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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『きもの文様図鑑―明治・大正・昭和に見る』長崎巌・監修、弓岡勝美・編
 眺めているだけでも楽しくて、手元に置いておきたい一冊。
 明治・大正・昭和の着物や帯、半襟、布などに見られる文様686点をすべてカラーで載せてあります。花の文様ひとつにしても、春夏秋冬それぞれにたくさんのモチーフがあり、幾何学模様にしても物語絵柄の意匠にしても、その成り立ちや着るべき席についてもさらっと触れてあるので、添えられた文章もまた為になります。
 花篭文様の花篭は、ただ華やかなだけでなく中国の伝説から美しい仙女を表すのだとか。若い娘さんの着物に合いますね。麻の葉文様は、麻がまっすぐすくすくとのびることから子供の着物に用いられてきたとか。なるほど、だから水天宮の産着には麻の葉文様が描かれているのか、と楽しく読みました。
 私は昔から、絵柄なら草花よりも御所車や熨斗、薬玉を、幾何学模様なら花菱、万字繋ぎ、亀甲などが好きです。その模様が出来た経緯や意味を知ると、TPOがわかっていいですね。

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2008.01.25 Friday * 00:17 | 国内その他 | comments(4) | trackbacks(1)
* 『クリスマスにさようなら』浅暮三文
 物語の舞台は、アルプスの麓の歴史はあるけれど大国に囲まれた、小さな国の小さな町。クリスマスイヴの晩に様々な事情から捨てられたテディ・ベアたちが、翌朝のゴミ収集車の中で出会い、焼却場へと向かう車中で自分たちの持ち主や身の上を語り始める。

 クリスマスに読もうと思っていたのに、ちょっと時期を逸しました。クリスマスに読みたかったなあ。クリスマスとテディ・ベアなんて、可愛い組み合わせじゃないですか。
 彼らの持ち主は、孤独な怪盗、三十路を超えたギャルソンヌ、成功を夢見る音楽家、双子の少女。どうやってそれぞれの持ち主と出会い、どんな生活をして、そしてなぜ持ち主と別れることになったのか。そして彼らはそのままゴミとして焼却されてしまうのか――。
 印象に残ったのは、孤独な怪盗とその相棒であったテディ・ベアの話「怪盗マルチェロ」です。いつか彼らが再会できるといいなあ。

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評価:
浅暮 三文
徳間書店
¥ 1,365
(2007-11)

2008.01.24 Thursday * 00:39 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『B-PASS SPECIAL EDITION BOOWY 1986-1988』
 まったく彼らは、
 ほんとうに最後の最後まで
 BOØWYでありつづけた。
  (本書「LAST GIGS BOØWY 1988 4.4-5 TOKYO DOME」より)

 BOØWYが解散してから20年目に当たる今年は、ヒムロックのソロ活動20年の記念の年でもあります。そんなわけで、昨年末からBOØWYのDVDやCDなどがバババンと発売され、ファンはかなり懐具合が寂しくなっているのであります。
 この『B-PASS SPECIAL EDITION BOOWY 1986-1988』も、昨年末に刊行されました。内容は、音楽雑誌のB-PASSが1986年5月号からLAST GIGSの記事を掲載した1988年6月号までの約2年間に載せたBOØWY記事や表紙・グラビアを、そのまま一冊にまとめたものです。解散後にいくつも出版された懐古本などと違うのは、やはり当時の熱が感じられるところですね。解散説が囁かれていた頃の記事ではライターさんがナーバスになっていたり、解散宣言後の会場外でのファンへのインタビューなど、読んでいると当時を思い出します。メンバーのインタビュー記事も、順を追って読んでいくと彼らの軌跡を辿れるような気になります。
 きっとこれを買うのはBOØWYのファンで、興味のない人にとっては古い音楽雑誌の記事をまとめただけの代物ですが、我が家では大切に扱われ、本棚では特等席に鎮座ましましています。

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 DVD BOXは8枚組でボリューム大。これのお陰で年末年始はどっぷりBOØWYに浸ってました。

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2008.01.23 Wednesday * 19:32 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 2008年本屋大賞ノミネート作品
 そういえば、本屋大賞ノミネート10作品が発表になりましたね。

 『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹(東京創元社)
 『私の男』桜庭一樹(文藝春秋)
 『悪人』吉田修一(朝日新聞社)
 『有頂天家族』森見登美彦(幻冬舎)
 『映画篇』金城一紀(集英社)
 『カシオペアの丘で』重松清(講談社)
 『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎(新潮社)
 『サクリファイス』近藤史恵(新潮社)
 『鹿男あをによし』万城目学(幻冬舎)
 『八日目の蝉』角田光代(中央公論新社)

 う〜ん、どれがとってもおかしくないですねえ。なんとなく角田さんの『八日目の蝉』が獲りそうな気がするけど、未読なので比較できません(笑)

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2008.01.23 Wednesday * 00:46 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『本からはじまる物語』
評価:
恩田 陸
メディア・パル
¥ 1,365
(2007-12)
 木陰から、ふわっと一冊の青い絵本が飛び出した。
 優雅にひらひらと飛んでいく。
「あれをつかまえろ。あれなら、気質も穏やかで、おまえにもつかまえられる」(恩田陸「飛び出す絵本」より)

 トーハン発行の「しゅっぱんフォーラム」に連載された、18名の作家たちによる本にまつわる短編集。どれも十頁前後と短いので、毎晩寝る前に一編ずつ読んだり、なにかをしながら休憩時間に少しずつ読み進めてもよさそうです。
 一番印象に残ったのは、冒頭に引用した恩田陸さんの「飛び出す、絵本」です。絵本の森に分け入って、バサバサと飛び出してくる絵本を網で獲るんですよ。森の奥の暗い場所にはゴシックホラー系の絵本が生息しているかと思えば、自分が捕獲されたことにも気づかないのんびり穏やかな絵本もいる。そんな絵本の森に行ってみたいなあ。
 本多孝好さんの「十一月の約束」も、本屋で人探し顔をしている人を見かけたら、この話を思い出しそうです。市川拓司さんの「さよならのかわりに」に出てくるその人の生涯が書かれた本の描写がうつくしい。硝子の表紙にレース模様の装飾、彫刻された装画。こんな本、私も作って欲しいです。なんとも不思議で不条理な雰囲気が漂っている梨木香歩さんの「本棚にならぶ」。有栖川有栖さんの「迷宮書房」には、早い段階からニヤニヤしました。
 
 鳥のように飛び立つ本の情景が描かれた話が数話ありましたが、本の世界を旅する読書という行為を拡大すると、そういうイメージになるんでしょうか。

【収録作品】(掲載順)
 「飛び出す、絵本」・・・・・・・・・恩田 陸
 「十一月の約束」・・・・・・・・・・・本多孝好
 「招き猫異譚」・・・・・・・・・・・・・今江祥智
 「白ヒゲの紳士」・・・・・・・・・・・二階堂黎人
 「本屋の魔法使い」・・・・・・・・・阿刀田高
 「サラマンダー」・・・・・・・・・・・いしいしんじ
 「世界の片隅で」・・・・・・・・・・・柴崎友香
 「読書家ロップ」・・・・・・・・・・・朱川湊人
 「バックヤード」・・・・・・・・・・・篠田節子
 「閻魔堂の虹」・・・・・・・・・・・・・山本一力
 「気が向いたらおいでね」・・・大道珠貴
 「さよならのかわりに」・・・・・市川拓司
 「メッセージ」・・・・・・・・・・・・・山崎洋子
 「迷宮書房」・・・・・・・・・・・・・・・有栖川有栖
 「本棚にならぶ」・・・・・・・・・・・梨木香歩
 「23時のブックストア」・・・・・石田衣良
 「生きてきた証に」・・・・・・・・・内海隆一郎
 「The Book Day」・・・・・・・・・・・三崎亜記

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2008.01.22 Tuesday * 22:20 | アンソロジー他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『些末なおもいで』埜田杳
評価:
埜田 杳
角川書店
¥ 1,155
(2006-12)
 私はこれから先何度も、おまえを想って泣くだろう。
 自分を想って泣くだろう。
 しかし私は、生きていくのだ。いつか自分が死ぬまで。(本文より)

 表紙に惹かれて手に取った本。とてもよかったです。第二回野生時代の青春文学大賞受賞作だそうです。そういえば第一回の大賞受賞作『りはめより100倍恐ろしい』も以前読んだことがあるんですが、そちらは合わなかったな。

 不眠症の高校生・檜山(ひやま)は毎晩深い海の底のような夜の町を眺めていた。ある夜、やはり眠れずに彷徨っていた同じ部活の矢鳴(やなる)に声をかけられる。二人は少しずつ会話をするようになり、同じ部に在籍する少女・キューピーさんとも近づき始めるが、矢鳴が「あれ」と呼ばれる奇病に罹り――。

 夜の描写がなんだかいいんです。私にも、深夜ひとりで窓の外を眺めた経験があります。夜が更ければ更けるほど、周囲から音が少しずつ消えていってしんと静まり返る様子とか、照らされていると体が浄化されていくような月の光とか、寝静まった町の中でひとり起きている寂しさとか、そういったものが読んでいる間思い出されました。
 「海の底」と表現された幻想的な夜の描写から始まる物語に、淡白でどこか現実味の薄い語り口がぴったりでした。それでいて情景が目に浮かぶんですよ。全体のトーンが地上からふわりと10センチくらい浮いている感じ。出てくる学生生活もリアルさから少し距離があって、途中から不思議な奇病が描かれても違和感がなかったなあ。
 人々が夢を見ているときに自分ひとりだけが眠れない疎外感。それは、「青春」を謳歌し活き活きと生々しく過ごしている同級生たちと、何ものにも熱くなれない主人公の姿を端的に表しているようにも思えます。そんな夜に出会った矢鳴もまた孤独に彷徨う心を持った少年でした。
 そのままなら周囲と同調できないもやもやを描いた青春小説なのですが、ここで矢鳴が「あれ」という奇病にかかることでファンタジックな要素が加わります。「あれ」とは原因不明で、罹ったら間違いなく死に至る病です。この奇病の描写も、よく考えたら怖い病気なのに、妙に魅力的なんですよ。この話の肝でもあると思うので、「あれ」については詳しく触れませんが、目玉や指、足、腕など体中が痒くなり、そしてそれぞれがやがて……という、普通なら到底信じられない症状。徐々に失われてゆく体のパーツは、少しずつ削り取られてゆく命の分量で、それらはすべて天に帰ってゆくのかもしれません。
 ラストはぐっときました。淡々とした語り口ながら、そこには深い喪失感があります。そして喪失感そのものを云々するのではなく、現実にはすぐにまた誰かを好きになったり何かに熱中したり、どこかでケラケラと笑っているかもしれない自分を想って涙する、そこのところが印象的でした。
 いったい私は何に祈り、何に謝っているのだろう。
 いったい私は誰に祈り、誰に謝っているのだろう。(本文より)

 難というか短所もあります。「私」という一人称で語られる過去の話なんですが、この主人公が時々女性に思えちゃうんですよね。会話の中では自分のことを「僕」と言ってるけど、それでも少し読み進むとどうも女性視点で書かれているように感じちゃう。頭の中を女声で文章が流れていく。なぜだろう。作者の目や考えがところどころに透けてるのかな。
 ともあれ、この作者の新作が出たらまた読みたいと思います。ちょっと追いかけてみようかと思わせる文章でした。

 ※角川書店特設ページで立ち読みができます。
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2008.01.19 Saturday * 00:47 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 第138回 芥川賞・直木賞 受賞作決定!
 第138回 芥川賞・直木賞の候補作が決定しましたね。

【芥川賞】川上未映子『乳と卵』(『文學界12月号』掲載 文藝春秋)
【直木賞】桜庭一樹 『私の男』(文藝春秋)

 芥川賞については追いかけていないので、「あーそうなんですか」という感想が毎回のことであります。
 直木賞については、今回受賞した『私の男』しか読んでいないので、他の作品と比べてどうこう言えませんが、ここ一、二年の桜庭さんの大躍進は目を見張るものがありますね。

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2008.01.16 Wednesday * 23:57 | 雑記 | comments(2) | trackbacks(5)
* 『道具屋殺人事件 神田紅梅亭寄席物帳』愛川晶
 古今亭志ん朝さんが好きで何枚かCDを持っています。『文七元結』や『愛宕山』『芝浜』などなど。といっても、落語に殊のほか明るいというわけではありません。たまにテレビの演芸番組を見たり、図書館で昔の高座のビデオや音源を借りてきたりするくらい。なかなか寄席へ足を運ぶわけにもいきません。そんなわけで年の初めでもあることだし、寄席の雰囲気を味わえる本を読もうかなあと選んでみた一冊。
 出てくる落語はほとんど知っているものだったので話の(物語のではなくて、本書で演じられる落語の)情景が想像できたのはラッキーでした。もちろん知らなくてもなんら問題なく読めるし楽しめると思います。逆に、この本にレクチャーされて落語に興味が出てくる向きもあるでしょう。落語界のしきたりや隠語、寄席の仕組みや演者の雰囲気なんてものにも筆が割かれていました。面白く読み進めていくうちに、気がついたら落語についていろいろ知識が増えている、そんな感じです。

 さて内容についてですが、落語や噺家に絡んだ事件や謎を「落語を演じる」ことによって解明する話が三編収録されています。これがなんというか、今までいくつか読んだ落語絡みのミステリにはなかったものでした。落語が「見立て」になっているとか、落語でオチがつくとかいうのはありますが、主人公の夫である噺家・寿笑亭福の助が演じる落語が謎解きになっているというのは、変わってますね。謎が解けたら、それに絡んだ落語に解釈を加えて高座にかけ、謎解きとするんです。それを見て聞いて真相がわかるという……こうして説明すると、なにやらまどろっこしいな(笑) 読めば言っていることがわかってもらえるかと。
 狂言回しは噺家の妻・亮子、事件解決の落語を演じるのはその夫・寿笑亭福の助、そして彼に事件解決のヒントを出してくれる安楽椅子探偵となるのは、大病を患い言語障害の後遺症があるため引退して房総で療養生活を送っているかつての師匠・山桜亭馬春であります。三編あるうちの一編は殺人事件ですが、残りの二編は日常の謎。
 ミステリとしての謎と事件よりも、ここで扱われる古典落語の解釈が面白かったです。特に、ぴたりと嵌る良いサゲがなかなか見つからない『らくだ』という噺に大胆なサゲをつけた「らくだのサゲ」は、その演じられている落語そのものが出来の良いミステリのようで興奮しました。アレとアレがアレして、コレとコレがこうなるなんて……。しかもちゃんとその前に収録されている「道具屋殺人事件」の中での落語とも繋がってるんですよ。
 あとは登場人物たちがもうちょっと魅力的になればなあ。特に福の助は謎解き落語を披露する人でありながら、ちょっと影が薄い気がします。破綻のない優等生キャラでしょうか。高座に上がっている時の姿に亮子は惚れたそうなので、その格好よさをもっと見せて欲しいかな。
 読後は寄席に行きたくなったし、続編が出たら是非読みたいですね。

【収録作品】
 道具屋殺人事件/らくだのサゲ/勘定板の亀吉

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2008.01.16 Wednesday * 20:19 | 国内ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『工場萌え』石井哲(写真)、大山顕(文)
評価:
大山 顕
東京書籍
¥ 1,995
(2007-03)
 工場ファンにおくる、工場フォト&ガイドブック。(出版社/著者からの内容紹介より)

 わざわざ見学して歩くほどの「工場萌え」ではないのですが、ドライブの途中で工場を見つけると見入ったり、「タモリ倶楽部」で工場の写真を取り上げた時に「おお!」と喜んで見ていたくらいには、工場やコンビナートを眺めるのが好きです。工業地帯の近くで育ったせいもあるでしょうか。家の窓から、遠くに煙突と煙が見えているのが普通でしたから。
 本書に載っている工場の写真は、昼間は無骨な鉄パイプが隆々としていて映画「ブレードランナー」のような近未来SFっぽさがあり、夜は美しさなど度外視でつけられたはずの作業用ライトが、図らずも美しく幻想的でさえあります。SF映画が好きなら、こういう景色にちょっとは惹かれるんじゃないかなあ。なんかこう、わくわくするんですよね。
 本書の写真を撮影した石井さんのブログ「工場萌えな日々」でも、たくさんの工場写真を見ることができます。夜の工場の写真が素敵。

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2008.01.13 Sunday * 01:35 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『水銀奇譚』牧野修
 決して取り戻すことの叶わない何かが失われたのだ。(本文より)

 シンクロナイズド・スイミングに打ち込む高校生香織の耳に、元同級生や教員の訃報が入る。彼らとは小学校が同じで、そのうち亡くなった元同級生とは「真の科学クラブ」という秘密のクラブで一緒だった。彼らの死と小学生時代の出来事に繋がりはあるのか。当時失踪した部長である美少年との関連は――。

 牧野さんの作品はこれが初めてなんですが、随分とざっくりしてるというか、道をならすことなくザクザク進んでいくなあという感じでした。「え、なんでそんなこと出来るの?」「どうして急にそういうのが出てくんの?」と、とにかく「え?」「は?」が読み始めてすぐ頭の中にいくつも浮かび、そのまま細かい説明なしでどんどん引っ張っていかれます。「わかったわかった。細かいこと気にしちゃいけないんだね」と了解してからは、この話のスピードについていくことが出来ましたけどね。
 あとがきを読んだら、作者もそこのところは意図して書いたようで、「リアリズムなんか知らぬ顔の、暢気な野放図さをか描きたかった」とありました。なるほどなるほど。大人になった今と子供の頃の自分の本の読み方は、当然変わっているのですが、それを再認識することになりました。きっと子供の頃に読んだら、細かいことや説明なんぞ求めずに、まったく気にすることなくどんどん読み進んだことでしょう。特に登場人物たちのオカルト趣味やクラブ活動を、面白く読んだだろうと思います。なんの裏づけもない全能感や選民意識というものが、あの頃の私にも多少ありましたもの。ここまでじゃなかったにしても。

 論理的解決というのはなくて、ホラーミステリーと銘打っているけれどミステリ色はほとんどなし。ミステリを期待して読むと肩透かしを食らいます。オカルティズム溢れたホラー青春小説でした。主人公たちがきらきらして眩しいタイプとも違います。十代の頃に持っている孤独やプライド、潔癖さとそれゆえの行動(暴走?)が大半を占め、ある程度年を経た読者は唖然としながら「ああ、そんな感情もあったなあ」と苦く笑うことでしょう。
 作品全体を蔽っているのは「水」です。そしてその「水」の描写が実に幻想的で美しかった。中でも主人公香織と、彼女が好意を寄せている聾者の少年滝田が、作中<水銀>と呼ばれる不思議な水の中で互いの気持ちが溢れ出るシーンは、実に魅力的でした。
 物語が収束した後、たとえそこにある世界が平和で美しくとも、そのために失ったものを惜しみ、なんだか寂しい気持ちになったのですが、この感情はなんでしょうね。彼女たちが失ったものはなんでしょうか。

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2008.01.11 Friday * 20:38 | 理論社ミステリーYA! | comments(0) | trackbacks(0)

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