとまりのない文章になりそうな予感(笑)

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 明治から続く下町の古書店<東京バンドワゴン>には、ちょっとワケありでおかしな四世代の大家族が住んでいます。頑固一徹な巨漢の家長勘一、伝説のロッカーと呼ばれている60過ぎても金髪で長髪の長男、その娘のシングルマザー、異母兄弟などなどなど。
 そんな堀田家の家訓は、
 「文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」

 そんなわけでご近所で起こったあれやこれやが自然とこの店に持ち込まれ、そして堀田家の面々が一致団結してそれに取り組みます。家族ならではの見事な連係プレー。あうんの呼吸というやつで、下手な会社よりもちゃんと組織立っています。小学生の曾孫たちまでが実にまあしっかりしてる。
 古書店が舞台なだけに本に関することが多いのですが、ひとつひとつの話に繋がりがあって――というか、謎や事件が持ち込まれるとはいえ、ひとつの家族の毎日が描かれているのだから日常がぶつ切りになるわけがないんですよね――最後のエピソードで大団円を迎えます。
 「寺内貫太郎一家」「ムー 一族」「時間ですよ」あたりのホームドラマを髣髴とさせる人情大家族小説です。著者自身もそれらのテレビドラマへのオマージュとしているようですね。家族の中だけでなく、そこに集うご近所さんや常連さんたちの下町らしい人情が味わえますよー。
2006.08.26 Saturday * 01:31 | 小路幸也 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『そこへ届くのは僕たちの声』小路幸也
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小路 幸也

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 植物人間を覚醒させる能力を持つ人がいるという噂と、各地で起きる奇妙な誘拐事件。無関係なはずの二つの出来事を結んだのは、“ハヤブサ”というキーワードだった。“ハヤブサ”とはいったい何なのか?―うちに秘めた「見えざる力」を駆使して、、次々と降りかかる試練を乗り越える子供たち。本当の友情と勇気を描いた物語。(「BOOK」データベースより)

 これは、ジュブナイルと呼ぶのが相応しいかな。あるいはSFファンタジー。行方不明になった子供が翌日何事もなかったように帰ってくる。植物人間だった人が意識を取り戻す。そういった現象に共通するキーワード「ハヤブサ」。不思議な力を持った子供たちが、純粋に「誰かを助けたい」という一念に突き動かされて活躍する話です。
 それをするのは彼らにとっても苦痛と実害を伴うものだけれど、自分たちにしか出来ないことだから自分たちがやると、潔いくらい真っ直ぐに取り組んでいきます。その姿に助力を申し出る大人たちも出てきます。もちろんそれでめでたしめでたしではなく、“力”に対する世間の畏怖の目やマスコミによるバッシング、同じ力を持つ子供間での考え方の違いなども描かれていて、ふわふわとした話ではありません。でも、やっぱり夢物語なんですよね。良い意味で。
 昔、NHKの少年少女向けSFドラマシリーズを見るのが好きでした。角川映画で製作された『時をかける少女』や『ねらわれた学園』を見に、友達と夏休みに映画館へ行ったこともありました。そんな私に懐かしいものを感じさせてくれるお話です。多少のご都合主義もどんとこい!(笑)
 思えばジュブナイルの中の少年少女たちは、いつでも地球や大切な誰かを守るために行動していましたっけ。誰かがやってくれるんではなく、自分がやらなくてはと。
 「昔からね、大人の眼に見えないものを見るのは、子供でしたでしょう?」(本文より)

 私はいつからそういった気持ちを忘れてしまったんでしょう。
 読み終わった後、ふと夜空を見上げてみたくなりました。
2006.08.17 Thursday * 18:36 | 小路幸也 | comments(0) | trackbacks(0)

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