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評価:
雪乃 紗衣
角川書店
¥ 500
(2007-03)
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まるで、王が泣いているようだと、思った。
それとも、泣いているのは、自分だろうか。
まだ……いわなければならないことがあるのに。(本文より)
新章に入ってから、シリアスな展開が続きます。もちろん随所に笑えるエピソードやギャグも盛り込まれているけれど、全体のトーンはこれまでと違ってシビアなもの。官吏を続ける上で避けては通れない清濁併せ呑む度量を持つための修行とでもいいますか。
秀麗は今までずっとまっすぐで正論だけ言っていて、そこが周囲に愛されてもいたけれど、そのままでは国を変える事は出来ません。なぜなら国家というものは、正論だけで成り立っているわけではないからです。君子であれば名宰相になれるかといえば、答えは否。
作中で秀麗がタンタンこと蘇芳に兵法の格言と、秀麗の思う理想の指導者について語る場面がありました。「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」 相変わらずの理想論と取ることも出来るけど、新章に入ってからの秀麗を見ていると、また違った印象を持ちます。うむ、「紅梅〜」以降のこの流れは結構好き。
芸人でもミュージシャンでも、売れない不遇時代の苦労話を聞くのが一番面白いじゃないですか。それと同じで、ここで叩かれれば叩かれるほど、今己が出来ることの限界に歯噛みすればするほど、数巻もしくは十数巻後にやってくるであろう、名官吏となった秀麗の姿が輝くというものです。叩け清雅! 秀麗にもっと嫌味を!(笑)
いや、でもほんと、秀麗はもともと、ちやほやされるよりも叩かれて伸びるタイプだと思うので、御史台の所属になったのはいい展開だと思うんですよね。それが証拠に、人の言葉の裏を考えるようになったし。
ストーリーとしては、王の「一夫一婦制」を提案した劉輝に藍家が十三姫を後宮に送り込んできたり、各地で「死刑になった人間の幽霊」が現れたりで、秀麗が同僚でライバルの陸清雅と喧々囂々やりながら突っ走っています。
劉輝の王としての成長と家臣との遣り取りに注目している私ですが、今回はなんと言っても藍楸瑛の苦悩っぷりが見所でしょうか。前巻からずっと藍家をとるか王をとるかで悩み続けている彼ですが、ようやく心が決まったようです。親友の李絳攸がもっと絡んでくるかと思ったけど、意外とあっさり引いちゃいましたね。
次は藍州がメインになるのかな。これを機に、今まで語られることのなかった他の州についても順に触れてくれると良いなあ。それから、そろそろ地図や彩七家、官位と組織図を、ちゃんとページ数割いて巻頭につけて欲しくなってきましたよ。登場人物も多いことだし。せめて国政の仕組みがわかるページは欲しい。
【このシリーズの感想】
第1巻
『彩雲国物語 はじまりの風は紅く』
第2巻
『彩雲国物語 黄金の約束』
第3巻
『彩雲国物語 花は紫宮に咲く』
第4巻
『彩雲国物語 想いは遙かなる茶都へ』
第5巻
『彩雲国物語 漆黒の月の宴』
番外編1
『彩雲国物語 朱にまじわれば紅』
第6巻
『彩雲国物語 欠けゆく白銀の砂時計』
第7巻
『彩雲国物語 心は藍よりも深く』
第8巻
『彩雲国物語 光降る碧の大地』
番外編2
『彩雲国物語 藍より出でて青』
第9巻
『彩雲国物語 紅梅は夜に香る』
第10巻
『彩雲国物語 緑風は刃のごとく』