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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『風に舞いあがるビニールシート』森絵都
風に舞いあがるビニールシート風に舞いあがるビニールシート森 絵都 文藝春秋 2006-05売り上げランキング : 138おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 森さんの新作にして直木賞受賞作。6つのお話の入った短編集。

■器を探して
 気まぐれでわがままなパティシエ・ヒロミの作るスイーツの虜になってしまった彼女付きの秘書・弥生は、自己犠牲を伴いながらも彼女の作る菓子から離れられずにいたが、あるクリスマスイブの日にプディングの器を探しに出張を言いつけられてしまう。
 過去に何度もヒロミによって自分の恋愛を壊されながらも、彼女のケーキにひれ伏している弥生。読み始めは「もうそんな女に振り回されるのはやめにして、結婚しちゃったほうがいいよ」と思い、その後弥生の彼氏・高典の台詞を読んでいるうちに「こんな男やめときなって!」と思った……のに、最後には一番性質が悪いのは弥生本人じゃなかろうかとちょっと怖くなりました。なぜなら弥生はヒロミに隷属しているようにみえて、実はヒロミがリタイアすることも方向転換することも許さないところがあるように見えるから。すべては彼女の愛する「ヒロミの作るスイーツ」のために。それが証拠に後半の彼女はそれまでと一転してヒロミからイニシアチブを奪い取って説得し、恋人の高典も言いくるめてしまいます。普通なら、ふたりに「もう一度いちから出直そう」または「もう終わりにしよう」と言うところなのに。そしてラストの行動。……怖い。怖いですよ、この人!

■犬の散歩
 保健所に収容された犬たちの里親探しのボランティアをしている主婦・恵利子。彼女は犬たちの面倒を見る費用を稼ぐためにスナックに勤めている。
 生活の基準を「牛丼」におき、その単価ですべてを計るというエピソードはなるほどと思ったものの(私もよく「これを買わなかったら本が何冊買えるか」と考えるので)、主人公恵利子がどうにも好きになれませんでした。そしてビビという犬の行く末についても、「なんだこの流れ…」と胸の奥がもやもや。恵利子と姑がビビのことを語り合うシーンなどは体がむずむずしました。私も子供の頃から犬が大好きで昔飼っていたこともあったので、その可愛さ愛しさ死ぬまで面倒を見ることの責任の重さというのは知っているつもりなんですけど……。どこが私の神経に障るのかと読み返してみたところ、恵利子のしていることが“今はまだ”若奥様のオママゴトめいて見えるからだと気づきました。義父の建ててくれた家に住み、ローン知らずで今までエステや優雅なランチをとっていたお金を犬のため使っていたけど、それはみんな旦那様の稼いだお金だということにはたと気づいて働きに出ることにする。昼間は犬の散歩があるから夜の商売に。いきなり犬を何匹も引き取って世話をするってだけでも普通は認めてもらえないところを、犬の費用を稼ぐために水商売に出ることを許してくれるとは、なんと奇特な旦那様か。恵利子が公園で初老の男性にキツイことを言われるシーンでも、あれくらいのことで言葉を失って立ち竦むのは――まあ性格の違いもあるでしょうが――きっと今まで人の悪意や妬みに間近で接してこなかった人なんだろうなあ、と。なにより、スナックで客からもらったお金についての対処と態度が納得いかないのです。

■守護神
 大学の二部学生のレポートを代筆してくれるというニシナミユキ。彼女はその内容の確かさに加えて、相手の文章の癖までも似せて書いてくれるというレポート代筆の達人。そんな彼女の噂を聞いて主人公・祐介はレポートの代筆を依頼するのだが……。
 本書の中で一番好きなお話です。作中に出てくる『伊勢物語』や『徒然草』の解釈が面白くて、そのふたつを読み返したくなりました。話も前半と後半とではがらっと主人公に対する印象が変わりますし、途中からは祐介を励ましたくなりました。茶髪で軽めの男をもてはやすような人間とは無理に合わせなくたっていいさ! 学者やその道の専門家は、みんな鬱陶しいくらいそれが好きで飽かず黙々と打ち込んでるんだから。この話で祐介から発せられる「文学が好きで好きでたまらないんだ!」というオーラが実に気持ちよかったです(笑) 彼にエールを!

■鐘の音
 仏像に魅せられた潔は仏像の修復師に弟子入りするが、あまりに尋常でない思い入れから常に師匠とぶつかっていた。そんな潔がある事件をきっかけに仏像から離れることになるのだが……。
 偏執的なまでに仏像を愛している男・潔。もっとドロドロした展開になるのかと思いきや、最後があっさりして見えたのは過去の回想から現在へと戻ってきたせいでしょうか。

■ジェネレーションX
 これは軽快なテンポで読めて、読後がちょっぴり爽やか。クレーム処理に向かうサラリーマン・健一と得意先の青年・石津の道行き。車の中で携帯を使って次から次へと連絡を取る石津。いまどきの若い者はと多少苦く思っていた健一だったが、聞くともなしに耳に入ってしまう石津とその友人たちのやりとりにだんだん興味が出てきて――。
 ふたりの会話と石津が携帯の向こうの相手に向かって話している言葉で話は進んでいきます。こういうことありますよね。電車の中でも町中でも、最初は苦々しく思っていた携帯電話のやりとりが耳に入ってきて次第に気になっちゃうってこと。「それは違うって」と話に心の中で突っ込んだり、声の様子や話し振りから密かに心配したり。はじめのうち、石津とその友人たちのやりとりは10年ぶりの同窓会を開こうとしているものだと健一には聞こえます。が、それは実はただの同窓会ではなくてある約束を果たすための再会だとわかります。そこら辺からの健一の気持ちの変化やラストの収まり方が明るくていいですねえ。

■風に舞いあがるビニールシート
 国連難民高等弁務官事務所の東京事務所に現地採用になった里佳は、上司のエドと付き合うようになり結婚する。ところが東京勤務を終えたエドは紛争地域へ旅立ち、やがてふたりはお互いを思い合いながらも離婚することに……。
 森さんすごく取材してるなあと感心はしたものの、内容についてはそれほど打たれるものがありませんでした。すべて予想通りに話が運んだからかも。ただ、ラストの「平和ボケ万歳だ、望むところだ」のあたりは、わかっちゃいてもぐっときました。
 ※第135回直木賞受賞作
 【収録作】器を探して/犬の散歩/守護神/鐘の音/ジェネレーションX/風に舞いあがるビニールシート
2006.07.24 Monday * 00:02 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(2)
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2011.01.19 Wednesday * 00:02 | - | - | -
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妄想キャスティング――森絵都【風に舞いあがるビニールシート】
ヒロイン「里佳」の妄想キャスト案について、ご意見をお寄せくださった皆様、誠にありがとうございます。 こちらに追記として掲載させていただきました。 さて、妄想読書人ぱんどら自身の考えがようやくまとまった
| ぱんどら日記 | 2006/08/21 9:21 AM |
森絵都【風に舞いあがるビニールシート】
私は誰も愛したことがない。 男性とおつきあいした経験はあっても、「そこに愛があるのかい?」と少し昔のドラマの台詞みたいなことを問われると、「あるよ」と断言できる自信がない。 過去の恋愛は終わったことだ。今更
| ぱんどら日記 | 2006/08/21 9:22 AM |
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