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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 「輪廻」
評価:
優香,清水崇,香里奈,椎名桔平,杉本哲太,小栗旬,松本まりか,小市慢太郎,治田敦
ジェネオン エンタテインメント
¥ 4,154
(2006-07-14)
 昭和45年、群馬県のホテルで起こった凄惨な事件。幼い少女を含む11人が犠牲となり、犯人も謎の死を遂げる。それから35年後の現代。この事件を題材にした映画「記憶」のオーディションに参加した杉浦渚は、見事ヒロインに大抜擢され、実際に事件のあったホテルにて撮影を始めるが…。

 思ったより面白かったです。主役の優香さんの演技も良かった。恐怖に絶叫するシーンの表情やラストシーンなど、タレントよりも女優としてやっていけるんじゃないかと思ったほど。
 ストーリーも少しミステリたっちというか、誰が誰の生まれ変わりなのかというのと、35年前に起こった大量殺人事件の真相はなんだったのかというのが謎となって、最後まで引っ張ります。主人公の新人女優(優香)と気味の悪い夢を見る女子大生(香里奈)の話が平行して描かれていき、途中からそれが交わる。それもすんなりふたりが出会って…というのではなく、ワンクッション軽く見ているこちらの期待を裏切ってからというのが上手いですね。
 主人公が誰の生まれ変わりなのか、予想とは違った答えで上手く「やられた〜」って感じでした。
 しかし、前世の罪の償いというのは、生まれ変わった人間にも科せられるものでしょうか。だとしたら、あまりにも可愛そうです。もし生まれ変わりというものがあったとして。前世と現世では別人だと私は思うし、そうでなければ生まれ変わる意味すらなくなってしまう気がするなあ。
輪廻@映画生活
2007.01.31 Wednesday * 19:11 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『私たちが好きだったこと』宮本輝
 76倍という倍率の公団住宅の抽選に当たった与志。そこへひょんなことから三人の同居人がやってくる。主人公の回想によって語られる少し不思議な2年間の共同生活。

 初対面の若い男二人組みのところに転がり込んでくるという女性二人の感覚が、ちょっと私には信じられない。そして同居を決めたその晩に、それぞれがカップルとなってベッドを共にする。あー、まぁ、あるのかなぁそういういことも、という感じで生温い気持ちで読み始めた。
 この四人のお人好し加減もちょっと度を越している。人のために借金を繰り返し、お金はいつも右から左へと消えてゆく。不安神経症の愛子に会社を辞めて医学部を受験しろと言うのも非常識だし(愛子は別に医者になりたいわけじゃない)、翌日退職してしまう愛子も尋常でない。そして一年間予備校に通い(その費用はみんなが方々から借金をして用意した)、見事私大の医学部に合格する。予備校に通うのにも借金をしたというのに、べらぼうにお金のかかる私大の医学部に入って学費はどう捻出するんだ!

 普通なら到底現実味がなくて腹が立ってもおかしくないくらいの話なのに、何故か一度も中断することなくあっという間に読み終えてしまった。男性陣は30過ぎ、女性陣は20代後半。若さゆえの過ちという歳でもない。そのくせ青臭い部分や大人になりきれない身勝手さが四人共にある。身体を重ね、情が湧き、愛し、裏切り、傷つける。
 う〜む、もやもやとして感想をまとめにくい本だ。
 ただ言えるのは、宮本輝の書く話はどれも登場人物に嫌悪感を抱くことがほとんどないということ。女性陣の一方的な裏切り行為を、男性陣は苦悩しながらも受け入れる。その様子を見ても愛子や曜子をひどい女だとは思わないし、与志くんやロバくんが情けないとも思わない。理不尽な結末なのに、そうだよなぁ、それしかないよなぁ、となぜか納得してしまった。
2007.01.30 Tuesday * 18:48 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(0)
* 当たりでっせ!
20070129_200201.jpg
カップのお蕎麦を食べようと蓋を開けたら、「当たりでっせ!!」と書かれた当選ハガキが入ってました!やったー。
同商品の詰め合わせを1ケース送ってくれるそうです。明星さん、ありがと〜。
思わぬサプライズでご機嫌です。
2007.01.28 Sunday * 15:42 | 雑記 | comments(2) | trackbacks(0)
* 『闇の底』薬丸岳
闇の底闇の底薬丸 岳 講談社 2006-09-08売り上げランキング : 29735おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 面白かったです。乱歩賞を受賞した前作は少年犯罪を描いたものでした。今作は幼い子供を襲う性犯罪を扱っています。重罪を犯しても、数年経てば社会復帰してくる犯人たち。一向に無くならない同様の事件。自分の子供や姉妹を亡くした被害者家族は、どこに救いを求めればよいのでしょう。

 主人公の長瀬刑事には妹をそういった犯罪で亡くした過去があり、母親はそのショックで精神を病み、その母親と離婚した父親は現在再婚して幼い娘がいます。彼と共に捜査をする村上刑事には被害者たちと同じ年頃の娘がおり、作中には他にも娘を持つ登場人物が数名出てきます。誰もがいつ被害者家族になるかわからない状況。それは犯人との接点云々ではなく、社会それ自体が駄目になってしまったがための危機感です。そんな中起こる、幼女を襲う事件を抑止するためとうたった、前科者を狙った連続殺人事件。
 実はこの連続殺人事件の犯人にも幼い娘がいるのです。彼は娘を愛し、娘が健やかに成長できる社会を守るため、少女を狙う者たちへ向けてメッセージを発信しようと決めたのです。前科者をひとりひとり殺していくという手段を使って。

 犯罪を捜査する刑事たちからの視点と、連続殺人犯“サンソン”の視点両方が同時進行で進んでいきます。サンソンが誰なのかというのが最大の謎であり、彼である可能性のある登場人物が幾人も出てきます。私は、ラスト近くまでこの犯人を見破れませんでした。けれど、彼のもうひとつの犯行動機は理解できる気がします。すべては愛する娘のため。最悪な事態を迎える前に、彼はそうしなければならなかったのでしょう。自分ではどうにもできない衝動ゆえに。それを思うと、この『闇の底』というタイトルが薄ら寒いほど怖いものである気がしました。人の心の奥には深い深い闇があって、更にその底を覗いたら、どんなものが見えるのだろうかと。

 読み始めは、犯罪を抑止するための連続殺人という点でちょっと『DEATH NOTE』と似てるかなと思ったんですが、読み進んでいったらそんなことはまったくなかったですね。あっちはキラがどんどん当初の目的からずれていって神になろうとしちゃったけど、サンソンのほうは自分がなにをしているのかをよくわかっているので。

 このラストには意見が分かれると思います。私は余韻が残って好みでした。
 サンソンと家族たちの遣り取りがとても穏やかで哀しかったなあ。
2007.01.26 Friday * 20:51 | 薬丸岳 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『モノレールねこ』加納朋子
モノレールねこモノレールねこ加納 朋子 文藝春秋 2006-11売り上げランキング : 25515おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 加納さんといえば、『ななつのこ』シリーズのような日常の謎系ミステリという印象があります。これはそこからミステリ色を差し引いた、ちょっとせつなくて温かい短編集でした。収められているのは8編。

■モノレールねこ
 デブねこの赤い首輪にはさんだ手紙がつなぐ、主人公の少年と見ず知らずの小学生タカキの話。

■パズルの中の犬
 ジグソーパズルが趣味の主人公。夫を帰宅を待つ時間に取り組んだ白いパズルの中に、犬の気配が立ち上るようになる。

■マイ・フーリッシュ・アンクル
 海外旅行へいった家族を旅先の火事で一度に全員失ったことで始まった、中学生の主人公と働かず家にいるだけで何にも出来ないダメダメな叔父さんとの二人暮らしの話。

■シンデレラのお城
 三十路を過ぎた主人公は周囲に五月蝿く言われるので、居酒屋で知り合ったミノさんという男性と偽装結婚することにする。傍目には仲睦まじい夫婦を演じていたが、実はミノさんには死んだ婚約者が見え、そばにいて共に生活しているというのだった。

■ポトスの樹
 幼い頃から、どうしようもないろくでなしの親父に虐げられてきた主人公。結婚して子供が出来たある日、思いもよらないことが起こる。

■バルタン最期の日
 ある日子供に釣り上げられてしまったザリガニの俺。飼われた家は、会社で人間関係に悩む父親と、学校でいじめにあっている息子、そんなふたりを気遣いながら無理に明るく賑やかそうと頑張る母親のいる家庭だった。

 温かい短編集と書いたけれど、意外と人が作中で死んでいます。殺人事件とかではなく、事故で家族を亡くしたり、過去に恋人を亡くしたりという、死者に関わる思い出やエピソードの多さが目立ちました。
 お気に入りは「マイ・フーリッシュ・アンクル」。ある日、亡くなった家族が火事にある直前に投函したらしい絵葉書が主人公のもとに届くんです。そこで叔父さんが天国にいる家族に向けて、自分たちも手紙を書こうと言い出す。焚き火で燃やせばきっと天に届くからと言って。そこで判明した叔父さんの秘密と、それを知られた後の叔父さんの様子がいいんですよー。ラストシーンもまた幸せな終わり方でよかったです。
2007.01.25 Thursday * 18:32 | 国内ミステリ | comments(0) | trackbacks(1)
* 水曜ミステリー9「顔のない女」
 昨日書いたエド・マクベインの作品を原作とした2時間ドラマの第2作目。主人公・久留島に女の赤ちゃんが生まれてました。前作では妻・泉が身重だったんですよね。事件の合間にほっとひと息つけるような、親子三人のほのぼのシーンもありました。

 レストランのワインセラーで見つかった、この店に出向していた女性の銃殺死体が発見される。捜査していく中で、彼女が明るく有能だったという面と、複数の男性と関係を持ち不倫までしていたという面の両方が浮かび上がり、神奈川県警都築東署警部補の久留島と同僚の細川はそのいくつもの“顔”に翻弄されるのだが――。

 被害者の周辺を調べていくうちに浮かんでくる複雑な人物像と、久留島の同僚・細川の妻に対する浮気疑惑とがシンクロしていって、「人間が持っているいくつもの顔」というものについて描かれていました。
 相手が自分に見せている顔は、果たしてその人の本当の顔なのか。
 何かをきっかけにしてついそんな風に疑念を持ってしまいがちですが、考えてみたら自分だって人によって多かれ少なかれ見せる顔は違うものです。家族に向ける顔と他人に向ける顔は違うし、好きな人に対する顔と嫌いな人に対する顔も違う。
 ドラマとは関係ないけど、『ガラスの仮面』でも「女優はいくつもの仮面を持っていて、役柄によってそれをつけかける」というようなことを言っていたのを思い出しました。
 人はいくつもの顔を持っていて、それだからこそ人物像は立体となり奥行きを感じさせるものなのかもしれませんね。

<原作>エド・マクベイン『被害者の顔』(ハヤカワ文庫刊)
<脚本>森下 直
<監督>土方 政人
<出演者>上川隆也/黒谷友香/竜雷太/忍足亜希子/甲本雅裕/小野武彦/田山涼成/絵沢萌子/島かおり/田中哲司他
<参考>・テレビ東京「顔のない女」公式ページ

 面白かったです。第3作目も作って欲しいなあ。課長と鳴さんの将棋のシーンは笑いました。今回は細川が前面に出てきてたので、次は課長に絡んだエピソードをお願いしたいです(笑)
2007.01.25 Thursday * 18:10 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(0)
* テレビ東京の87分署シリーズ「殺意」
 本放送は2005年の9月だったそうですが、私が見たのは今月14日に再放送されたもの。面白かったー。テレ朝の「相棒」みたいにシリーズ化してくれないだろうかと思っていたら、昨日その第2作目が放送されました。やったー! エド・マクベインの87分署シリーズを原作にした内容で、この1作目は『殺意の楔』からとった「殺意」。

 首吊り死体で見つかった財界の大物。自殺に思われたが、都筑東署警部補・久留島はささいなきっかけから他殺を疑い、単独で捜査をする。その頃、久留島を逆恨みする女が拳銃とダイナマイト持って人質をとり、刑事課に立て籠もっていた。

 という話。密室殺人の謎と立て籠もりふたつの事件が同時進行し、本格ものとサスペンスの両方が味わえて緊張感がありました。刑事課の外にはまったく立て籠もり事件が気づかれていないことから、刑事たちと立て籠もり犯の女の心理戦が面白くて。
 なんとか外部に連絡を取ろうとする一方で、久留島が帰ってくるのを引き伸ばそうとする遣り取りの数々。こういうクローズドサークルものがそもそも好きなんですよね。マクベインの87分署シリーズは未読なんですが、これを見て読みたくなりました。

<原作>エド・マクベイン『殺意の楔』(ハヤカワ文庫刊)
<脚本>田中一彦
<監督>土方政人
<出演者>上川隆也/浅野ゆう子/忍足亜希子/竜雷太/田山涼成/甲本雅裕/田中哲司/村井克行/吉行和子/水川あさみ他
<参考>・テレビ東京「殺意」の公式ページ
2007.01.24 Wednesday * 22:05 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『きつねのはなし』森見登美彦
きつねのはなしきつねのはなし森見 登美彦 新潮社 2006-10-28売り上げランキング : 14598おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools

 京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。注目の俊英が放つ驚愕の新作。細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。さらに次々起こる怪異の結末は―。(「BOOK」データベースより)

 京都という土地には、どこかほの暗い闇の匂いがする。歴史ある町並みや重要文化財の数々が鎮座ましましているだけではない、土地の持つ霊的な力というものを感じてしまう。そんな土地柄だからだろうか、この本の中で語られる不思議譚がなんの解決もなく、読者をぐわりぐわりと揺す振るだけものであっても、なんとなく納得してしまう。
 「芳連堂」という名の骨董店、狐の面などなど、四つの物語が少しずつリンクしている。それはほんの微かな接点で、そして微妙にずれている。はっきりとしたリンクでないところがまた読んでいてもやもやとして、不安定な地面の上に乗っているような気にさせられる。
 読む前に期待し過ぎたかな。表題作の「きつねのはなし」以外は少し退屈してしまった。朧で淡い怪談ともいえるのだけど。
 四つの話が終わった後、読者の前に姿を現すのは、真っ暗な淵だろうか。
 それともつるりとして捉えどころのない狐の面だろうか。

<収録作>きつねのはなし/果実の中の龍/魔/水神
2007.01.23 Tuesday * 20:42 | 森見登美彦 | comments(2) | trackbacks(1)
* 2007年本屋大賞ノミネート作品
一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ--失われた町陰日向に咲く風が強く吹いている鴨川ホルモー終末のフール図書館戦争名もなき毒ミーナの行進夜は短し歩けよ乙女
〜 2007年本屋大賞ノミネート作品 〜
 『一瞬の風になれ』佐藤 多佳子(講談社)
 『失われた町』三崎 亜記(集英社)
 『陰日向に咲く』劇団ひとり(幻冬舎)
 『風が強く吹いている』三浦 しをん(新潮社)
 『鴨川ホルモー』万城目 学(産業編集センター)
 『終末のフール』伊坂 幸太郎(集英社)
 『図書館戦争』有川 浩(メディアワークス)
 『名もなき毒』宮部 みゆき(幻冬舎)
 『ミーナの行進』小川 洋子(中央公論新社)
 『夜は短し歩けよ乙女』森見 登美彦(角川書店)

 というわけで、本屋大賞候補作が発表されましたね。う〜ん、既にもう話題になっている本ばかり。ネット環境にある人にとってはブログや書評サイトでお腹いっぱいになるくらい見ている題名ばかりだし、ネット環境になくてまめに本屋に足を運んでいるような読書家にとっても、これはもう見飽きるくらい見ている書名でしょう。定評のある作家の新作や話題になった本たち。
 となると本屋大賞って、普段本を読まない・本に興味がない人たちへ向けたオススメ本って定義になるのかな。去年は前回は『東京タワー』でしたしね。でもまあ、本屋大賞の帯を見て、または話に聞いて、ひとりでも本を買う人が増えれば、それはそれでやる意味もあるでしょう。世の中の人がみんな本好きなわけじゃないんだし。
 さて、今回はどれが大賞となりますか。
2007.01.23 Tuesday * 19:27 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(2)
* 『失われた町』三崎亜記
4087748308失われた町三崎 亜記 集英社 2006-11by G-Tools

 デビュー作『となり町戦争』を読んだとき、設定や話の中に差し込まれる公文書などの凝った造りは好みただけど話自体はもう一歩でしばらく様子見だと思っていた。二作目の『バスジャック』を読んだとき、一作目よりも面白く読んでこの先楽しみな作家だと心の中のメモ帳に要チェックの印をつけた。そして三作目の本書。やった! きた! 私のストライクゾーンにバシッときた!
 この本の中には、三崎ワールドがこれでもかと詰め込まれている。

 30年に一度、原因もわからずに起こる町単位での住民の消滅。それはどうやら町の意志で起きるらしい。失われた町や人々を悲しめば、町はその人たちをも消滅させてしまう。その「余滅」を防ぐため、政府は消滅した町の痕跡を徹底的に抹消し、消滅した町を始めからなかったものにする作業を進める。愛する者たちを唐突に奪われる理不尽さ。そしてそれを悲しむことも許されない状況。そして失われた町は禁忌となり、係わったものに対する「穢れ」という差別が生まれた。愛する物を失った人々はこの消滅現象を食い止めることが出来るのか。

 いやもう、面白かった。ぐいぐい先を読まされた。ただところどころに違和感があることはあった。章ごとに語り手が代わるのはいいけれど、その話の中で登場人物に時々「さん」づけがされるのが妙な感じだった。なんとなく変だなと思っていたら、これは連作短編として小説すばるに連載されていたものだとか。なるほど。
 話の中で「さん」づけされるのは、白瀬さん(彼女が主役の章では「桂子さん」)、脇坂さん、中西さん。そのうち呼び名が章によってかわるのは白瀬桂子だけ。これはなにを意味しているんだろう。彼女と脇坂がメインの章だけ、登場人物の誰かが後に聞いたことを文章にしている、あるいは書き記しているという形式にしようと思っていたのだろうか。そこらへん、もう一度読み返したらなにかヒントがあったりして。

 始めは今私たちの暮らす日本とほぼかわらない場所で起こっている話として読んでいたが、章が進むにつれてどんどんオリジナル設定が顔を出し、「あれ? あれれ?」と思っているうちにすっかりそこはここではない異世界へとなっていた。大きなことから小さなことまで、実に凝っている。その凝りようがまた楽しいと思うのは、もともとSFが好きだからだろうか。
 あるひとつの世界があって、書かれているのはそこに住む者たちが交わしている会話なり描写なりであるのだから、読者が知らない社会制度や文化、風俗も出てくる。それを全部解説していたら、とても話は収束しないだろう。だから、失われた町に係わってくるもの以外については説明なしに進んでいく。そこについてこられるかどうか、あるいは説明されない不安や鬱憤を脇に放っておくことができるかどうかで、この話の評価や感想がかわるだろう。

 ストーリーを追いながら、時々もったいないなとも思っていた。ここに詰め込まれている凝りに凝った設定を使って、あと二、三本長編が書けるんじゃないかと思ったのだ。例えば、奏者の意識や想念を自由に飛ばすことの出来る「古奏器」をメインにした民話的ファンタジーか伝奇もの、「自己同一性障害」の治療で一人の人間を本体と別体と分離するエピソードを広げて本格的なSFなどなど。そういうアイディアを惜しげもなくこれでもかと突っ込んでいるところは、デビュー間もなくアイディア溢れる作家さんだからか。将来的にこの本が、いくつかのシリーズものを繋ぐ本になれば面白いと思う。恩田陸の『三月は深き紅の淵を』のように。

 肝心な内容については、登場人物たちがいろんな行動をとり、それがやがて一本の道へと繋がってゆくのが気持ちよかった。途中、桂子と脇坂の章でどんどん話が横道に逸れていくように見えたときには「どこにいっちゃうんだ、この話は」と思ったけど、その広がりもまた失われた町の消滅を防ぐために必要な物事のリンクであったし。
 登場人物たちはみな、辛い思いをしながらも前に向かって歩き出す。傷つきながらも一歩踏み出す。読んでいる間中どんなにあちこち振り回されても、彼らがひとつの目的に向かって進んでいるからこっちもついていけた。そして、その道がひとつに繋がったとき、まるで彼らと共に苦労してきたように「ああ、やっと……」という感慨があった。特殊な世界観の描写に力を入れているなという印象が、最後には闘う人々の物語を読んだという感想にかわった。
 好みの分かれる作品だと思う。
 読む人を選ぶ内容だとも思う。
 しかし、これは三崎亜記という作家にとって大きな一作になったんじゃないだろうか。
 やがて、空の際が夜の色を深め、宵の明星が光る頃、それは始まった。
「あ……、光」
 月ヶ瀬に、一つ、また一つと、明かりが灯り始めたのだ。光は、まるで一日の終わりの夕餉の明かりのように広がっていった。住む者のいない町に。
 (本文より)
2007.01.19 Friday * 22:22 | 三崎亜記 | comments(0) | trackbacks(1)

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