|
評価:
高田 郁
角川春樹事務所
¥ 600
(2009-10)
|
「良いか、太一。忘れるんじゃねぇぞ。ご寮さんと澪ちゃん、あのふたりがおっ母に……俺たちにしてくれたことを、決して忘れるんじゃねぇぞ」
伊佐三はそのまま両手をついて、地面に額を擦りつけた。(「一粒符――なめらか葛饅頭」より)
お店が神田から九段下へと移って客層も少しかわり、それに応じて好まれる料理・敬遠される料理が出てきたのが、同じ江戸の町の中でも地域によって変わるのかと面白く読みました。以前はほぼ職人ばかりだったのが、九段下では武家屋敷も多いので町人と武士が約半々。町人は気にしなくても武士は口にしない(口に出来ない)物ってあるんですね。ほろにが蕗ご飯、こぼれ梅、なめらか葛饅頭、忍び瓜などなど、また美味しそうな料理がいっぱい。料理の他に今回は調味料の白味醂に強く惹かれました。それと、味醂粕を「こぼれ梅」と呼ぶのは風流でいいですね。
新しい登場人物も出てきました。諸々の事情で手が足りなくなった「つる家」に口入れ屋の紹介でやってきた、ふきという名の少女。くるくるとよく働き人柄も良さそうだけど、ちょっとワケありで「つる家」にまた一騒動起こります。でもいい娘! 同じ口入れ屋の実の母親である、りう婆さんもまたこれがいい人だし仕事は出来るしで、素敵。こういうおばあさんになりたいなあ。
澪のほのかな恋心が今後どうなるのか気になりますが、今回一番ページをめくる手が止まらなかったのは、麻疹の話。澪やご寮さんをいつも助けてくれているおりょうさんと伊佐三の息子・太一が麻疹に罹ってしまう話なんですが、もう途中で本を置くことが出来ませんでした。命を落とすほどの大病ですものね。上に引用した場面では泣いてしまいましたよ。で、ちゃんとここにちらっと出てきたことが、次の話に繋がるんですよね。小松原よりも源斉よりも、密かに伊佐三がお気に入りです。職人さんて好きだー。
【ほんぶろ】〜本ブログのリンク集