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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『でかい月だな』水森サトリ
評価:
水森 サトリ
集英社
¥ 1,470
(2007-01-06)
 「理由はどうあれ君は夜にひとりでびしょ濡れで、だったらぼくは君の夜に付き合うのみさ。他に何ができるっていうんだ。僕には太陽なんて作れやしないんだ」(本文より)

 私はいつも、修学旅行では最後まで起きているタイプだった。
 頑張ってそうしているわけじゃなく、「悪いけど先に寝る」と言って布団に潜り込むのに、目を瞑っても寝付けなくて取り残されるタイプ。「えーもっと喋ろうよ」「今夜は起きてようよ!」という子達のほうが、ずっと早く寝息を立てる。気がつけばしんとした部屋の中でひとり。むくりと起き上がって「あーあ、また寝そびれた」と溜め息をつく、そんなタイプ。
 この話の主人公がまさにそれ。修学旅行で云々じゃなく、この本の中で訪れる「心の平安ブーム」とでもいうべき波に取り残されてしまうのだ。「みんなでひとつになりましょう」的な平和なんだかキモチワルイんだかよくわからないウェーブ。周りがみんな催眠術にでもかかったように取り込まれてゆく中、ただひとり取り残される主人公。その気持ちがわかるだけに、読んでいてところどころ痛かった。

 バスケ部所属の主人公・幸彦は、友人・綾瀬にある月の晩崖から蹴り落とされて瀕死の重傷を負う。奇跡的に命を取り留めたが、右足は数度の手術と辛いリハビリをもってしてももう二度とバスケの出来ない代物になってしまった。そしてなぜこんな目に遭ったのかなんの理由も聞かされず、謝罪も弁解もないまま綾瀬は更生施設へと送られてしまう。
 表面上は明るく恨み言も言わない幸彦だが、その内面では悶々と日々を過ごし、一学年遅れて復学した学校では、天才でペテン師な中川や邪眼を持つと噂される少女・かごめらと関わりを持つようになり――。

 かなりヘヴィなシチュエーションにもかかわらず、停滞せずにどんどん先を読ませるのは、登場人物たちが魅力的なのと瑞々しい文章のせいだろうか。この文章はなんというか、とても読んでいて気持ちがいい。目が滑ることもなく、陳腐な言い回しもなく、かといって変にこねくり回したマニアックなもない。読んでいて文章が胸に浸透する感じ。
 幸彦の一人称で進む話は彼の事故後の心理を丁寧に拾っていて、周囲が悪し様に綾瀬を罵るため自分は擁護するしかなくなってしまうところや、それが鬱屈した怒りへと変わるところ、そして自分の中のどす黒い部分を正視しなければならなくなるところなど、普通なら食傷気味に感じてもおかしくない内面描写の連続を不思議にさらりと読ませてくれる。
 後半話はSF要素がどんどん膨らんでくるけれど、それまでの青春小説が破綻することなく、逆にそこからさらに青春小説色が濃くなるというのも面白かった。

 なぜ綾瀬は幸彦を蹴り落としたのか――。常に幸彦と読者の中にある謎。それがラスト近くで明かされた時には「ちくしょー!そういうことか!」と頁を捲る手も早くなった。そして予想していた大団円を裏切る結末。……やられた。読者が涙ぐむような「いい話」に向かわずに我が道を突き進んでいく終幕がいっそ清清しい。かといって救いのない話でもない。なんだろう、この爽快感さえ漂うラストは。こんなにもせつないのに。

 キャラクターについてはライトノベルっぽく感じる部分もあるものの、みなくっきり描き分けられていて魅力的。かごめや中川はもちろん、主人公幸彦も綾瀬も、幸彦のクラスメートや家族も、誰一人としてぼやけた印象の者がいなかったと思う。
 特に中川には主人公同様、私も痺れてしまった(笑) 冒頭に引用したのは中川が幸彦に言った言葉。どうしようもなくもがいているときにこんなこと言われたら、そりゃ痺れるしかないでしょう。もうひとつ、中川の名言がある。
 「沢村君、生きてりゃこの先まだまだ悪いことがいっぱいある。――だから生きよう」(本文より)

 ただひとつだけ言うと、主人公とその家族の関係をもう少し書いて欲しかった気がする。その後を想像することもできるけど、家族側から見たらフォローが欲しいかな。

 この作者はこれがデビュー作。表紙と新聞広告の文面に惹かれて手に取った。いい出会いだったなあ。理屈じゃなくて感覚で、今とてもこの本が好きだと思う。これからも要チェックな作家さんだ。
2007.03.22 Thursday * 18:54 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(4)
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2011.01.19 Wednesday * 18:54 | - | - | -
Comment
おもろい
| jdjg | 2007/08/12 12:18 PM |
面白かったですよ、この本。
| たかとう | 2007/08/13 1:12 AM |









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