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評価:
水森 サトリ
集英社
¥ 1,680
(2008-04)
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「家族も友だちも、星座みたいなもんかもな。近くに並んで見えていても、実際には何万光年も離れてるバラバラな星なんだ」(「惑星軌道」より)
デビュー作の
『でかい月だな』に続く2作目。前作が「月」ときて、今作は「星」。
ある日突然隕石が落ちてきた槙野家を中心とし、その前後の出来事が描かれている連作短編集。語り手は話ごとに変わりますが、どの話もその中心にいるのは中学三年の槙野草太という少年でした。明るくルックスも良く人気者の草太はさながら太陽のようで、彼を取り巻く登場人物たちは惑星であったり流星であったりと、いずれも「星」に見えます。
■ルナ
草太と同級生の伊刈はるきは、ここではないどこかへいずれ旅立つ自分を想像することで現状の不満をなんとかおさえこんでいる少女。周囲の女子たちのように恋愛に興じたり、クラス内の人間関係のパワーゲームに上手く対応することの出来ないところがある。人気者の草太のことをいつも苦々しく思って見ないようにしている。けど、それって傍から見るともろコンプレックスってことですよね。それに気になっているからこそあえて意識の外へ押し出そうとしているのでしょう。
うわー、青いなあ。青くて春ですよ。この自意識の塊のようなはるきの「自分は特別」「いつか自分に相応しい場所へ行くことが出来る」という焦燥にも似た思いって、誰でも多かれ少なかれ思春期に感じたものでしょう。読んでいて痛くもあり、痒くもあり。
タイトルの「ルナ」っていうのは、読後「ああ、そういう意味も掛けてあったんだ」と思いました。
■夏空オリオン
草太の父、草一郎の話。草太の出生時と現在の家族のことが描かれていました。草太の両親はいわゆる“出来ちゃった婚”で、草太が誰にも望まれずに生まれてきた子供だということがわかります。そして現在、仕事に追われまくる草一郎を原因として家庭は崩壊寸前でありました。「ルナ」で見えていた明るく人気者の草太の陰の部分でもあります。
この草一郎さんが本書の中で一番の変人でした。いや、もう異性人レベル。誰よりも優しいけれど、誰のことも理解出来ない、愛してくれない。草一郎にとってはその優しさが愛なのかもしれませんが、誰にでも均等に与えられるそれってなんなのでしょう。妻でも息子でも特別にはなれないって、やっぱり一緒に居たら辛いと思うのです。さっちゃん(草太の母であり草一郎の妻)にちょっぴり同情。
■流れ星はぐれ星
前の話「夏空オリオン」に出てきた草太の命の恩人ビビアン(元の名前は耕平、現在はニューハーフ)の話。男を愛する自分を自覚した少年期と、初恋の相手草一郎のことが描かれていました。ビビアンの過去は結構壮絶なものがありますが、そこのところはさらっと書かれるだけで、そういった過去の上に立つビビアンのケ・セラ・セラな生き方がチャーミングでした。
ラストに出逢った謎の男沢田といい、初恋の人草一郎といい、ビビアンは不思議な男に惹かれてしまうようです。苦労するぞー(笑)
■惑星軌道
登場人物総出演といった態の最終話。語り手は草太の同級生高宮。母子家庭の彼は、周囲の偏見にわざと応えて素行の悪さを見せつけるところのある、敏いくせに不器用な不良君です。彼と一緒に居る草太のほうが、ずっと暗い部分を持っているように見えますね。といってもその暗さは「悪」ではなく、老成しているともとれる「諦観」や「悲観」に通じる暗さです。太陽のようだと、高宮をはじめ周囲の者がみな草太を評するけど、太陽の中にも黒点があるように、草太の中にある暗い部分は明るさに隠れて見えていないだけじゃないでしょうか。だからこそ、明るさだけではない草太を中心に人々は接点を持つんじゃないのかな。
『でかい月だな』でもそうでしたが、水森さんはどんなに近しい人間でも、人が固体である限り決して分かり合えない部分がある、ということを根底に物語を書いている気がします。これから書く作品の中でそれが変わっていくのか、いかないのか。そこのところも気になりますね。
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【収録作】
ルナ/夏空オリオン/流れ星はぐれ星/惑星軌道
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