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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『バスジャック』三崎亜記
バスジャックバスジャック三崎 亜記 集英社 2005-11-26売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools

 『となり町戦争』でデビューした三崎氏の第二作。なんとも不思議な7つのお話からなる短編集です。SFのカテゴリに入れてもいいくらいなのですが、ご本人はSFを書いているつもりがなさそうなので、フィクションに分類しておきます。

 ■二階扉をつけてください
 出産で留守にしている妻に代わってひとり家にいる主人公のところに、近所の人と思われる女性が「回覧板に書いてあったでしょ! お宅だけなんですからね、早く二階扉をつけてださいよ」と文句を言いにきた。普段から回覧板など見ない主人公は、周囲の家々を見渡してどの家にも二階に扉がついていることを知る。二階扉というものの意味がわからないまま電話帳で調べた業者に取付を頼み、その使い方も知らぬまま放っておいたある日、妻から生まれたばかりの赤ん坊を連れて帰宅するとの連絡が入り……。

 本書の中でも一番私の好みでした。小松左京の短編のような。前半の、いつの間にか周囲に取り残されている主人公と奇妙な二階扉とその見積もり書など、不思議な設定に引き込まれます。そして、ラストシーンで冷水を浴びせられたような気分に。私、この主人公と同じで、あんまり気を入れて回覧板を見ないほうなんですよー。こ、怖かった……。ラストの主人公の呟きがぞわぞわしました。これからは、回覧板をちゃんと読もう。

 ■しあわせな光
 わずか数ページのとても短い話なのであらすじは書きませんが、先の「二階扉を〜」が小松左京だとすると、こちらは星新一のショートショートのようでした。でも、ぽっと胸にあたたかい灯がともるような読後感でしたね。

 ■二人の記憶
 僕の記憶と彼女の記憶にはズレがある。昨日したこと、食べたもの、ふたりで旅したことのない場所での思い出話。思い違いの重なりなのか、彼女がおかしいのか。それとも自分の頭に問題があって食い違うのか……

 例えば同じものを見ていても、人によっては受け取り方、見え方が違っているのかもしれない。林檎がそこにあったとして、私は真赤な林檎だと思っているけれど、他の人にはそれほど赤く見えていないとか。このふたりのズレがどうしておこるのかはわからないけれど、それをまるごと引き受けようと思えたら、それを愛情と呼ぶのでしょうか。

 ■バスジャック
 「バスジャック」をすることがブームである世界の話。「バスジャック公式サイト」では、移動距離・占拠時間・総報道時間・オリジナリティの四つの観点からランキングが更新され、「バスジャック規正法」でバスジャックが法的に認められている。ある日主人公の乗ったバスで、バスジャック犯たちがバスジャック開始の名乗りを上げ……。

 これも面白かったなあ。「二階扉を〜」の次にこの話が好きです。バスジャックが公的に認可された世界のおかしさ。この世界の細々とした説明もまた楽しい。「血の闘争」と呼ばれる有名なバスジャック事件があったり、それを元に法が制定されたり。また、バスジャックされた側の乗員や乗客も慣れたもので、バスジャック犯に向かって「なっていない」とやり方にケチをつけたりする。たっぷりこの世界を堪能した後に待ち受けているどんでん返しもよかったです。

 ■雨降る夜に
 一人暮らしの主人公の部屋を、図書館と思い込んで本を借りに来る女性と主人公の話。

 雨の日にやってくるというのが上手い。これが晴天白日の下に訪ねて来られたら、ちょっと頭のおかしい人かと思うところです(笑) エルトン・ジョンの曲がバックに流れていそうな雰囲気のお話でした。その後、ふたりはどうなったんでしょうね。

 ■動物園
 動物園であたかもそこに動物がいるように幻影をみせることを職業としている日野原(女性)の話。動物園の職員達は彼女に白い目を向け距離を置くが、その幻影の完成度に驚く。しかし、そこでの仕事をライバル会社にとられ……。

 動物の幻影を見せるという能力を持つ人たちが起こした会社は、日野原の会社だけではありません。この世界にはいくつもこのような会社があるようです。一種の隙間産業ですが、そこでも熾烈な競争があって、そして大勢の観客達に晒されたとき能力者たちの真価が試されるのです。作り手によって、息遣いまでも伝わってきそうな幻影がそこに生まれる。私は逆に見てみたいけどな、そういうイメージで構成された動物。

 ■送りの夏
 小学生の麻美は、家出した母を追って「つつみが浜」という見知らぬ土地をひとりで訪ねる。そこで知り合った不思議な人たち。精巧な人形たちと暮らす人々のいる「若草荘」。そこには麻美の母もいて――。

 主人公の麻美を真っ向から「死」というものと向きあわせている作者に、ちょっと驚きながら読み進めました。小学生にはディープじゃないかと思ったりもしたけれど、大切な人との別れの哀しさや「死ぬ」という出来事を考え抜くことは、早い遅いというものではないですね。「若草荘」で行われる死者を送る儀式のシーンが印象深い。内容は全く違うけれど、湯本香樹実さんの『夏の庭』を思い出しました。そして、私も大きくて大切な存在を亡くした経験があるので、こんな風にゆっくり、ゆっくりと、死者との別れを惜しみたかったな、とちょっと淋しく思ったりもしました。

 全体を通して、どれも面白かったです。これからの作品も要チェックだな。
 【収録作】二階扉をつけてください/しあわせな光/二人の記憶/バスジャック/雨降る夜に/動物園/送りの夏
2006.01.19 Thursday * 19:33 | 三崎亜記 | comments(0) | trackbacks(1)
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2011.01.19 Wednesday * 19:33 | - | - | -
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「バスジャック」三崎亜記
「バスジャック」 三崎 亜記 集英社 2005-11-26 勝手に評価:★★★★☆  あの『となり町戦争』に続く衝撃作!  話題のデビュー作に続く注目の第2作。バスジャックブームの昨今、人々はこの新種の娯楽を求めて高速バスに殺到するが…。表題作他、奇想あり抒情あ
| Chiro-address | 2008/01/25 8:47 PM |
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