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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『凍りのくじら』辻村深月
 藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語。(「BOOK」データベースより)

 正直言ってこの主人公が好きになれず、本書の4分の3くらいまではずーっと鬱陶しい気分で読んでいた。話も進まないし、主人公は傍から見てれば特別でもなんでもないのに、やけに自分は世界から断絶されていると思っているようだし。孤独に苛まれているというよりは、淋しいと素直に言えずに変な拗ね方をしている頭でっかちな女子高生という感じ。
 全編に散りばめられた「少し・ナントカ」という分類にもうんざりしていた。なんかもう全体的にイタイのだ。「痛々しい」んではなく、「イタイ」。他者を馬鹿にして一段低く見ている態度も、ずるずるダメ男の元カレと切れずにいることも。
 他人を馬鹿にして精神的優位に立って物事を見るっていうのは、一番簡単な逃避方法かつ自己愛にどっぷり浸かった行為でしょ。良くも悪くもこっちの意見に耳を貸さず、相手がどんな気持ちで自分に接しているのかを本当に理解しようともせず、勝手に引いた境界線の向こう側で傷ついたり傷つけたり。たとえ彼女が、家族と縁が薄くて母親が不治の病に侵されているとしてもだ。
 そんなわけで、『ぼくのメジャースプーン』には、まだ先生とのディスカッションがガス抜きになっているところがあったけど、これはひたすら理帆子視点で語られているので、人のアドバイスを聞かないくせに延々と悩み相談をする女の子を相手にしているような徒労感があった。終盤、元カレ若尾が絡みに絡んできて、ようやく物語が動き出したときには、ほっとして「よし、がんばれ」なんてうっかり声援をおくりそうになってしまったほどだ。
 最後に彼女はそんな自身に関する諸々に気づき、成長する……ように見えるけど、結局のところはどうなんだろう。一皮剥けたように見えるけど、その世界は依然広がっていないようにも思える。

 と、文句から先に書いてしまったけど、ドラえもんへのリスペクトはびしびし伝わってきたし、ドラえもんの小道具を章立てに使ったり、比喩や描写に使ったりしているのはとても上手いと思う。わかりやすいし、それ自体が物語の雰囲気を作り出している。繊細で丁寧な心理描写も好みだ。
 あと、元カレ若尾がだんだんと精神的に崩壊していく様は、サイコサスペンスとしては非常に読み応えがあった。こっちをメインにしていたら、と思わなくもないくらい。
 重要なキーパーソンである、別所あきらについては重要なくせに妙に存在感が希薄な気がすると思ってたんだけど、ラストにこれも作者の計算のうちだったのかも、とちらりと思った。
 まだ二冊しか読んでいないけれど、辻村さんの書く話にはやわらかさと痛々しさが漂っているように思う。それが個性となって良いほうへ向かうのか、それとも主人公と同じくぐるぐると混迷してしまうのか。この人の書く明るく突き抜けた話も読んでみたいけど、どうだろう。

【この話の中で章立てに使われているドラえもんの道具】
 第一章 どこでもドア
 第二章 カワイソメダル
 第三章 もしもボックス
 第四章 いやなことヒューズ
 第五章 先取り約束機
 第六章 ムードもりあげ楽団
 第七章 ツーカー錠
 第八章 タイムカプセル
 第九章 どくさいスイッチ
 第十章 四次元ポケット
2007.04.23 Monday * 17:14 | 国内ミステリ | comments(0) | trackbacks(1)
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2011.01.19 Wednesday * 17:14 | - | - | -
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「凍りのくじら」辻村深月
「凍りのくじら」 辻村深月 講談社 2005年11月 勝手に評価:★★★★★ 藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現
| Chiro-address | 2008/01/02 10:30 PM |
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