「あの、急いでいますのでお礼も出来ないんですが、お名前を」
からからと笑いながら、ひらひらと右手を顔の前で振りました。
「礼なんかいいさ。名前は堀田勘一ってんだ」
(第一章「On The Sunny Side Of The Street」より)
「東京バンドワゴン」シリーズの最新刊。これが4冊目ですかね。時代が昭和20年代へと遡り、堀田家の頑固親父・勘一とその亡き妻でシリーズの語り手・サチの馴れ初めと、ふたりが知り合うきっかけとなったとある<文書>についての話です。今までの話はご近所の「文化文明に関する些事諸問題」を解決していましたが、これはまたずいぶんと大きい話になっていました。それこそ、戦後日本を左右するほどの。
終戦直後の昭和20年、子爵令嬢・五条辻咲智子は父・政孝からとある<文書>の入った箱を持って親類の家へ逃げるよう言いつかります。ところがそこへ向かう途中で追っ手に捕まりそうになり、それを堀田勘一という若者に助けられ――。
我南人のあの口調の理由や堀田家の家訓の理由、藍子・紺・青の名前の理由など、このシリーズのルーツがわかり、今までちらほら話に出てきていた名前が当事者として活躍するので、シリーズ読者は家族の昔話を聞いているような気持ちになるでしょう。といっても、シリーズを読んでいなくてもなんら問題なく楽しめます。ここから入って、シリーズ既刊分をその先の物語として読む進めてもいいんじゃないかな。
作中のキーパーソンとなるブアイソーなる人物は、実在したある人物を想像させますね。「従順ならざる日本人」とくれば。それに。バンドワゴンの馴染みの客で吉川という作家がちらっと出てくるんですが、これも戦後しばらく筆をとらなくなってしまったところなど、吉川英治をモデルとしているんだろうなあと思って読んでいました。そういうちょこちょこ出てくるお遊びも楽しいです。
堀田家は今も昔も「LOVE」に溢れていました。そしてみんなの知恵と心意気で突き進んでいました。次は、我南人とその亡き妻の話が読みたいなあ。今回は勘一とサチに関するエピソードよりも、ジョーの生みの親がバンドワゴンに姿を表すシーンにぐっときました。
集英社の公式ページを見たら、担当編集者さんが「とにかく、時代背景は今とまったく違っても、ああ、あの温かくて優しい<東京バンドワゴン>はここからもう始まっていたんだ、と思えるようなものがいいんです」とリクエストしたとか。なるほど納得です。
※集英社のサイトに
試し読みのページがありますよ。
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評価:
小路 幸也
集英社
¥ 1,575
(2009-04)
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