着実な人生を送っていた主人公・紺屋長一郎は希望通り銀行に就職したが、重度のアトピー性皮膚炎を発症し、2年で故郷の八保市に戻ることになった。それまでの人生設計が狂ってしまった彼が始めたのは、<紺屋S&R(サーチ&レスキュー)>という探偵事務所。それも犬捜し専門の探偵だった。町役場に勤める旧友・大南寛の紹介で開業早々依頼人が訪れるが、いずれも犬捜しとはまったく関係のない、失踪人の捜索と古文書の由来調査。仕方なく、探偵になりたいと押しかけてきた高校時代の後輩・ハンペーこと半田平吉と共に調査にとりかかるが、次第にふたつの事件が交錯して……。
面白かったです!
気にはなっていたものの、米澤さんの作品は今まで未読でいた私。これはとても好みな話でした。ハードボイルドタッチだけれど、文章がやわらかいので、ソフトなハードボイルドとでもいったところ。
失踪人探しをしている紺屋と古文書の由来調査をしているハンペー、それぞれの視点でふたつの案件が語られてゆきます。紺屋視点は、25歳とは思えない落ち着いた語りで正しくハードボイルド。一方のハンペーは、探偵という職業に憧れやこだわりがあるものの、今風な若者らしい軽さと明るさでユーモラスな語り。このハンペーただのおちゃらけキャラかと思いきや、意外とデキるヤツだったりするのです。
ふたりの調査は異なった出発点から始まったのに、次第に関わる人物や背景が交錯してきます。けれどお互い連絡を密に取り合うわけでもなく自分の仕事だけを遂行しているため、それに気づきません。そこのところが読んでいてもどかしいような、ゾクゾクするような。ちょっとだけ、宮部みゆきの『火車』を思い出しました。
まさかラストでそうくるとは!
この終わり方を好きかどうかで評価がわかれるんじゃないでしょうか。私は大好きですね、こういうオチ。この作品の中で一番好きな部分でもあります。それまでのどこかほのぼのとした雰囲気が一変したラストシーン。ここにきてタイトルを見返してみると、「犬はどこだ」という言葉が、まるで違った響きをもって聞こえてくるようです。
作中、紺屋のチャット仲間でいろいろと助言をしてくれるGENという人物、ハンドルネームだけで詳細は不明ですが、これがシリーズ化していくのならGENの正体もまた全体を通しての隠れた楽しみになりそうです。私はGENを女性だと踏んでるんですが、どうでしょう?
そして紺屋が犬にこだわる理由も、今回触れられた子供時代の話の他にまだなにかあるんじゃないのかな、なんて思ったりもしています。続編が楽しみだ。