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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『秋の牢獄』恒川光太郎
評価:
恒川 光太郎
角川書店
¥ 1,470
(2007-11)
 ぼくたちの本体はとっくに先に進んでいて、ぼくたちは本体が、十一月七日に脱ぎ捨てていった影みたいなものじゃないのか。世界は毎日、先へ進むたびに、その時間に影を捨てていくのかもしれない。 (「秋の牢獄」より)

 表題作を含む三作品を収録した短編集。相変わらず、恒川さんの本は装丁が美しい。手にとってうっとり、表紙を開いた中にもある挿画にまたうっとり。『夜市』『雷の季節の終わりに』で読者を異世界へ誘ってくれた恒川さん、今回もまた知らず知らずのうちに異世界へ足を踏み入れてしまった人々のお話でした。そしてみな、ある意味「牢獄」に閉じ込められています。

「秋の牢獄」
 「時間」に閉じ込められる話。
 十一月七日の水曜日を延々と繰り返してそこから抜け出せない主人公の藍(あい)。自分以外は毎日毎日同じことを繰り返すロボットのような日々だったが、ある日同じように十一月七日を繰り返している「リプレイヤー」と名乗る人々と出会う。彼らと交流していくうちに、「北風伯爵」という怪物の存在を知るのだが、ある者は神の使いであるといい、ある者はリプレイヤーたちを捕食する化け物だという。やがてリプレイヤーがひとり、またひとりと消えていき――。
 リプレイものって好きです。時間SFも好き。なので、ついつい自分に同じことが起こったらと読みながら想像してしまうのですが、翌日になったらすべてリセットされた状態に戻るとなると、途中で無気力になってしまいそうだ。ああでも、しばらくの間は未読本の消化に努めることでしょう。自分の記憶だけは残るから、本を読んだ実感だけはある。
 本編ですが、この話の中の「北風伯爵」をどう捉えるかで読後感が大きく変わると思います。出会ってしまったが最後、彼によって消滅(死)させられるのか、それとも十一月八日(未来)へと帰してくれる存在なのか。どちらともとれるし、どちらが正解とも言えない。
 もしかしたら私たちは、「一生」という名の長い長い一日を生きているのかもしれない、そんな風に思いました。

「神家没落」
 「家」に閉じ込められる話。
 春の夜、ほろ酔い気分でふらりと立ち寄った公園への途中で迷い込んだ古い民家。そこで翁の面をつけた人物と出会った主人公は、そこから出られなくなってしまう。その家は日本中を転々と流離う、不思議な家だった。
 失くしたものを惜しむ気持ち、そして本来は自分の物でないのに一度所有した後に芽生える所有感。そこにはいつの間にか、自分自身に対する「選ばれし者」という選民意識もあるのでしょうね。
 主人公が謎の家で暮らす日常の描写が好きです。家守として暮らすその姿は、遠い昔の日本の風景にも似てる気がして。だから尚更、この話のタイトルと事の顛末に、一層の哀惜と郷愁を感じるのかもしれません。

「幻は夜に成長する」
 う〜ん、これはなんでしょう。肉体的にも幽閉されているんだけど、「自分自身」によって閉じ込められている異能の少女の話……かな。
 幻を生み出すことのできる少女リオ。彼女は小学生のとき「おばあちゃん」と一緒に暮らしていたが、ある事件でバラバラになってしまう。両親の元で普通の暮らしをしながら知っていく自分の能力や「おばあちゃん」のこと。そして現在の彼女は、宗教団体に囚われ、密かに自分の中で怪物を育てていた――。
 彼女に降りかかる出来事の理不尽さが読んでいて痛いくらいですが、恒川さんにしては珍しく「悪い人」が多く出てきているかな。いや、悪いというよりも、「人の痛みを考えない人」「自分と違う他者を受け入れることができない人」というべきか。どちらにしても翻弄されるリオが見ていてつらい。彼女の育てている怪物は、そんな周囲に痛めつけられ虐げられた恨みと憎しみが純化したものなのでしょう。それはとても哀しい話です。

 WEBカドカワの『秋の牢獄』特設ページで、本文の立ち読みや作者の恒川光太郎さんのインタビュー動画を見ることができます。

【収録作】
 「秋の牢獄」「神家没落」「幻は夜に成長する」

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2007.11.29 Thursday * 18:53 | 恒川光太郎 | comments(0) | trackbacks(3)
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秋の牢獄 恒川光太郎
装画はミヤタジロウ。装丁は片岡忠彦。初出「野性時代」。短編集。 十一月七日を繰り返す女子大生。屋敷から出られない青年。幽閉され幻術を強制される女―。「牢獄」をテーマにそれぞれ異なるアプローチ。時間、場所
| 粋な提案 | 2008/02/21 3:01 AM |
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