秋庭市のはずれもはずれ、ススキばかりがおいしげる斜面のど真ん中にたつ秋庭市立秋葉図書館、そこが文子の仕事場だ。無類の本好きである先輩司書の能瀬や日野らと、日がな一日あくびをしながらお客さんの少ない図書館で働いている。ところがある日を境に、職員の目を盗んで閉館後の図書館に居残ろうとする少年たちが次々現われた。いったい何を狙っているのか。(第一話 霜降―花薄、光る。)?のどかな図書館を優しく彩る、季節の移り変わりとささやかな謎。(「BOOK」データベースより)
町の外れにあって閑古鳥の鳴く秋葉図書館。それが建てられた経緯から始まって、そこで起こるちょっとした謎を司書たちが解き、そして少しずつ図書館に人が集まり始める様子が描かれています。収録されているのは5つの連作短編。
日常の謎だからと安心して読んでいると、これが意外と暗い真相が隠されていたりします。文章が平坦なのでさらっと読めるけど、最後の「清明―れんげ、咲く。」は、情景を思い描くとそこにはとても暗い風景が見えてくる。けど、一番気に入ったのもこの話なんですよね。
図書館に紛れ込んでいた一冊の本。そこに書かれた落書きから、十数年前に起こった老婆の変死事件と、ひとりの孤独な少年の痛々しい過去が浮かび上がります。冬の日に上着もなく汚れたシャツ一枚で用を足しに行かされる少年。家に帰っても食事が用意されていることもなく、温かい言葉をかけてくれる者もない。真相がわかってくる過程もいいんですが、むしろその後日談の部分がよかったかな。「再生」って言葉が合いそうなラストでした。
ところで、第5話目に出てくる能勢さんの奥さんが探していた本。あれって、新潮文庫版の『風と共に去りぬ』かな? 新潮文庫版だと、背表紙は茶色から黄色へのグラデーションじゃなかったでしたっけ。でもそれじゃメジャー過ぎて、奥さんが「何十年も見つけられなかった」っていうのはちょっと変ですね。