* スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 「恐ろしき錯誤」江戸川乱歩
 北川氏の歓喜は勝利の悲哀に転ずる一刹那前のクライマックスに達していた。
 彼は今、歩きつづけながらベースボールの応援者達が、「フレー、フレー、何とかあ」と喚いて躍り上る時の様に、躍り上った。そして、気違いの様に涎を垂らしながら、ゲラゲラと笑った。夥しい汗が、シャツを通して、薩摩上布の腰のあたりをべっとりと湿していた。真赤に充血した顔からは、ぽとりぽとりと汗の雫が垂れていた。(本文より)

 北川氏は愛妻を火事で亡くした。仕事にも行かず、家で泣き暮らしていた彼だが、友人から火事当日の話を聞いて、妻がある男によって謀殺されたのではないかと思うようになる。そしてとうとう復讐を決行するためにその男のもとを訪ねるのだが……。

 北川の異様な歓喜ぶりに「うわあ、こいつなんか怖い」と目が釘付け。乱歩はこういうイッちゃった人間や、なにかに異様に固執する人間を書くのが上手いですね。夏のじりじりした暑さと相まって、北川の尋常でない様子が終始鬱陶しくまとわりつく。彼の長談義を読んでいるうちにその妄執にひきずりこまれそう。ただもう北川という男のキャラクターに圧倒されます。
 復讐するのにそんなまわりくどい方法をとらんでも、と思わなくもないのですが、こういうやり方を好むところが彼の性質をよく表してるのでしょうがない。即実行断罪するのではなく、相手の顔色を窺いながらじわじわと楽しむようなところがね。そのくせ詰めが甘いんだよ、北川! 練りに練った計画が……、ああもう。
 結局、真相はどっちなのでしょう。犯人は誰なのか。そして本当に夫人は謀殺されたのか。私はなんだか夫人が自殺したようにも思えるんですが。
 まあ、何事もあんまり思い詰めないほうがいいですよ。

■出版社■
 光文社文庫 『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』所収
2007.04.21 Saturday * 00:05 | 江戸川乱歩 | comments(0) | trackbacks(1)
* スポンサーサイト
2011.01.19 Wednesday * 00:05 | - | - | -
Comment









Trackback URL
トラックバック機能は終了しました。
江戸川乱歩
江戸川乱歩江戸川 乱歩(えどがわ らんぽ、男性、1894年10月21日 - 1965年7月28日)は、日本の推理作家、評論家である。本名は、平井太郎(ひらい たろう)。筆名は、アメリカの文豪エドガー・アラン・ポーをもじったもの。日本推理作家協会初代理事
| ゆうの記録 | 2007/05/18 6:16 AM |
<< 『ハルさん』藤野恵美 | main | 『夏の名残りの薔薇』恩田陸 >>