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評価:
有川 浩
メディアワークス
¥ 1,680
(2007-02)
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あたしたちが被るのは泥じゃない。
図書隊が被るのは血なのだ―― (本文より)
毎回毎回、読み始めは主人公の笠原にイラッとして「駄目だ……やっぱり私は笠原に馴染めない」と思う。もし彼女の同僚だったら、チクチクと嫌味でも言って「なんなんだあいつ!ムカつく〜!」とか叫ばれていたことだろう。そして柴崎に後からサックリ仕返しされちゃうことだろう。そんなことを思いながら読んでいる。けど、途中からそれがだんだん薄れていって、佳境に入ることには笠原の行動に心動かされてたりするのだ。
こんな感じで読み進めること三巻目。今回は図書隊にとってとても大きな出来事が起こる。が、それはひとまずおいといて。巻頭から中盤にかけて前巻から引きずっているラブコメ要素がこれでもかと繰り広げられて、そこらへんは甘酸っぱいというかこっぱずかしいことこのうえない。実はこのラブコメ要素が苦手なので「うおぉぉ……」と悶絶しまくっていた。誰か、誰か塩持ってきて! この口からザーザー吐き出される砂糖を止めて!
堂上と笠原、小牧と鞠江ちゃん、手塚と柴崎、玄田と折口。それぞれの話が出てきて、図書特殊部隊はなにやら落ち着かない。表面上はいつもどおりだけど。前巻で手塚と柴崎は良いコンビになると書いたけど、まさか本当にこういう微妙な雰囲気になるとは……。有能なくせに不器用なこのふたりは、堂上&笠原コンビよりもずっと応援したくなる。あっちはほっといてもラブラブなんで(笑)
あとがきによると、あと一巻でこのシリーズは終わるそうな。あと一冊で終わるのか?というのが正直な感想。この戦いは一朝一夕で終わるもんでもないだろうし、これまで流された血の遺恨もすぐに消えることはないだろう。次の巻で大団円を迎えるとは考えにくい。前向きなエンディングにはなるだろうけれど。
それよりも、ここまで触れずにきていた「メディア良化法」を通した側の信念や思いというのも、是非書いて欲しいな。やや、図書隊側からの一方的な勧善懲悪物語になってきているから。「メディア良化法」を立案した側にも相応のなにかがあってのことだろうし。
「第三章 ねじれたコトバ」から話はシリアスなモードに入り、放送禁止用語に指定されている言葉をめぐっての問題が出てくる。「床屋」や「魚屋」「八百屋」が軽度の放送禁止用語になっているのは、なにかで聞いたことがある。けれど、どうしてそれが放送禁止用語とされたのかは知らない。そういや「町医者」って言葉も、今は「開業医」って言い換えられてるなあ。なにがいけないの? 配慮によるものだったはずが、当事者からすれば逆差別になっているという実態。それに異議を唱える人々(民間人)が初めて出てくる展開には目が離せなかった。明るい展望ではないかもしれないけれど、なによりも悪いのは無関心でいることだと思うので、嚆矢が放たれただけでも大きな一歩だ。
そして物語は佳境を向かえ、「日野の悪夢」を思わせるほど苛烈な戦いが起こる。この第五章はもう、ひたすら頁を繰り続けて一気に読んだ。戦いの収束、図書隊の徽章にカミツレの花があしらわれていることの意味。稲嶺司令好きとしては、カミツレにこめられた思いにうるっときた。花言葉は初めて知ったけれど、優しげな花姿からは想像もつかない意味があったんだなあ。
【このシリーズの感想】
『図書館戦争』
『図書館内乱』
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