|
評価:
米澤 穂信
集英社
¥ 1,365
(2009-08-26)
|
すべてはあの雪の中に眠っていて、真実は永遠に凍りついている。(「終章 雪の花」より)
経済的な事情から大学を休学し、伯父の家に居候して古書店の手伝いをしている菅生芳光。ある日、亡くなった父親が書いた五つの短編小説を探している女性と知り合い、報酬に惹かれてその手伝いをすることにする。彼女の父親が書いた文章は、どれもリドルストーリー(結末をはっきりと書かずに読者に委ねる話)で、暗い印象のものが多かった。そしてそれらを調べていくうちに、作者がかかわっていた過去のある事件が見えてきて――。
「小市民」シリーズでも「古典部」シリーズでもない、ノンシリーズの新作。抑えた文章で、静かに淡々と話が進んでいきます。一読して思ったのは、連城三紀彦っぽいなということ。今までの米澤作品にない渋みみたいなものがあります。『犬はどこだ』でも感じたような、苦いけれどまったくのバッドエンドというわけじゃない、これこれこういう話なのと人に説明しにくい作品でした。『インシテミル』みたいなミステリマニアがうひゃうひゃ喜ぶガッチガチな設定は出てこないし、「小市民」「古典部」のようなキャラがどうこうってものでもない。一見地味な印象なんだけど、でも、じんわり残るもののある話。米澤さんってこういう話も書くんだ、と新しい面を見せてもらった気がします。引き出し多いなあ。
ひとつずつ見つかっていくリドルストーリーとその結末も気になるし、それらが過去の事件の真相を浮かび上がらせる複雑な絡まりもよかったです。
本の装丁もまた古書っぽさを意識したものになってますね。タイトルや作者名のフォントとか。表紙のタイトル部分で「五」の字だけ他と違うフォントなのが、細かいところに凝っているなあと思いました。
【ほんぶろ】〜本ブログのリンク集