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評価:
有栖川 有栖
文藝春秋
¥ 1,650
(2008-09-25)
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大阪府警に挑戦する
これは火村英生に捧げる犯罪だ(「火村英生に捧げる犯罪」より)
表題作は、そのタイトルからして期待させるものでしたが、読んでみると「……あら?」という感じ。これはシリアスな長編で読みたかったなー。けど、わかった上で再読すると笑いどころの多い話でした。作中、刑事達が火村とアリスについて話している場面があるのですが、大阪府警でのアリスの言われようったら……。ワトスン役はつらいなあ、アリス。
携帯の有料サイトに掲載された話なども入っていて、バラエティに富んだ短編集になってました。私の好みとしては、本格ミステリに対する茶目っ気の感じられる「あるいは四風荘殺人事件」が一番。見取り図が出てくると、心持ちテンションも上がります(笑) 火村とアリスと編集者の片桐が膝突き合わせて推理している、ワンシチュエーションのまま話が進んでいくのも好きな形。それに作中の亡き大御所が体感したであろうことを想像すると、可笑しさとちょっぴりの哀愁を感じます。
■「長い影」
廃屋となった工場で不審な長い影が目撃された後、両手両足を拘束され、口にガムテープを張った首吊り死体が見つかった。自殺を装った殺人とみる警察は、被害者と共にかつて強盗殺人容疑をかけられていた男を訪ねるが……。
■「鸚鵡返し」
火村がアリスに語りかける体で進んでいくショートショート。些細なアイロニーににやつくアリスに火村が語る過去のちょっとした事件。
■「あるいは四風荘殺人事件」
本格ミステリに対して批判的だった社会派ミステリの大御所作家が他界し、死後彼が書いたと思われる書きかけの本格ミステリの草稿が発見された。彼の娘からの依頼と編集者の片桐に頼まれて、その草稿に目を通したアリスだったが……。
■「殺意と善意の顛末」
追い詰められ、間抜けにもあっさり言質を取られてしまった犯人の浦井。そのきっかけとなったのは、現場に残された指紋だった……。
■「偽りのペア」
「まったく真実に至るヒントはどこに転がっているか判ったものじゃない。それは、アルコールがもたらす酩酊の中にも、婆ちゃんの小言の中にも不意に出現する」
下宿先の大家さんが言った一言がヒントとなり、ある女子大生殺人事件を解決した火村。婆ちゃんが言った小言とは……。
■「火村英生に捧げる犯罪」
大阪府警捜査一課に送付された一通の手紙。それは、なんらかの犯罪を匂わせる予告状だった。一方、アリスのもとには盗作のクレームを申し立てる電話が掛かってくるのだが……。
■「殺風景な部屋」
殺風景なコンクリートの地下室で発見された死体は、胸に刺さったナイフを蛍光灯の光に晒して仰向けに倒れていた。天候不良で足止めを食っている火村と電話で事件を説明していたアリスだったが、やがて火村が犯人の目星をつけたらしいことを言い……。
■「雷雨の庭で」
タクシー会社社長の轡田が自宅の庭で死んでいた。雨合羽を着用し、ポケットには軍手が入っていた。夫婦仲が悪かったのと隣人トラブルがあったのとで、犯人は浮気をしていた妻の幸穂か、隣人で有名な人気放送作家の早瀬のどちらかと思われた。死亡時の天候は激しい雷雨だったのに、なぜ轡田は庭で死んだのか……。
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