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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ
評価:
瀬尾 まいこ
新潮社
¥ 380
(2006-10)
 ここから抜け出すのにはパワーがいる。だけど、気づいたのなら行かなくてはいけない。今行かないと、また決心が緩む。そして、私はやるべきことがないのを知りながら、ここでただ生きるだけに時間を使うことになってしまう。(本文より)

 向かない保険の営業職に疲れ、人間関係にも疲れた主人公千鶴が自殺するために訪れた丹後の村。睡眠薬を飲むが死には至らず、宿泊先の民宿たむらの主、田村さんとのおおらかで自然に合わせた生活に次第に影響されていき……という話。
 傍から見ると、どうしてそこ(自殺)までしようと思いつめるのかと思うような千鶴の状況。莫大な借金があるわけでもなし、男に酷い捨てられ方をしたわけでもなし。けど、ふとすべてをナシにしたくなるのってこれくらいの「なんとなく幸せじゃない」状態なのかも。自分の周りの空気が停滞していて、小さな不満や嫌なことが積み重なっていて、でもドラマティックな不幸に見舞われたわけでもない、打破できるようでできない、自分を変えるとか、環境を変えるにはあと一押し何かが起きればいいのにと、ちょっぴり他力本願な甘えが残った状態。

 民宿の主人田村はそんな千鶴に対して実に自然体で接します。死にたいなら止めないし、生きたいなら生きればいい。畑仕事や家畜の世話をして暮らす田村を見ているうちに、千鶴の中にあった心の凝りがほぐれていきます。この田舎と民宿たむらは、疲れた人の休憩所のようなものかもしれません。しかし、癒し云々という言葉を安易に使うのはちょっと違う気がします。なぜならシンプルな田舎暮らしの中に、作物や動物の命を食んで生きているという実感がひっそり描かれているように思えるからです。千鶴が田村に連れ出されて釣りに出かける場面、田村が飼っている鶏を絞める場面。致死量には明らかに足りない睡眠薬で簡単に死ねると思っていた冒頭の千鶴と、手の中に感じる魚の力強さや絞められる鶏の様子を見つめる千鶴の対比など、作者はこっそり隠すようにさらっと描いていました。
 主人公は千鶴ですが、田村側の視点で見たとき、客人が来ては去り来ては去りするのを見送り続けるというのは、結構しんどいんじゃないかなと思います。元はデパートの企画部でバリバリ働いていたという過去も、今の生活と比べると田村本人の居場所や本当にやりたいことはそれでいいのだろうかと、少し考えてしまう。田村が、今の生活を本当に心から楽しんで送っているようには見えなかったもので。だって、纏っている空気は穏やかだけど、馬鹿笑いしたり豪放磊落な面は見えなかったよなあ。どこかに未練の残った世捨て人のような雰囲気が、気になる魅力となっている部分もありました。田村サイドの物語を読んでみたいと思ったんだけど、書かれることはないのかな。

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2008.04.25 Friday * 17:12 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『星空放送局』中村航(著)、宮尾和孝(イラスト)
評価:
中村 航
小学館
¥ 1,365
(2007-11-01)
 どうか君の夜空に、優しい星が流れますように。

 大人の絵本といった感じで、全頁に宮尾さんのイラストがついています。

「出さない手紙」
 牛乳配達の少年に思いを寄せ、渡すことのない手紙を書いた少女の話。

「カラスは月へ」
 月へ帰ることを夢見るうさぎのために、懸命に満月を探すカラスの話。

「星空放送局」
 リスナーからのリクエストに応えて、夜空をデザインする星空放送局の話。

 どれも優しいお話でした。寝る前に読むといいかも。昼間よりも夜、空の見える窓辺かどこかで読みたいですね。三話の中では夜空をデザインする「星空放送局」の話がいいな。あるリスナーから届いた「おばあちゃんが昔見たという彗星」をもう一度見たいというリクエストを叶えようとするも、夜空を変更する部品が足りない事態が発生した星空放送局。そこで急遽その放送を聴いているリスナーたちに呼びかけるんです。誰か時計台にあるその部品を放送局まで届けてくれないか、と。人々の小さな優しさが繋がってゆく様子がよかったです。

 カバー折り返し部分に中村さんと宮尾さんが写った写真が載ってるんですが、それがまたほのぼのするというか、思わずにこっと笑っちゃう写真でした。

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2008.04.23 Wednesday * 01:07 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『黄金の王白銀の王』沢村凛
評価:
沢村 凛
幻冬舎
¥ 1,680
(2007-10)
 自分はなぜ生まれてきたのか。
 なすべきことをなすためだ。(「ススキ野に吹く風」より)

 素晴らしい物語でした。元は同じ一族でありながら、対立し合い百数十年以上争いが絶えない二つの民族、鳳穐(ほうしゅう)と旺廈(おうか)。現在、翠(すい)の国の主であり鳳穐の頭領、十九歳の櫓(ひづち)と、幽閉の身であり旺廈の頭領、十五歳の薫衣(くのえ)。このふたりが対面するところから物語は始まります。若いながらも聡明で思慮深い櫓は、囚われの身でありながらどこか人を惹きつけるものを持っている薫衣にある提案をします。
 曰く、「鳳穐と旺廈をひとつにしよう」と。
 彼らの生まれるずっと前から続いている争いをやめさせる方向へ国を導いて行こうと、櫓は辛抱強く説得します。けれど、既に身中を流れる血にさえ憎しみの遺伝子が受け継がれているふたつの民の戦いは、そう簡単に止むものではありません。まずそうせねばならないと誓ったふたりからして、己の進む道に苦しみます。それはもう、見ていて痛ましいほどの労苦です。誰にも理解されない、それどころか誤解され蔑まれ嘲られ憎悪の視線を向けられるばかりの人生が続きます。表立っては櫓が国王として政を治め、薫衣はあくまでも虜囚の身。王としての孤独や決断に苛まれる櫓と、名を捨て、櫓の妹を娶り、敵である鳳穐の民だけでなく自らの一族にさえ裏切り者、臆病者と謗られる薫衣。十九歳と十五歳で出会ってから二十年以上の、人知れぬ苦闘の歴史が描かれます。

 ファンタジーではありますが剣と魔法の物語ではありません。派手な戦闘シーンもありませんし、特殊な能力やきらめく美貌の登場人物たちが活躍するでもありません。だけど、このふたりの物語から目が離せないんですよ。というより、この世界から出てこれない。ふたりの行く末とこの国の向かっていく方向を見届けずにはいられない。何代も続いてきた戦いに終止符を打つというのは、彼らふたりが一代で成せるほど容易い溝ではないのです。
 なすべきことをなす――この一見単純に見えることが、どうしてこんなにも難しいのでしょう。目の前の憎しみよりも百年先の民の幸福を目指す道は、あまりに険しい。これでもかというくらい主人公達に苦難が降りかかります。まるで殉教者のよう。他の誰にも理解されず、理解させず、互いだけがその意義を知っている。ふたりきりの戦いです。そしてどこまでも続くと思われたそれも終わりを迎えます。まるで付け足しのように素っ気なく置かれた最後の一文が、かえって胸に迫りました。

 表紙の片山若子さんのイラストに惹かれて手に取ったんですが、読んでよかった。良い意味で裏切られました。この愛らしいイラストのイメージとは違った、重くシリアスな物語でした。読後表紙をもう一度見ると、重く垂れ込めた雲が晴れるような、爽やかな風が吹きぬけるような、そんな感じがします。
 初読みの作家さんだったんですが、これから追いかけたいと思います。

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2008.04.18 Friday * 19:49 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『人柱はミイラと出会う』石持浅海
評価:
石持 浅海
新潮社
¥ 1,260
(2007-05)
「僕の仕事ですか? ええ、人柱です」(「人柱はミイラと出会う」より)

 人柱、お歯黒、厄年、参勤交代など、日本人なら耳に馴染みのある風習が実際に定着しているパラレルな日本が舞台。アメリカからの留学生リリーがそれらの不思議な風習と出会い、その風習が定着していることを前提としたロジックで謎が解かれるミステリ連作集でした。
 土地の神様を怒らせないために工事期間中基礎地盤中にその身を置いておく職業「人柱」の話や、議員の影として常に行動を共にし議会中においてもプロンプターの役割を果たす「黒衣(くろご)」の話、警察犬の代わりに鷹を使う「鷹匠」の話など設定は面白く、ミステリとしてはさらっと読めます。恋愛要素もちょっぴりありますが、それもさらっとしているので一見全体的に薄い印象。けれど、よく読むとどれも堅実なロジックが展開されています。中でも、知り合いの未婚女性が車内でお歯黒を塗っている姿を目撃したところから始まって、大きな犯罪へと推理が繋がってゆく「お歯黒は独身に似合わない」がよかったな。

【収録作】
 人柱はミイラと出会う/黒衣は議場から消える/お歯黒は独身に似合わない/厄年は怪我に注意/鷹は大空に舞う/ミョウガは心に効くクスリ/参勤交代は知事の務め

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2008.04.18 Friday * 00:10 | 国内ミステリ | comments(2) | trackbacks(0)
* 『ラットマン』道尾秀介
評価:
道尾 秀介
光文社
¥ 1,680
(2008-01-22)
「何か、思い違いをしていたんじゃないのかい?」(本文より)

 ええもう、道尾作品ではいつでもそうですけど、今回もうまくミスリードされて思い違いしながら読んでましたよ。
 アマチュアバンド内で起こった事故とも殺人事件とも取れる出来事。そして語り手であり主人公の姫川の過去に起こった姉の死亡事故。このふたつが平行して描かれ、片方の真相がわかった瞬間、もう片方の真相もまた明らかになります。う〜ん、相変わらず道尾作品は何を書いてもネタバレになりそうで突っ込んだことが書けないんですが、タイトルの付け方が上手いなあ。ちなみに「ラットマン」とは、前後の文脈によって同じ絵が別の物に見えるという心理学上の有名な絵のことです。いつも読者をミスリードさせ、最後の最後でそれまでの出来事をくるりと反転してみせる道尾作品自体が、トリックアートのようですね。私達は勝手に行間を読んだり、前後の文脈から合理的なストーリーを導き出したりしてしまいがちなのかもしれません。
 作品のキーワードは、「物真似」「家族」「合理化」というところでしょうか。読後、ちょっといい話な雰囲気が漂っていたのは意外。どうしても道尾作品だと思うと眉に唾して読み始めるんですが、疑いながら読み進めても少しずつ違う方向へ誘導されるのはさすが。けど、なんでしょう。どこかスースーした読後感なのは。ミステリとしては「やられた!」と思うのに、物語としてはあまり印象に残らない。ある程度のクオリティが補償されているから、ついハードルを上げて読んでしまっているのかなあ。

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2008.04.16 Wednesday * 20:06 | 道尾秀介 | comments(0) | trackbacks(1)
* 2008年本屋大賞
 大賞は伊坂幸太郎氏の『ゴールデンスランバー』が受賞したそうですね。
 一位から十位のうち既読なのは四作品。未読のうち今手元にあるのが一作、図書館で以前借りたものの期限切れで読まずに返却したのが三作。その時々ですっと話の中に入っていけないこともあるから、波長があったときにでも再チャレンジしようかな。

 大賞 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』
 2位 近藤史恵『サクリファイス』
 3位 森見登美彦『有頂天家族』
 4位 吉田修一『悪人』
 5位 金城一紀『映画篇』
 6位 角田光代『八日目の蝉』
 7位 桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』
 8位 万城目学『鹿男あをによし』
 9位 桜庭一樹『私の男』
 10位 重松清『カシオペアの丘で』
ゴールデンスランバー
ゴールデンスランバー伊坂 幸太郎

新潮社 2007-11-29
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2008.04.09 Wednesday * 20:48 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『桃山ビート・トライブ』天野純希
評価:
天野 純希
集英社
¥ 1,470
(2008-01-05)
 秀吉が権勢を振るい、三成が野心を抱いた安土桃山時代。三味線弾き・藤次郎、笛役者・小平太、太鼓叩き・弥介、舞姫・ちほの4人が一座を結成。型破りな音楽と踊りを武器に権力に立ち向かう…。躍動感あふれる進化系時代小説。(「MARC」データベースより)

 小説すばる新人賞第20回受賞作品。安土桃山時代を舞台にしたバンド小説とでもいいましょうか。時代小説ともちょっと違う感覚でした。「B専」とかカタカナ語もバンバン出てくるし。とにかく主人公たち芸人がロックしてるんですよ。芸人といっても今言うようなお笑いの人たちではなく、踊りやら猿楽やらをやる、京の河原芸人です。出雲のお国も出てきます。秀吉や三成も出てきて、歴史的な流れも取り入れつつ、そんな体制に反発する主人公たちを描いていました。やっぱロックは反体制のほうが格好がつく(笑)
 普通の時代小説を読むつもりで入ると「あれ?あれれれ?」と、少しずれた読み心地に戸惑うかもしれません。文章も上手いわけではないし。けれど、そのエネルギーとパワーに最後まで引っ張っていかれました。「めちゃくちゃだな、おい!」とツッコミ入れつつ、それを楽しんで読みました。どこかスコーンと明るい結末も、この小説の疾走感そのままでいいんじゃないかな。小説すばる新人賞って、結構不思議な読み心地の作品が獲っている気がします。

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2008.04.09 Wednesday * 19:10 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* NHKテキストの栞
08-04-02_20-16.jpg
 本屋のレジ横に置いてある栞や小冊子の類は、必ずといっていいほど貰って帰るんですが、今日本を買った時にふと見たら、可愛い栞がありました。NHKテキストの栞で四種類あり、中でもわんこのイラストが可愛いです。画像は向かって左から男性、わんこ、にゃんこ、女子高生。
 ちなみに今日買った本は、T・M・ジェンキンズの『死者覚醒』とエリザベス・ベアの『サイボーグ士官ジェニーケイシー1 HAMMERED―女戦士の帰還―』の二冊。『死者覚醒』は近未来メディカル・サスペンスで、『HAMMERED』は地球の寿命があと200年の世界で、女サイボーグ戦士の死闘が描かれているようです。
死者覚醒 (ハヤカワ文庫 NV シ 24-1)HAMMERED―女戦士の帰還 (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-1 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 1) (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-1 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 1)
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2008.04.02 Wednesday * 20:22 | 雑記 | comments(0) | trackbacks(0)

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