* スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)』野村美月
 ねぇ! 太宰は『人間失格』だけじゃないのよ!
 確かに、『人間失格』を書いたあと、太宰は死んじゃったかもしれない。救いようのない鬱々とした作品だっていくつも書いてるし、『人間失格』が、太宰の出した答えなのかもしれない。
 けど、それだけが太宰のすべてじゃない。
 太宰の作品には、はにかみ屋の優しい人たちがいっぱいいるわ。平凡で心弱いけれど強くもなれる人たちが、いっぱいいるわ。(本文より)

 ずーっと気になっていて、本屋に行くたびに手にとっては棚に戻し、を繰り返していた“文学少女”シリーズ。パラパラっと立ち読みして、題材に太宰が取り上げられていたのを見て踏ん切りがつき、いきなり既刊分の五冊を買ってきました。後悔はしていない(笑)

 主人公の井上心葉(このは)は高校二年生の男子。中学時代に軽い気持ちで書いた小説が賞を獲り、映像化もされて一躍社会現象になるほどのブームを起こした。その際使っていた井上ミウというペンネームのせいもあり、覆面美少女作家として分不相応な騒がれ方をし、心身ともに疲弊し傷ついた過去を持つ。そんな彼が高校で出会った天野遠子先輩は、文字の書かれた紙をむしゃむしゃと食べてしまうくらい物語を愛しているかわった人で、彼女に引き込まれた文芸部で彼女の“おやつ”になる短文を書く日々を送っていた。ある日文芸部に竹田千愛(ちあ)という少女がラブレターの代筆依頼をしに訪れて――。

 主人公の心葉は過去になにやらあった様子。それはこの巻ではちらちらと見え隠れする程度で真相は書かれていません。書かれていないけれど、それが心葉の心に今なお傷を残していることは、彼のモノローグでよくわかります。「なにも起こらないこと」「誰も好きにならないこと」「痛みも悲しみも絶望もなく、穏やかに生きていくこと」だけを願う毎日。そんな彼が請け負った(正確には遠子先輩に請け負わされた)恋文の代筆が、単なる恋愛成就云々ではなく、10年前に在学していた片岡愁二という生徒の身に起こったある事へと、心葉と遠子先輩を動かしていくことになります。
 千愛が好きになった片岡愁二という人物は、太宰の『人間失格』の主人公のように、人の感情に共鳴することも理解することもできず、そういう自分を悟られまいと道化の仮面を被った人物。そして弓道部にいるという千愛の言葉を信じて探してみると、どこにもそんな生徒は在籍していないことがわかります。彼はいったい何者なのか。そして彼の身に起こった出来事とはなんなのか。愁二の残した手記が、心葉たちの行動と平行して出てきて、少しずつその真相が見えてきます。

 誰でも多かれ少なかれ、一度は他人とのズレを感じたことがあるでしょう。みな一個の別々な人間であり他人なのだから、それは当たり前のことのはずなのに、なぜ私たちはそのことに傷つき悩むのでしょう。
 今回、太宰の『人間失格』に絡めて物語りは進んでいきますが、太宰を読んだことのない人もまったく問題なく楽しめると思います。作者が遠子先輩の口を借りて、太宰の生涯や作品群について語っているので心配なし。既に太宰を読んだ人は、その作者の太宰に対する解釈や感想を楽しむことも出来るでしょう。
 シリーズの一巻目に太宰をモチーフに持ってきたのは、なかなか上手いんじゃないかと。心葉の鬱屈した心と、他の登場人物の表裏と、『人間失格』が妙にシンクロしています。というか十代の頃って、いろいろ青くて悩みまくってて、内心じゃ意外と暗くシリアスなことを考えてて、そして危うい時期ですよね。その危うい感じと『人間失格』の並立には違和感がない。巻を重ねるごとに心葉も強くなるのかな。心の傷は癒えるでしょうか。その都度取り上げられる文学作品がなんなのか、楽しみです。

 本ブログ 読書日記
2007.10.08 Monday * 02:05 | ライトノベル | comments(0) | trackbacks(0)
* スポンサーサイト
2011.01.19 Wednesday * 02:05 | - | - | -
Comment









Trackback URL
http://12key.jugem.jp/trackback/386
<< 『銀魂 第20巻』 空知英秋 | main | 『ビター・ブラッド』雫井脩介 >>