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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『インシテミル』米澤穂信
評価:
米澤 穂信
文藝春秋
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(2007-08)
 警告
 この先では、不穏当かつ非倫理的な出来事が発生し得ます。
 それでも良いという方のみ、この先にお進みください。(本文より)

 殺人事件を書くことで、それに至った人間関係や心理描写、社会背景などを深く掘り下げた作品も好きですが、こういう単なる偶然や気まぐれや理由無き犯行の介在しないミステリのためのミステリ、ミステリ読みがニヤニヤして頭の中でいろんな作品を思い浮かべながら推理をこねくり回して読み進めるような作品も大好きです。

 時給11万2000円の求人広告に集まった12人の人間。彼らはある<実験>のために集められたと説明を受けるが、それは外界から隔絶された「暗鬼館」内での殺人ゲームのことだった。ラウンジのテーブル上には人数分のインディアン人形、個室にはひとりひとつの武器、意味深な十戒、部屋には鍵がかからず、廊下は湾曲していて他者の影を察知することが出来ない。そして24時間<実験>企画者に観察され続けるのだ。

 出てくる小道具がことごとくミステリのガジェットなので、登場人物たちの中でも一般人とミステリオタクとでは得られる情報量が違います。例えば「ニコチン」という単語が出てきたとして、普通の人は煙草とかを連想するだろうけど、ミステリ読みならまずアノ作品を思い浮かべるでしょう。(まったくの余談ですが、私はあのシリーズの中ではその作品が一番好きです)
 館の設計から食事の配給方法までそこに込められた意味を読み取れるでしょう。それは他者よりも一歩有利な立場であり、また逆に思い込みに囚われやすい立場でもあります。終盤それが上手く作用する場面があって「おおっ」と思いました。ミステリ読みはどうしても、あるべき真実や叩いても叩いても綻ぶことのない美しい論理を見つけ出そうとし、そしてそれが当然正しい行いだと思ってしまう。そんな性が上手く使われているなあ、と。犯人の指摘や推理の開陳がどれほどの意味や価値を持つのか、一般人とミステリマニアでは違うのだと、私も忘れていました。
 不条理な設定に突然放り込まれた人たちという内容もそうですが、ともすれば悪趣味なまでにミステリにこだわった<実験>に惹かれてぐいぐいと読み進めました。いろいろとルールがあるんですよ。犯人を指摘する探偵となれば時給が3倍に跳ね上がるとか、その際助手と指名されればその人間も時給が1.5倍になるとか、ひとり殺すと2倍とか。
 そういった縛りの中で、何もせずに時間を過ごして高額な時給を稼ぐという最も穏健な方法から外れていく様子も見所かもしれません。登場人物たちの、このアルバイトに集まった背景が全くといっていいほど書かれていないのも、純粋にこの館内で起こる出来事のみに集中するためでありましょう。怨恨とか恋情とか、已むに已まれぬ事情とか、そういった情に訴えるものがない。ただここにあるミステリをご堪能あれ、という感じ。そこが逆に清々しかった。最近そういうの読んでなかったんで。

 副題は"THE INCITE MILL"。読後に見直すと「なるほど〜」と思います。「インシテミル」は「(本格ミステリに)淫してみる」って意味だと米澤さんのサイトで読んだ気がするんですが、さて、どうだったか。
 「クローズドサークル」や「館モノ」という言葉にトキメキを覚える向きには、それだけでもうとりあえずオススメじゃないかと(笑)

 本ブログ 読書日記
JUGEMテーマ:ミステリ


2007.10.12 Friday * 13:34 | 米澤穂信 | comments(2) | trackbacks(2)
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2011.01.19 Wednesday * 13:34 | - | - | -
Comment
はい。「クローズドサークル」「館モノ」という単語にぐぐっときます^^
私はミステリオタクというほど詳しくないのですが、インディアン人形とか気になるモチーフが!
この本図書館で予約中なので楽しみです。
| まめ | 2007/10/15 10:06 AM |
おお〜、それらの単語にぐっとくるタイプなんですね!^^
インディアン人形気になりますよね(笑)
ニコチンの他にもマンドリンとか出てきますよ〜。
本格ミステリでありながら、本格ミステリに嵌っている人を外側から見ているような、メタミステリの要素もありました。
| たかとう | 2007/10/15 10:05 PM |









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