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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『図書館戦争』有川浩
図書館戦争図書館戦争有川 浩 メディアワークス 2006-02売り上げランキング : 3240おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として『メディア良化法』が成立・施行された近未来の日本。その強引な超法規的検閲に対抗するため、『図書館法』(通称「図書館の自由法」)が成立され、自衛隊にも引けを取らぬ実戦部隊が組織された。武力による図書の検閲・奪取に武力で抗戦する図書館部隊。主人公笠原郁は、学生時代に目の前で行われた抜き打ちの検閲の思い出を胸に図書館防衛員を志すが……。

 ノリはアニメか戦隊ヒーローもの。主人公他の登場人物たちも劇画チックな描かれ方で、まるでテレビを見ているよう。この本で初めて知ったんですが、『図書館の自由に関する宣言』というものが実在するんですね。今度図書館に行ったら、館内のどこかに掲げてないか探してみよう。
 実は私、郁のようなヒロインはあまり好きじゃなかったりします。まっすぐで後先考えずに突っ走って正義感が強くて。郁の同期の手塚がやはり郁のことを嫌っているのですが、彼の気持ちがよくわかる(笑) なんにも考えないで突っ走って、周囲のフォローで結果オーライ。なぜか上司や友達に愛されていて、本人はそれをちっとも自覚していない。逆に自分は虐げられているとさえ思っている。……なんて恵まれたヤツなんだー! 決められた規則を順守して枠の中でコツコツやるタイプにとっては、腹立たしい存在です(笑)
 そんなわけで「本が狩られる時代」と「武力による国と図書館の攻防」という面白い設定にもかかわらず、最初のほうがどうにも乗り切れずにいたんですが、手塚が出てきて彼に感情移入して読み出したらさくさくいけました。
 郁が防衛員を志すきっかけになった出来事に関しては、オチも見えるし意外性もないのですが、シビアな背景をそれと感じさせずに明るく読み流せるのは不思議な感覚でした。死者を出すほどの攻防戦が繰り広げられて、その唯一の生き残りである人物については重たくなってもよさそうなものなんですけど、読後感はすかっと爽快。登場人物たちのキャラ設定もそれぞれ魅力的でした。郁をしごく鬼教官の堂上、微笑みながらキツイことをさらりという小牧、郁の友人でどんな情報でも掴んでいる柴崎などなど。
 ちなみに、Yahooブックスで作者の有川さんがこの作品についてインタビューをされています。

 少年犯罪をきっかけにしてその犯人が借りていた図書のリストの提出を求める警察と、それを拒否した図書館に対して巻き起こる世論の攻撃など、今でも充分身近に見られる現象も書かれています。それに対してただ沈黙を守るのではなく、若い世代の子らが大人たちに討論を挑むくだりは、本書の中で一番面白く感じました。言論の自由や思想の自由は、他者との対話に寄って理解されるものではないでしょうか。
 どうか、焚書検閲などの図書狩りが横行する世の中が現実のものになどなりませんように。

『図書館の自由に関する宣言』
 一、図書館は資料収集の自由を有する。
 二、図書館は資料提供の自由を有する。
 三、図書館は利用者の秘密を守る。
 四、図書館はすべての不当な検閲に反対する。

 図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。
2006.07.26 Wednesday * 02:29 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(2)
* 『透明な旅路と』あさのあつこ
透明な旅路と透明な旅路と
あさの あつこ

講談社 2005-04-27
売り上げランキング : 168569
おすすめ平均

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 街娼を絞め殺し車で逃亡中の吉行明敬は、旧道のトンネルを抜けたところで一組の少年と幼女――白兎(はくと)と、かこ(笹山和子)――に出会い、かこの家のある村まで車で送ることになるが……。

 本の帯に「あさのあつこ初のモダン・ミステリー」とありましたが、これはミステリーじゃなくて幻想譚じゃないのかな。謎解き要素は薄いです。そのかわり、なんとも不思議な雰囲気に満ちた作品。ルビの振り方に統一感がなくて、それがまた視覚的に不安定で不思議な感触でした。あさのさん特有の、少年の艶っぽさも随所に見られます。白兎という少年が「鉱石のような」硬質で透明な瞳を持っているせいか、読んでいる間中、山下和美さんの『不思議な少年』がイメージされたなあ。
 この道行きは、贖罪の旅に見えて実は再生の旅な気がします。人はなにか罪を犯したときに赦しと救いを求めるものだけど、それを与えてくれるのは誰なのか。誰かに赦してもらえたら本当に自分自身でもそれを赦すことができるのか。結局、自分の犯した罪を赦すことができるのは、自分自身じゃないでしょうか。そして、そのきっかけとなるのが他者なのでは。
2006.07.25 Tuesday * 23:58 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『風に舞いあがるビニールシート』森絵都
風に舞いあがるビニールシート風に舞いあがるビニールシート森 絵都 文藝春秋 2006-05売り上げランキング : 138おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 森さんの新作にして直木賞受賞作。6つのお話の入った短編集。

■器を探して
 気まぐれでわがままなパティシエ・ヒロミの作るスイーツの虜になってしまった彼女付きの秘書・弥生は、自己犠牲を伴いながらも彼女の作る菓子から離れられずにいたが、あるクリスマスイブの日にプディングの器を探しに出張を言いつけられてしまう。
 過去に何度もヒロミによって自分の恋愛を壊されながらも、彼女のケーキにひれ伏している弥生。読み始めは「もうそんな女に振り回されるのはやめにして、結婚しちゃったほうがいいよ」と思い、その後弥生の彼氏・高典の台詞を読んでいるうちに「こんな男やめときなって!」と思った……のに、最後には一番性質が悪いのは弥生本人じゃなかろうかとちょっと怖くなりました。なぜなら弥生はヒロミに隷属しているようにみえて、実はヒロミがリタイアすることも方向転換することも許さないところがあるように見えるから。すべては彼女の愛する「ヒロミの作るスイーツ」のために。それが証拠に後半の彼女はそれまでと一転してヒロミからイニシアチブを奪い取って説得し、恋人の高典も言いくるめてしまいます。普通なら、ふたりに「もう一度いちから出直そう」または「もう終わりにしよう」と言うところなのに。そしてラストの行動。……怖い。怖いですよ、この人!

■犬の散歩
 保健所に収容された犬たちの里親探しのボランティアをしている主婦・恵利子。彼女は犬たちの面倒を見る費用を稼ぐためにスナックに勤めている。
 生活の基準を「牛丼」におき、その単価ですべてを計るというエピソードはなるほどと思ったものの(私もよく「これを買わなかったら本が何冊買えるか」と考えるので)、主人公恵利子がどうにも好きになれませんでした。そしてビビという犬の行く末についても、「なんだこの流れ…」と胸の奥がもやもや。恵利子と姑がビビのことを語り合うシーンなどは体がむずむずしました。私も子供の頃から犬が大好きで昔飼っていたこともあったので、その可愛さ愛しさ死ぬまで面倒を見ることの責任の重さというのは知っているつもりなんですけど……。どこが私の神経に障るのかと読み返してみたところ、恵利子のしていることが“今はまだ”若奥様のオママゴトめいて見えるからだと気づきました。義父の建ててくれた家に住み、ローン知らずで今までエステや優雅なランチをとっていたお金を犬のため使っていたけど、それはみんな旦那様の稼いだお金だということにはたと気づいて働きに出ることにする。昼間は犬の散歩があるから夜の商売に。いきなり犬を何匹も引き取って世話をするってだけでも普通は認めてもらえないところを、犬の費用を稼ぐために水商売に出ることを許してくれるとは、なんと奇特な旦那様か。恵利子が公園で初老の男性にキツイことを言われるシーンでも、あれくらいのことで言葉を失って立ち竦むのは――まあ性格の違いもあるでしょうが――きっと今まで人の悪意や妬みに間近で接してこなかった人なんだろうなあ、と。なにより、スナックで客からもらったお金についての対処と態度が納得いかないのです。

■守護神
 大学の二部学生のレポートを代筆してくれるというニシナミユキ。彼女はその内容の確かさに加えて、相手の文章の癖までも似せて書いてくれるというレポート代筆の達人。そんな彼女の噂を聞いて主人公・祐介はレポートの代筆を依頼するのだが……。
 本書の中で一番好きなお話です。作中に出てくる『伊勢物語』や『徒然草』の解釈が面白くて、そのふたつを読み返したくなりました。話も前半と後半とではがらっと主人公に対する印象が変わりますし、途中からは祐介を励ましたくなりました。茶髪で軽めの男をもてはやすような人間とは無理に合わせなくたっていいさ! 学者やその道の専門家は、みんな鬱陶しいくらいそれが好きで飽かず黙々と打ち込んでるんだから。この話で祐介から発せられる「文学が好きで好きでたまらないんだ!」というオーラが実に気持ちよかったです(笑) 彼にエールを!

■鐘の音
 仏像に魅せられた潔は仏像の修復師に弟子入りするが、あまりに尋常でない思い入れから常に師匠とぶつかっていた。そんな潔がある事件をきっかけに仏像から離れることになるのだが……。
 偏執的なまでに仏像を愛している男・潔。もっとドロドロした展開になるのかと思いきや、最後があっさりして見えたのは過去の回想から現在へと戻ってきたせいでしょうか。

■ジェネレーションX
 これは軽快なテンポで読めて、読後がちょっぴり爽やか。クレーム処理に向かうサラリーマン・健一と得意先の青年・石津の道行き。車の中で携帯を使って次から次へと連絡を取る石津。いまどきの若い者はと多少苦く思っていた健一だったが、聞くともなしに耳に入ってしまう石津とその友人たちのやりとりにだんだん興味が出てきて――。
 ふたりの会話と石津が携帯の向こうの相手に向かって話している言葉で話は進んでいきます。こういうことありますよね。電車の中でも町中でも、最初は苦々しく思っていた携帯電話のやりとりが耳に入ってきて次第に気になっちゃうってこと。「それは違うって」と話に心の中で突っ込んだり、声の様子や話し振りから密かに心配したり。はじめのうち、石津とその友人たちのやりとりは10年ぶりの同窓会を開こうとしているものだと健一には聞こえます。が、それは実はただの同窓会ではなくてある約束を果たすための再会だとわかります。そこら辺からの健一の気持ちの変化やラストの収まり方が明るくていいですねえ。

■風に舞いあがるビニールシート
 国連難民高等弁務官事務所の東京事務所に現地採用になった里佳は、上司のエドと付き合うようになり結婚する。ところが東京勤務を終えたエドは紛争地域へ旅立ち、やがてふたりはお互いを思い合いながらも離婚することに……。
 森さんすごく取材してるなあと感心はしたものの、内容についてはそれほど打たれるものがありませんでした。すべて予想通りに話が運んだからかも。ただ、ラストの「平和ボケ万歳だ、望むところだ」のあたりは、わかっちゃいてもぐっときました。
 ※第135回直木賞受賞作
 【収録作】器を探して/犬の散歩/守護神/鐘の音/ジェネレーションX/風に舞いあがるビニールシート
2006.07.24 Monday * 00:02 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(2)
* 『幸福ロケット』山本幸久
幸福ロケット幸福ロケット
山本 幸久

ポプラ社 2005-11
売り上げランキング :

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 山田香な子は、少々クールで本が大好きな小学5年生。お父さんの仕事の都合で、半年前に葛飾区のお花茶屋に引っ越してきた。それというのも両親の仲が良すぎて、父が母と少しでも長くいたいと母と同じ職場に転職してしまったのだ。クラスで隣の席の小森(通称コーモリ)とは、趣味が違うしあまり話したこともない。香な子にとって、これといって特徴のある男の子ではなかったのだけど、ある日クラスで可愛い子のグループに属している町野さんに小森をデートに誘って欲しいと頼まれてからというもの、なんだか気になる存在になってきて……。

 CDにジャケ買いがあるように、表紙に一目惚れして手に取るものがあります。この本の表紙、子供のころに読んだ童話の挿絵みたいでなんだかすごーく気になってました。ポプラ社から出ているので一応児童書の括りでしょうが、大人が読んでも充分楽しめる可愛くてちょっとせつない初恋物語だと思います。逆に大人が読んだほうが、甘酸っぱい感傷に浸れるんではないかと。
 爽やかな読後感、やわらかくて素直な文章、真っ直ぐな登場人物たち。いや〜良かった! なんていうか、初めから終いまで気持ちよく読めました。装丁と内容がぴったり合っていて、とても可愛らしい一冊。
 読書好きでしっかり者の香な子には、本好きな人は自分を重ねて見ちゃうかも。ロアルド・ダール、星新一、平井和正の「ウルフガイ」シリーズ、半村良などなど。香な子が作中で読んでいる本の数々が、自分の小学生から中学生の頃に読んでいたものと一致して「そうそう、それ読んだ読んだ。ワクワクするよね」と、本好き特有の、同じ本を読んだ人に対する親近感が湧いたり。最初はまったく本を読んだことのなかったコーモリが、だんだん香な子によって本に興味を持ち始めるところも、なんだか自分が薦めたみたいで嬉しい。オススメの本を人に「面白かった〜」って言ってもらえると、どうしてあんなに嬉しいもんなんでしょう(笑)。
 そして、コーモリ! 普通のなんでもない男の子が、話を読み進めていくうちにどんどん格好良く見えてくるんですよ。電車の中でのやり取りなど、香な子と一緒になってときめいてしまいました。クラスメートにからかわれそうになったら、さりげなく話を逸らして庇ってくれたり、病気で入院しているお母さんを毎日見舞って元気づけながら、ひとりで留守を守ったり。コーモリは絶対将来イイ男になりますよ。
 明るいばかりのお話でもなく、コーモリのお母さんの病気のことや、香な子のお父さんが脱サラした本当の理由など、話が浮つかないエピソードもあります。それに直面するときの流れにまた、ぐいぐいと引き込まれるのです。
 香な子の担任鎌倉先生は元モデルでカッコイイ女性で、そんな先生に一目惚れしちゃう香な子のママの弟は自称漫画家の面白い若者です。恋のライバル町野さんも、一見自己チュウに見えるけど恋に一途なだけでラストに株が上がったし、登場人物たちがみんなどこか魅力的。コーモリのお母さんが描く香な子の将来の似顔絵が、なんだか印象に残りました。5年後、10年後、ふたりはどんな風に成長してるでしょうか。その後の話も読みたいなあ。
2006.07.22 Saturday * 18:28 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『Q&A』恩田陸
Q&AQ&A恩田 陸 幻冬舎 2004-06-11売り上げランキング : 72840おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 2002年2月11日(祝)午後2時過ぎ、都内郊外の大型商業施設において重大死傷事故発生。死者69名、負傷者116名。未だ事故原因を特定できず――。次々に招喚される大量の被害者、目撃者。しかし食い違う証言。
 店内のビデオに写っていたものは? 立ちこめた謎の臭いは? ぬいぐるみを引きながら歩いてた少女の姿は? はたして、これは事件なのか、それとも単なる事故か?

 タイトルにあるように、とある集団パニック事件の関係者に対する質問と答えのみで語られていくという、ちょっと変わった構成になっています。なにか出来事があったとき、当事者の数だけ真実もあるのでしょう。中盤までは恩田陸版「藪の中」かなと思ってたんだけど、少しずつ真相めいたものが浮かび上がってきて最終的には事件の背景が掴めました。ぬいぐるみの血の謎も解決した(と思う)し。
 質問者がところどころ代わっていたり、そのシチュエーションも密室での極秘調査から事件地巡りツアーの案内人と参加者まで数々あるのがミソかな。おおもとの事件の直接の関係者だけでなく、二次的三次的関係者が次々と出てくることによって事件が立体的になった感じがします。
 前半と後半とでは、同じ質問と答え形式をとっていながらまったく違った展開になっていってそこが肝でもあると思うけれど、評価が分かれるのもまさにそこかも。私はこういう読後感が好きなのと、Q&Aのみで事件の真相に迫る構成が新鮮だったので評価もちょい高めです。

「これからあなたに幾つかの質問をします。ここで話したことが外に出ることはありません――。」(本文より)
2006.07.20 Thursday * 00:11 | 恩田陸 | comments(0) | trackbacks(2)
* 『西の魔女が死んだ』梨木香歩
西の魔女が死んだ西の魔女が死んだ梨木 香歩 新潮社 2001-07売り上げランキング : 971おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。(「BOOK」データベースより)

 「西の魔女」とは、まいのママのママ、つまりおばあちゃんのこと。そしてその西の魔女が死んだと聞かされ、まいが二年前西の魔女(祖母)と暮らした日々へと想いを馳せるところからこの物語は始まります。少女の成長、祖母の生き方、そして親から子へと受け継がれていくもの。そういったものが西の魔女とまいの生活を通して描かれていました。
 一番の魅力は、やはり西の魔女であるおばあちゃんでしょう。彼女は自然に親しんだ昔ながらのカントリーライフを変えようとはしません。またそれが不自由だとも思ってないのです。野苺ジャムの作り方や洗濯機なしで洗濯する方法などを「魔女修行」という呼び名でまいに教えてゆく様子にも、手抜きは一切ありません。堅物というわけではないけれど、「清く正しく美しく」という言葉が読んでいて浮かびました。そのせいでしょうか。生身の人間の生活というよりも、綺麗なおとぎ話を見ているようで、さらっと読み終えてしまった。ただ爽やかな風が吹いていきました、という感じ。私はとても怠慢な人間なので、おばあちゃんみたいな生活は本で読んだりテレビで見たりする分にはいいんだけど、自分がまいのように「魔女修行」をすることになったらすぐ音を上げてしまいそう(笑)
 この話の中に出てくる自然はみな美しく強か。自然と共にある生活の豊かさを垣間見せてくれます。「西の魔女」からの贈られた最後の優しい魔法も、余韻を残すものでした。
2006.07.18 Tuesday * 00:12 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『語り女たち』北村薫
語り女たち語り女たち
北村 薫

新潮社 2004-04-15
売り上げランキング : 9960
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 男は海辺の街に小部屋を借りた。潮騒の常に響く窓辺に寝椅子を引き寄せ横になり、訪れた客の話を聞こうという趣向だ。架空の夢物語ではなく、日常に起こった体験談を聞かせて欲しいと、全国の新聞・雑誌に広告を載せた。男のもとを訪れるのは17人の語り女(かたりめ)たち。彼女たちが口にする物語はいずれもがどれも不思議な光を放っていて……。

 とても美しい本。
 装丁も、中の凝った印刷も、挿絵も、そして文章も。
 北村さんの文章はいつ読んでも品が良いけれど、ここでは更に美しい言の葉が紡がれていました。語り女たちの話はどれも少し不思議で。あるいは優しくて。一気に読まずに何日もかけてちびりちびりと美酒を味わうように読み進めました。
 ストーリー的にちょっと弱いとは思うけど、これは筋を楽しむ話ではないし、静謐な文章は上品で瑞々しい。文章を味わう本、といった感じでしょうか。そしてその造りの美しさから、手元に置いておきたい本でもあります。夜更けにひとり、毎晩一編ずつ読み進めるのにもってこい。
2006.07.12 Wednesday * 01:50 | 北村薫 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『花まんま』朱川湊人
花まんま花まんま
朱川 湊人

文藝春秋 2005-04-23
売り上げランキング : 20493
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 小さな妹がある日突然、誰かの生まれ変わりだと言い出したとしたら――。早くに父親を亡くして育った妹と、彼女を優しく見つめる兄を描いた表題作をはじめ、子供の時に買ったクラゲのような生き物を掌に乗せた時の甘美な感覚が忘れられない「妖精生物」、人の耳元で囁くと必ず死に至る呪文を操る「送りん婆」など。いずれも関西を舞台に、今は失われてしまった大切なものを思い出させてくれる作品集。

■トカビの夜
 差別というものが中核に置かれていて、さらさら読める話なんだけど、ところどころで胸が痛い。自分の息子が死んだのに、近所に謝って回らなくちゃいけないなんて、辛すぎる。

■妖精生物
 これはまた随分とセクシャルな内容でびっくり。妖精生物という不思議な生き物を買う女の子の話なんだけど、この生き物を手のひらに乗せるとえもいわれぬ快感が少女を襲う。それはつまりエクスタシーというやつで、そこの描写になると漂う背徳感が結構好きです。

■摩訶不思議
 面白おかしくて、ちょっと上方落語的な雰囲気のお話。女は強し、そして男は阿呆でしょうもなくて可愛い。

■花まんま
 表題作だけあって、これが一番印象に残りました。ある日突然妹の様子ががらりと変わり、自分は見ず知らずの女性の生まれ変わりだという。けれどこの話のテーマはそこではなく、兄の妹を思う気持ちが中心になっています。「一生のお願い」と言われて主人公は妹と共に前世の家族たちに会いに行くのだけれど、それはどちらにとってもせつないもの。昔の家族は忘れられない自分たちの娘が違う姿になって現れるわけだし、今の家族(兄)にとっては自分の妹でありながら別の家族を恋しがる姿を見なければならないんですもん。
 俺は力いっぱいフミ子を抱きしめた。
 兄貴というのは、きっと世界で一番損な役回りだ。どんな時でも、妹を守らなくてはならない。(本文より)

 いいなあ。私もそういうお兄ちゃんが欲しかった。

■送りん婆
 言霊の力によって人を楽にあの世に送り出す「送りん婆」。自分の家系が代々それを受け継いでいると知り、叔母に手伝うよう指名されう主人公。こういうことを受け継ぐ話は好きなんだけど、あまり踏み込んだ話ではなくて、伝奇ものとか好きな私にはちょっと物足りないかな。家系とか血脈の方向へ話が流れていってくれればいいのに、と思いながら読んでいました。ラストの部分はちょっと蛇足に感じちゃったな。ただ、言葉には確かに力があると思います。活字が載っている本や新聞を踏めませんもん。

■凍蝶
 これもまた差別が中央にある話。「トカビの夜」は人種差別で差別する側の回顧、こっちは部落差別で差別された側の回顧。ミワさんには暗い先行きしか見えないけど、主人公に救いがあってよかったです。
 ※第133回直木賞受賞作
 ■収録作■トカビの夜/妖精生物/摩訶不思議/花まんま/送りん婆/凍蝶
2006.07.10 Monday * 01:56 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎
オーデュボンの祈りオーデュボンの祈り伊坂 幸太郎 新潮社 2003-11売り上げランキング : 1529おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?


 喋る案山子が出てくる時点で、既におかしな浮遊感のあるふわふわとした世界に足を踏み入れてしまった、という感じ。主人公伊藤が島の人々について知っていく過程は、「そんな島あるんかい」と思っていた気持ちを「ああ、こういうところがあってもいいなぁ」に変えてくれました。
 伊藤がコンビニ強盗したのは切羽詰った状況で、しかも人がいいんだか大人しいんだか中途半端な犯行であっけなく御用。ここで登場してくる伊藤の昔の同級生城山が警官という立場を使って悪辣非道な行いをしているという、なんとも嫌な奴。きっと読んだ人誰もが彼に嫌悪感を示すに違いない。こんな悪党がのさばっていていいのか!とムカムカしながら読んでいたけれど、彼の末路にはすっきりしました(笑)
 たくさん出てくる奇妙で魅力的な島民達。なかでも「桜」という名の男にとても惹かれたなあ。人を殺しても「桜はルールだ」と許される男。彼が主役の話も読んでみたいです。
2006.07.05 Wednesday * 02:44 | 伊坂幸太郎 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『死神の精度』伊坂幸太郎
死神の精度死神の精度伊坂 幸太郎 文藝春秋 2005-06-28売り上げランキング : 12550おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「俺が仕事をするといつも降るんだ」 クールでちょっとズレてる死神が出会った6つの物語。音楽を愛する死神の前で繰り広げられる人間模様。
【収録作】死神の精度/死神と藤田/吹雪に死神/恋愛で死神/旅路を死神/死神対老女

 6篇のお話が、恋愛小説であったり本格ミステリであったりとそれぞれ違った風味を持っていました。
・死神の精度…クレーム処理係の女性と死神。
・死神と藤田…任侠の人と死神。
・吹雪に死神…吹雪の洋館での連続殺人事件と死神。
・恋愛で死神…ストーカーに怯える女性と彼女に恋をしている青年と死神。
・旅路を死神…人を刺してしまった少年と死神。
・死神対老女…老女と死神。
 って、感じかな。死神は千葉さんと名乗っていて、死神はみな地名を名乗っています。で、死期の予定されている人間に近づいて、その死期が妥当であるか見送るかを調査報告するのが死神の役目。妥当なら該当者は1週間後に死に、見送りなら生き延びる。被対象者がどのような死に方をするのかは、死神にも知らされていません。上からの情報も小出しにされたり、あえて教えてもらえなかったりと、宮仕えのようだ(笑)
 その死神の設定がいきていて面白いなあと感じたのが「吹雪に死神」。本来なら死期を知っているはずの死神が連続殺人の探偵役を務めるというもの。死神であることで生じる縛りや、逆に死神だからこそ確定できる条件というのもあって、なるほどと面白く読みました。死神がいることで成り立つ推理があるのだなあ、と。千葉さんが万能でなんでも知っているというわけではないのがミソですね。
 作中、天使が集まるのは本のある図書館で、死神が集まるのは音楽の聴けるCDショップだというような記述があったんですが、そこのところを読んでメグ・ライアン主演の『シティ・オブ・エンジェル』を思い出しました。確かあの映画の中に、図書館に黒いコートをまとった天使たちがたくさん集まっているシーンがあったような……。そこからきているのかな? 伊坂さんもあの映画を見たんでしょうか。
2006.07.05 Wednesday * 02:39 | 伊坂幸太郎 | comments(0) | trackbacks(0)

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