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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『夢の守り人』上橋菜穂子
評価:
上橋 菜穂子,二木 真希子
偕成社
¥ 1,575
(2000-05)
 ……人はね、生きるのに理由を必要とする、ふしぎな生き物なんだよ。
 鳥も獣も虫も、生きていることを思い悩みはしないのにね。ときに、人は、悩んだすえに、自分を殺してしまうことさえある。(本文より)

 シリーズ三作目。前二作に比べると、テーマが人の見る「夢」とそれを糧として育つ不思議な「花」なので、なんともあまくうつくしく不思議な雰囲気に満ちていました。特に「花」の咲く世界の描写には、噎せかえるような芳香すら感じられるほど。現実から逃避してしまうくらい幸せな夢で咲いた花なのに、途中からなにか毒々しいものを含んでしまいます。そこが、精霊や神とは違う、「人間」の見る夢ゆえなのでしょう。人の望む楽しさや幸せは、いつも正しく清いものばかりとは限らず、誰かが望むことの裏には、他の誰かの不幸が必要なこともある。それに囚われて自ら悲しむために突き進んでいくのか、引き返してやり直せるのかは、心の持ちようとどうありたいかを強く望む気持ちなのかもしれません。

 なんだか抽象的な感想になってますが、『闇の守り人』で故郷カンバルへ行っていたバルサが、この話では再び新ヨゴ皇国へ戻ってきて、タンダやトロガイ師そしてチャグムと再会するのが嬉しい。
 皇太子となったチャグムは、帝にならねばならぬ己の運命と、おそらく一生宮から出られぬことに閉塞感を感じ、夢に囚われてしまいます。そのあたりの遣り取りはちょっとせつない。チャグムが持っていたはずの諦観と責任感が、バルサやタンダへの想いに傾いていくのは仕方のないこと。
 けれど、『精霊の守り人』で彼は皇太子として帰ることを決めたのですから、もう市井の人々に混じって生きることはできぬのです。チャグムでなくても「どうして彼ばかりがこんなつらい選択を迫られるのか」と思うけれど、そのぶん賢さと度量を身につけつつある様子が窺えました。時折ちらりと覗く翳もあるものの、それも併せて彼はきっと良き帝になることでしょう。

 もうひとつ、この巻のキーパーソンであるユグノについて。
 彼のとらえどころのなさが、この話の雰囲気をよく表しているように思われます。悲しみや虚しさを抱いている人々を眠りに誘う歌をうたうユグノ。そのまま人々が夢に囚われて帰ってこなくても(つまり、死んでしまっても)、彼はそれが悪いことだとは毛ほども思っていません。だって、幸せな夢を見たままでいられるなら、それがその人にとって幸せだろうと思うから。どんなことがあっても生き抜こうとするバルサたちとは、根本から物の見方や考え方が違うのです。そんな彼の様子を見ていると、どうにももやもやするような、すっきりしないような気持ちになります。けれど彼が考えを改めることはないし、その必要もないのです。なぜなら、彼は「風」だから。いたずらに人の心を揺らしては、花が受粉するための夢を飛ばして去っていく風。だからこの巻を読んで、前二作と比べてすっきりしない感じを受けたとしたら、それは彼の有り様がどこか納得いかないのかもしれませんね。
2007.05.10 Thursday * 17:47 | 上橋菜穂子 | comments(0) | trackbacks(0)
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2011.01.19 Wednesday * 17:47 | - | - | -
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