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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『少年陰陽師――闇の呪縛を打ち砕け』結城光流
闇の呪縛を打ち砕け―少年陰陽師闇の呪縛を打ち砕け―少年陰陽師
結城 光流

角川書店 2002-04
売り上げランキング : 33315
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 時は平安。異邦の大妖怪・窮奇を退治するため、毎夜都を見まわる昌浩(あの安倍晴明の孫!)と物の怪(愛称もっくん)は貴船神社で鬼女が丑の刻参りをしているという噂を耳にする。一方、道長の娘・彰子の身にも、妖に取りつかれた遠縁の姫君の魔の手がのびる。それらは全て、窮奇への贄として彰子を手に入れんとする妖異たちの企みだったのだ。昌浩は彰子を救うため、都の闇を叩き斬る!新米陰陽師奮闘記、第二弾参上。(「BOOK」データベースより)

 シリーズ第二弾。前作ではあんまり活躍してないんじゃないの?と言っていた主人公の昌浩についてですが、今回は頑張った! 痛みに耐えてよくやった! ほんと、満身創痍で死にかけながら戦っていましたよ。じい様(晴明)の力にも、今回はそれほど頼らなかったし、少しずつ気力体力能力を蓄えてきているようでよしよし。
 妖に襲われて瀕死の重傷を負った昌浩を見て紅蓮が暴走してしまうところから、それを昌浩が鎮めるまでのところがよかったです。他の神将たちから忌み嫌われた孤独な紅蓮を昌浩が救う、その関係がいいなあと。
 藤原の彰子姫には今後も影が差すような展開で、ちょっと可哀相。大貴族の一の姫でありながら少しも奢らず、自分でもなにかしたいと思う健気なその心根が、ちょっと仇になってしまいましたね。やがては後宮に入り国母にもなろうという彼女と都や藤原家を守る陰陽師昌浩の間にある仄かな恋心は、到底叶えられるものではないだろうけど、まだもうしばらく二人が御簾越しではなく直接顔を合わせて話が出来る関係で入られますようにと見守りたい心境です。
 彰子のこともそうですが、晴明がしきりに自分の寿命がもう長くないことを神将たちに言っているのも気にかかるところ。
2006.08.31 Thursday * 00:23 | ライトノベル | comments(0) | trackbacks(0)
* 『鴨川ホルモー』万城目学
鴨川ホルモー鴨川ホルモー万城目 学 産業編集センター 2006-04売り上げランキング : 2055おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 京都大学に入学した安倍は同じく新入生の高村と葵祭りの帰り道、サークルの勧誘を受ける。京大青龍会という大層な名前のそのサークルは、千年あまりも続いてきた「ホルモー」を行うサークルだというが、何度か会合に顔を出しても一向になにをする会なのかわからない。不審に思いながらも気がつけば「ホルモー」を知りたいがために通うようになっていて……

 最初「王様のブランチ」のBOOKナビで紹介されていて、その後あちらこちらで好評な様子を見かけるようになり、気になって手にとってみました。
 が、う〜ん……正直なところ私にはそれほど面白く感じられなかったなあ。序盤、延々と続く主人公安倍の鼻フェチっぷりと一目惚れの相手(いわゆるマドンナ)へ想いが鬱陶しくて鬱陶しくて。私こういう男の人ってダメかも。なんにも行動に移さないくせに勝手にぐるぐるして悩んで落ち込んで、鈍感だと自分でも言ってるけど結構無神経なとこあるし、もう「いいかげんにせいやー!」ってどやしつけたくなりました。「ホルモー」がなんなのかというのがわかったあたりから少し話が動き出して、面白くなるかなと期待したんだけど、安倍へのイライラは最後まで衰えることなく持続(笑) 結局それが読後の感想を決定付けてしまったような。
 「ホルモー」がなんなのかというのは、実際読んで知ったほうがいいと思うので詳しくは書きませんが、京都大学、京都産業大学、龍谷大学、立命館大学の四校にある目的を同じくしたサークルで行うものです。それらのサークルには、青龍会、白虎隊、フェニックス、玄武団という名前がついているので、鋭い方はなにやらピンとくるかもしれませんね。登場人物名も、主人公の安倍をはじめとして菅原、芦屋、早良、楠木、高村(これは篁からきてるのかな?)などなど、やはりなにかを連想させるネーミング。
 なんじゃそりゃ!?ってことに巻き込まれた若者たちの青春小説とでもいいましょうか。これは舞台が京都だからいいんだろうなあ。京都だったら有りだと思わせるお話。設定は面白く結構楽しめたんですが、恋愛要素(というか安倍のうじうじ片思い度)に傾いた展開が私にはいまひとつでした。
2006.08.30 Wednesday * 00:02 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(7)
* 『弟を殺した彼と、僕。』原田正治
弟を殺した彼と、僕。弟を殺した彼と、僕。
原田 正治

ポプラ社 2004-08
売り上げランキング : 80662
おすすめ平均

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 1984年に愛知県で発覚した「半田保険金殺人事件」。本書の著者である原田氏の実弟・明男さんを含む三人が保険金目当てで殺害された。この事件によって、主犯格の長谷川敏彦をはじめ3人が逮捕・起訴された。当初は事故死だと思われていた弟が、実は殺されていたという事実を知り、著者は大きな衝撃を受ける。平穏だった暮らしは一変し、弟を失った深い悲しみは、時を待たず長谷川敏彦への憤怒と憎悪の念へと形を変えていった。「長谷川に極刑を望む」……著者の願いはただそれのみだった。
 裁判が始まり、一審・二審と長谷川には当然のごとく死刑判決が下されていった。しかし、著者の心の中には「死刑とはいったい何だろう」という疑念が渦巻きはじめる。「罪を背負い、生き続けることこそが長谷川にとって真の意味での罰であり、弟への償いであり、被害者遺族である自分が望んでいることではないのか」と。(出版社の内容紹介より)

 実際の被害者遺族の目で見た、死刑制度についての思いが書かれている。
 犯人が獄中で綴った手記というのなら、今までにいくつか呼んだことがある。しかし、被害者遺族の書いた、ここまで詳細な手記は読んだことがない。
 加害者には人権が認められている。裁判に置いて意見調述も認められている。しかし被害者は法廷で自分の意見を述べることができない。出廷できたとしても、それは検察側の証拠としての発言だけだ。憤り、悔しさ、怒り、悲しみ。そういった遣り切れない思いはどこにもぶつけることができない。罵ることもできない。加害者は法の中に囲われているのだから。
 長谷川敏彦君は、僕の弟を殺害した男です。
「大切な肉親を殺した相手を、なぜ、君付けで呼ぶのですか」
 ときどき質問されます。質問をする人に僕は、聞き返したい気持ちです。
「では、あなたはどうして呼び捨てにするのですか」
「あなたは、僕が彼を憎んだほどに、人を憎んだ経験がありますか」
「あなたは、僕以上に、長谷川君を憎んでいるのですか」
 (本文「僕が長谷川君と呼ぶ男」より)

 う〜ん、読んでいる間中ずっともやもやしたものが胸の中にあったんだけど、それがなんなのかまだわからない。犯罪被害者への救済措置がほどんとないという現在の日本社会も、被害者なのに世間から好奇の目で見られたり差別されたりする現実も、どれもやりきれないというか息が出来ないような閉塞感を感じた。
 私の家族が殺されたら、私は犯人の死を願うだろうか。
 それとも長く生きて悔恨にまみれ、自分を責めて責めて償い続けて欲しいと思うのだろうか。

 著者も言っているけれど、まったく同じ事件なんてない。同じ加害者、同じ被害者なんてのもない。それぞれの事件はそれぞれの事情を持っていて、加害者も被害者もいろいろな人がいる。
「被害者遺族だから、犯人の死刑を望んでいるはずだ」
「被害者遺族の気持ちを考えたら死刑制度を反対するのはおかしい」
 そんな風に一括りにはいかないのに、どうしても世間やマスコミは勝手な被害者遺族像を作り上げている。確かに実際に手を下したのは加害者であるけれど、そういった周りの偏見も暴力とは言えないだろうか。

 「被害者=弱者」なのか?
 被害者遺族は「憐れむべき可哀想な人たち」なのか?

 著者は二十数年をこの事件の後追いに費やし、周囲の反応に傷つき、職場をなくし、健康を害し、家族をも失ってしまう。加害者である長谷川君の実姉も息子もまた、この事件のせいで自ら死を選んでしまう。どこにも持って行き場のない怒りや悲しみが、著者を死刑制度を考える方向へと導いたのではないかと思った。

 犯罪は加害者・被害者だけではなく、その周辺にいる人たちの人生をも狂わせてしまう。それはとても重くて、哀しいことだ。
2006.08.29 Tuesday * 00:39 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『まほろ駅前多田便利軒』三浦しをん
まほろ駅前多田便利軒まほろ駅前多田便利軒三浦 しをん 文藝春秋 2006-03売り上げランキング : 518おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 東京のはずれに位置する“まほろ市”駅前にある便利屋「多田便利軒」を経営する多田はある年の冬、高校時代の同級生行天(ぎょうてん)と再会する。高校時代から変人で通っていた行天は更に奇矯な行動をとるようになっており、どこにも行くあてがないので仕方なく多田が事務所へ連れ帰るが……。便利屋稼業の多田・行天コンビに持ち込まれる以来の数々とその顛末。第135回直木賞受賞作。

 いきなり現れたさして親しくもなかった同級生を連れ帰った多田には、行天の小指の傷に関係する過去があります。それがこの本全体に横たわるキーワードというがシンボルのようなものになっていて、そこからふたりの持つそれぞれの過去とか傷も絡んでくるんだけど、正直なところ多田の屈折っぷりが後半一番の見所でしょう(笑) 一見、行天のほうがいろいろとワケありな過去を持つキャラに見えるんですが、彼はもうとっくに悩む時期を過ぎて、小気味よいくらいにまで突き抜けてるので心配いらないかな。いや、それとも突き抜けたように見えてなにかの拍子に爆発するか崩壊するかしてしまうかも。
 互いに傷を持った男がつかず離れず一緒にいるのは、傍から見るととても不安定で危うい関係にも見えるし、逆に気楽な生活のようにも見える。実際のところがどうなのかというのは本人たちにしかわからない部分なので、もし身近にこんなふたりがいたとしても私は「いいねえ、友達同士で一緒に仕事やって」なんて言ってるだろうな。
 登場するまほろの住人には様々な人がいて、20分2,000円で体を売る娼婦たちやクスリの売人、マンションに住んで塾に通う小生意気な小学生、両親を殺して逃亡中の親友を思う女子高生などなど。そういった人々との出会いや遣り取りを通して、多田と行天の関係も少しずつ深まっていく様子が良かったです。友達とも仕事仲間とも違う、言葉に表すことの出来ない距離感。もう少しこのふたりの話を読みたいので、第二弾が出ることを期待してます。
2006.08.28 Monday * 02:14 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(6)
* 『少年陰陽師――異邦の影を探しだせ』結城光流
異邦の影を探しだせ―少年陰陽師異邦の影を探しだせ―少年陰陽師結城 光流 角川書店 2001-12売り上げランキング : 5225おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「ぬかるなよ、晴明の孫」「孫、言うなっ!」時は平安。13歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。資質は素晴らしいのだが、まだまだ半人前。よき(?)相棒の、物の怪(愛称もっくん)にからかわれながら、修行に励む日々である。そんな中、内裏が炎上するという騒ぎが起き、昌浩はもっくんと共に独自の調査を開始するが…。おちこぼれ陰陽師は都を救えるか!?新説・陰陽師物語登場。(「BOOK」データベースより)

 平安時代が好き、安倍晴明が好き、ということで気になっていたところ、いつも行く図書館に入荷していたので借りてみました。シリーズ第一作目ということで、文章や構成がまだ覚束ない印象。特に文章はふらふら視点がばらつきますねえ。
 内容は晴明の孫である昌浩が活躍する話……のはずなんですが、活躍というよりは迷走中といった感じ。シリーズ開幕編ということで、まだまだこれからでしょうね。主要登場人物たちの顔見世で一作目は終わったようです。昌浩の陰陽師としてのレベルが、スゴイのかそうでもないのかいまひとつ固まっていないので、全体的に不安定な印象になったのかも。レベル上げは段階を経て一歩一歩いってくれることを希望します。
 もっくんが十二神将でありながら晴明に使役されたエピソードも、これから語られるのでしょう。終盤、オイシイところをかっさらっていったじいちゃん(晴明)は、ズルイけど恰好良かったです。
2006.08.27 Sunday * 01:28 | ライトノベル | comments(2) | trackbacks(0)
* 『東京バンドワゴン』小路幸也
 今、WOWOWではFUJI-ROCKの様子を放送していて、レッチリの演奏を見ながらこれを書いています。まとまりのない文章になりそうな予感(笑)

東京バンドワゴン東京バンドワゴン小路 幸也 集英社 2006-04売り上げランキング : 122335おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 明治から続く下町の古書店<東京バンドワゴン>には、ちょっとワケありでおかしな四世代の大家族が住んでいます。頑固一徹な巨漢の家長勘一、伝説のロッカーと呼ばれている60過ぎても金髪で長髪の長男、その娘のシングルマザー、異母兄弟などなどなど。
 そんな堀田家の家訓は、
 「文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」

 そんなわけでご近所で起こったあれやこれやが自然とこの店に持ち込まれ、そして堀田家の面々が一致団結してそれに取り組みます。家族ならではの見事な連係プレー。あうんの呼吸というやつで、下手な会社よりもちゃんと組織立っています。小学生の曾孫たちまでが実にまあしっかりしてる。
 古書店が舞台なだけに本に関することが多いのですが、ひとつひとつの話に繋がりがあって――というか、謎や事件が持ち込まれるとはいえ、ひとつの家族の毎日が描かれているのだから日常がぶつ切りになるわけがないんですよね――最後のエピソードで大団円を迎えます。
 「寺内貫太郎一家」「ムー 一族」「時間ですよ」あたりのホームドラマを髣髴とさせる人情大家族小説です。著者自身もそれらのテレビドラマへのオマージュとしているようですね。家族の中だけでなく、そこに集うご近所さんや常連さんたちの下町らしい人情が味わえますよー。
2006.08.26 Saturday * 01:31 | 小路幸也 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『世に棲む日日』司馬遼太郎
世に棲む日日〈1〉世に棲む日日〈1〉
司馬 遼太郎

文藝春秋 2003-03
売り上げランキング : 3,215
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 嘉永六(1853)年、ペリーの率いる黒船が浦賀沖に姿を現して以来、攘夷か開国か、勤王か佐幕か、をめぐって、国内には、激しい政治闘争の嵐が吹き荒れる。この時期骨肉の抗争をへて、倒幕への主動力となった長州藩には、その思想的原点に立つ吉田松陰と後継者たる高杉晋作があった。変革期の青春の群像を描く歴史小説全四冊。

 前半は吉田松陰、後半は高杉晋作の生き様を描いています。作者の司馬さんは松蔭のほうがお気に入りのように見えるけど、私は高杉が好きになりました。痛快な革命児。坂本龍馬とちょっと雰囲気似てるけど、高杉のほうが予測がつかないというか、爆弾みたいな人です(笑)
 二人とも長州人ですが、この長州という藩はなんとも珍しいところですね。学問に非常に重きを置いていて、松蔭などは幼い頃から藩命により英才教育を施されます。そして藩主自らその学問の進捗状況を口頭試問でチェックするという、書生を大事に育てる藩。高杉もやはり同じように勉学に励みます。なんていうんでしょう、藩全体がひとつの学校のような。
 松蔭が、こんなに純粋培養で世知に疎い馬鹿正直な青年だとは思いませんでした。安政の大獄で処刑されたイメージしかなかったので。この本の松蔭は熱い男です。なにが熱いかというと、理にアツイのです。牢獄の中でも囚人たちに理を説き、自分の考えを話したら処刑されてしまうという場面でも滔々と自分の思う理を述べます。理に生き、理に死んだ人。作中で作者が「これほどのあほうはいない」と書いてますが、それは司馬氏なりの褒め言葉ではないでしょうか。

 高杉はカッコイイんですよ〜。芸達者で歌を詠むのも上手い。追っ手を逃れるのに町人に変装したりして、それがまたどこからどうみても町人にしか見えないエピソードとか、愛人と本妻が鉢合わせることになって逃げちゃうところとか、政治的な峻烈さと真逆な人間的魅力があります。そうそう、高杉は三味線や都都逸も嗜んでいたんですが、

 三千世界の烏を殺し ぬしと朝寝がしてみたい

 ってのが、高杉の作だとは知りませんでした。(他説もあるようですけどね) この都都逸自体は以前から知っていて、なんとも粋で色っぽくて好きな一句だったんですけど。そっかあ、くそう、高杉好きだなあ。
 伊藤博文をして「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し、衆目駭然、敢て正視する者なし。これ我が東行高杉君に非ずや……」と言わしめた御仁。「おもしろき こともなき世を おもしろく」と、辞世の句を上半分しか作らなかった最期も彼らしい。

 あと、高杉と共に行動する後の井上馨こと井上聞多がすごーくよかったです。愛嬌があって目上の人から可愛がられて、けれど時には藩主にさえも厳しく怒号する。それでまた言うことが正しいもんだから、みんな言い返せないんですよね。何度も藩主にキレる場面があるんですが、読んでて気持ちよかったです。井上馨が主人公の話が読みたいなあ。
2006.08.26 Saturday * 01:20 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『鬼の橋』伊藤遊
鬼の橋鬼の橋
伊藤 遊

福音館書店 1998-10
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 平安初期の京都、妹を亡くし失意の日々をおくる少年小野篁は、ある日妹が落ちた古井戸から冥界の入り口へと迷い込む。そこではすでに死んだはずの征夷大将軍坂上田村麻呂が、いまだあの世への橋を渡れないまま、鬼から都を護っていた。現世の橋でも、篁は家族を亡くしひとり五条橋の下に住む少女阿古那、田村麻呂に片方のツノを折られこの世へやってきた鬼非天丸らと知り合う。

 和風ファンタジーの児童書で、児童文学ファンタジー大賞受賞作。
 小野篁は不思議な伝説の残る人。あの世とこの世を行き来できると言われ、昼は朝廷に仕えて夜は冥府で官僚をしていると噂されていたとか。この本はそんな彼の少年時代のお話です。といっても、篁が鬼退治をしたり不思議な術を用いて活躍するような内容ではありません。これはひとりの少年が心の傷から立ち直って一歩大人へと進む物語。
 可愛がっていた妹を自分の不注意から亡くしてしまったという事実は、篁の時を止めてしまいました。父や周囲の大人たちがどんなに心配しても、篁の思考は「あの時ああしていれば…」「あんなことをしなかったら…」という「たら・れば」の中をぐるぐるぐるぐる廻っていて一向にそこから抜け出す気配もありません。13歳にもなって未だ髻(みづら)を結っている篁は、そろそろ元服の儀を行わねばならぬというのに。
 でもこういう心の傷は、本人が乗り越えねば周りがどんなに励まそうが叱咤しようが駄目ですよね。篁の父もなんとか息子を立ち直らせようと言葉をかけるのですが、父の言葉は篁の体を素通りしてしまいます。阿古那や非天丸と出会って、他者を思いやる気持ちを持ち始める篁。それでも貴族に生まれた篁は、悪気がなくても不用意な言葉を言ってしまうんですよね。後で気づいて謝りたいけど謝れない。けど、少しずつ少しずつ変わってくる篁。それが大人になるってことなのかな。最後には、見捨てられかけていた父を逆に支えるまでに。
 ハラハラドキドキとはちょっと違うけれど、爽やかな読後感の残るお話でした。元は鬼で、みなしごの阿古那と出会って人間になろうと努力する非天丸が良かったです。鬼の性で火で浄化された食べ物が口にできない彼はこっそり獣をとって食べるのですが、そんな自分が嫌でぎりぎりまで空腹を我慢し、泣きながら食事をするシーンがあって胸を打ちます。

 タイトルにある「鬼の橋」というのは、現世の五条橋とこの世とあの世の架け橋の両方にかかっていますね。五条橋には元鬼の非天丸がおり、あの世の橋には妖たちが今日の都へ出て行かぬよう死後もこの世を守っている坂上田村麻呂将軍がいます。坂上田村麻呂は蝦夷討伐軍を率いた武将ですが、この話の中でもその史実に触れていました。
2006.08.25 Friday * 00:22 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(0)
* トラバお題「調味料よ永遠に」
 トラックバックBOXの新テーマ「調味料よ永遠に」が、なかなか面白そうななのでやってみました。

 Q.ズバリ、何をかけて食べますか?(薬味もオッケー)

 1.目玉焼き →ご飯のとき:中濃ソース or 醤油 トーストのとき:ケチャップ
 2.納豆   →納豆についているタレ+カラシ+生卵+青海苔
 3.冷奴   →醤油+かつお節+おろし生姜
 4.餃子   →酢+醤油+ラー油
 5.トマト  →なにもかけない
 6.キャベツ →ソース or マヨネーズ or ドレッシング or ポン酢
 7.サラダ  →マヨネーズ or ドレッシング or ポン酢
 8.コロッケ →中濃ソース
 9.とんかつ →中濃ソース+カラシ or 大根おろし+ポン酢
 10.天ぷら  →塩 or 天つゆ+大根おろし
 白飯(おかず無しの時)→生卵+醤油

 目玉焼きにかけるものって、一番意見が分かれますよね。私は、ソースと醤油をそのときの気分で。トーストと一緒のときは、なぜかケチャップ。ソースは中濃が一番好き。ウスターみたいにさらっとしているのは、あまり好きじゃなかったりします。
2006.08.24 Thursday * 23:56 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(2)
* 『彩雲国物語――漆黒の月の宴』雪乃紗衣
彩雲国物語 漆黒の月の宴彩雲国物語 漆黒の月の宴
雪乃 紗衣

角川書店 2005-02-25
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 王命をうけて茶州の州牧となった紅秀麗一行は、ひたすら茶州州都入りをめざす。というのも指定期間内に正式に着任できなければ、官吏としての地位を剥奪されてしまうのだ。新州牧の介入を快く思わない地元の豪族・茶家の妨害工作にもめげず、いちかばちかの勝負に出た秀麗の前に、不可思議な理屈で愛をささやく危険な男・茶朔洵が再び現れて…!?(「BOOK」データベースより)

 シリーズ第5作目。
 無事茶州に入れたものの、州都には辿りつけずに某所で事務処理をこなしています。
 茶州編に入ってからは、影月と香鈴の初々しいカップルがお気に入り。まだ気持ちは伝え合っていないけれど、なんとなくお互いを気持ちをわかっていてあと一歩な感じが応援したくなっちゃうんですよね。香鈴のツンデレっぷりや、ぼーっとしているようで相手をよく見ている影月の意外な男らしさとか。なかなかお似合いのふたりだと思います。
 秀麗は相変わらず大活躍でモテモテなので放っておくとして(笑)、茶克洵がぐぐっと株を上げました。茶一族の中では最も影が薄かった彼が、後半は話の中心になって。逆に前回からやけに魅惑的なキャラとして出ていた朔洵が、私の中ではしゅるしゅるしゅ〜っとしぼんでしまいました。愛を囁くばかりで生産性のないところが、なんかダメ。己の行く末を相手に決めさせるところもダメ。そして秀麗の最後の行動にはびっくりさせられました。あれでいいのか、秀麗? どんなときでも諦めない性格だとしても、あの場面で行っちゃうか。静蘭に関しては、秀麗を巡る鞘当組みには参加して欲しくなかったなあというのが正直な感想です。静蘭よ、おまえもか……。
 茶太保の名誉が回復されたのはよかったです。英姫と霄大師のやりとりで、英姫が「だから妾はおまえが昔から大嫌いじゃったのじゃ」という台詞にほろっときました。
2006.08.24 Thursday * 00:05 | ライトノベル | comments(2) | trackbacks(0)

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