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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『かもめの日』黒川創
評価:
黒川 創
新潮社
¥ 1,680
(2008-03)
 朝は、誰の上にも、適当にやってくる。この地球の上では、夜の終わりの尻尾の先など、誰もつかまえたことがないのだから。(本文より)

 1963年、女性初の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワは地上との交信で「わたしはかもめ!(ヤー・チャイカ!)」と彼女のコードネームを叫び、そのフレーズはチェーホフの『かもめ』に登場するニーナのせりふと同じであった――。
 そんな話から始まる物語は、宇宙空間からすっと東京の街中にカメラを移動させ、そこに現れる様々な人々をランダムに映していくように見えます。ベンチで目を覚ました太った青年、彼が探している少女、ラジオ局のAD、フリーの女性アナウンサー、DJ、作家などなど。少し触れてはまた次の人物へと、カメラワークは絶え間なく切り替わり、やがて読み手は彼らが細い糸のようなもので繋がっていることを知ります。はっきりとした起承転結や大きな山場は訪れず、ともすればなんだか消化不良な印象を持ってしまいそうになりましたが、それは小説の出来不出来というよりも個人的な好みによるものでしょう。少女の過去に関わるエピソードの決着が、私には納得いかなかったのです。
 でも、ラストシーンにちょっと救われたかな。
 「かもめ」はそこにいました。

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2008.06.26 Thursday * 22:31 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『食堂かたつむり』小川糸
評価:
小川 糸
ポプラ社
¥ 1,365
(2008-01)
 私は洗い立ての手のひらで、それらの食材にそおっと触れた。そして、生まれたばかりのちいさな命を慈しむように、ひとつひとつ、両手で持ち上げては顔の近くまで抱き寄せて、目を閉じたまま数秒間、食材達と言葉を交わす。
 誰から教わったわけでもないのに、気がつくと私は、料理を始める前、いつもこの儀式をするようになっていた。(本文より)

 失恋と共に家財道具も財産もなくした倫子。ショックで声までも失った彼女は、故郷へ戻り、昔から確執のある母に資金を借りて「食堂かたつむり」を開く。その食堂は、一日に一組の客しか扱わない。そして事前にメールやファックスでやりとりし、それぞれの客に合うと思われる料理を出す。なぜか彼女の料理を食べた人たちにはささやかな幸福が訪れ、やがて評判になっていくのだが――。
 倫子が故郷に戻って昔馴染みの“熊さん”に助けてもらいながら、コツコツと手作りで食堂を作り上げていく過程が楽しかったです。椅子を塗ったりテーブルクロスを縫ったりと、お金がないという第一の理由の他に、自分の城を築き上げていくワクワクした感じが伝わってきました。それは料理の場面にも感じられました。手元にある素朴な食材からふんわりと温かい料理が出来上がっていく。物作りと料理は似ているのかも。
 ただ、物語そのものに関してはやや甘さを感じます。誰をも惹きつける吸引力がある本と、波長が合う人には溜まらなく大事にされる本があるとしたら、これは後者でしょう。
 テーマは再生と修復かな。料理をするということ、食べ物をいただくということは、他者の命をもらっているということだというのを痛感するエピソードが後半出てきます。それがあることでそこまでのやさしい雰囲気が壊れたと感じる人もいるでしょうが、私はその場面でようやく倫子の料理人らしい姿を見たように思いました。それまでも料理をしている描写はたくさん出てきますが、どれもどこかおとぎ話めいていたんですよね。
 「王様のブランチ」で作者の小川さんがこのお話の中に出てくる“ジュテームスープ”を作ってました。他のメニューも見てみたかったな。ある家族が、ボケたおじいさんのために全員で食べに来るお子様ランチとか。

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2008.06.19 Thursday * 18:42 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『普段に生かす にほんの台所道具』吉田揚子
評価:
吉田 揚子
技術評論社
¥ 1,554
(2007-10-06)
 道具は使ってこそ、そのよさがわかる。(「日本の道具で作る食事」より)

 日本の食卓の音といえば、台所からトントンと聞こえてくる包丁とまな板の音。ぐつぐついう鍋から流れてくる美味しそうな匂い。そういうイメージがあります。今は随分様変わりして、台所というよりシステムキッチンが多く、食材や道具も洋風なものが増えたけれど、懐かしく思い浮かべるのはそんな風景。
 私が子供の頃はまだまだ和風な造りの家が多く、お勝手でひとり黙々と作業をしている母親の後姿があったものです。菜っ切り包丁に木のまな板、せいろ、簀巻き、すり鉢とすり粉木、鰹節削り箱、飯台に手ぬぐいなんてものがそこにはありました。よく「ちょっと、すり鉢押さえてて」なんて言われて手伝ったものです。
 鰹節を削るのが好きだったんですが、なかなかシュッシュと上手く薄くは削れないんですよね。ガッシャガッシャやって木屑みたいになっちゃう。鰹節を二本、拍子木みたいにカンカン鳴らして遊んで怒られたこともしょっちゅうでした。今じゃ袋に入っている花鰹を買って、自分で削らなくなっちゃったなあ。すり鉢もあんまり使わないなあ。簀巻きで飾り巻きも作ってないなあ。飯台にご飯移して寿司飯作ることもしてないなあ。
 なんだかものすごく勿体ないような、寂しいような気持ちになってきました。

 この本は、日本に昔からあった22種類の台所道具を取り上げ、その使い方、選び方、手入れの仕方、それを使った料理のレシピ、そしてそれが出来た経緯から当時の日本の暮らし、作り手の方のお話まで、実に幅広く語られています。道具の説明やレシピなどが絵で図解されているんですけど、これがまたほっと温かみのある絵でいいんですよ。眺めているだけでも楽しい。包丁の項目にある飾り切りなんかは、知らないものもありました。ねじりこんにゃくはよく作るけど、ひまわりウインナーって初めて見たかも。
 ついつい時間短縮や手間を省けるものへと目が移ってしまいがちですが、日本の道具は本来造りもシンプルで無駄がなく、電気も使わなければゴミも出ない優しいものばかり。普段は親の代からの木のまな板と菜っ切り包丁を使っていますが、これを読んで、子供の頃母から教わったいろんな道具を、もう一度使おうかなと思っています。人にプレゼントするのにもいい本かも。

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2008.06.17 Tuesday * 19:06 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『日本のおかず』西健一郎
評価:
西 健一郎
幻冬舎
¥ 1,680
(2008-03)
 割烹「京味」の主人による家庭料理のレシピ本。どれも難しい作業はなく、なんだか簡単そう。けど、決して手を抜いているわけじゃないんですよね。だしをしっかりとるとか、そういうところをきちんとしていれば特別なことをしなくても美味しいものが出来るってことなんでしょう。普段だし入り味噌とかを使って味噌汁を作っている身としては、ちょいとばかり「すいません」て気持ちになりました。
 載っているのは、普通の食材で出来る普通のおかずばかり。ちっとも敷居が高く感じられないし、基本のおかずが多いのですぐにチャレンジできますね。

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2008.06.17 Tuesday * 18:06 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『さようなら窓』東直子
評価:
東 直子
マガジンハウス
¥ 1,575
(2008-03-21)
「青鬼は、むごいよ、むごすぎる。赤鬼に、なんの相談もせずに、書き置き一枚で永遠に姿を消すなんて」
「永遠、なの?」
「あたし、青鬼の書き置きの最後の言葉、覚えてる。“ドコマデモ キミノ トモダチ”だよ。二度と会うつもりがないから、こんな残酷なこと書けるんだよ」(「青鬼」より)

 「王様のブランチ」で紹介されていた本です。作者は『とりつくしま』の東直子さん。物事を考えすぎるきらいのある感受性の強いきいちゃんと、その恋人でどこまでも優しく、眠れないきいちゃんのためにいろんなお話をしてくれるゆうちゃんの物語。一言でいうときいちゃんは本当にダメダメで、見ていてちょっとイライラするかな。彼氏であるゆうちゃんもあまりに優しすぎて、ふたりの甘くふわふわとした毎日がどこか酷く病んでいるようにも見えました。社会人と大学生の男女が砂糖菓子の家に住んで必死にオママゴトを続けているような、歪な感じ。人は霞を食べては生きていけない、という考えが基本的に私の中にあるせいか、ふたりの美しくて優しい生活を、やがては破綻する前提で読み進めてしまいました。
 冒頭に引用したのは、第一章の中できいちゃんとゆうちゃんが童話の『泣いた赤おに』について話してる箇所です。このお話を持ってきていることで、尚更ふたりの生活が、やがては赤鬼と青鬼のそれとダブっていくのだろうと予感させられました。赤鬼のもとから去った青鬼を強く非難するきいちゃんもまた、現状のままではいけないと一歩前へ進むことを決意することになります。赤鬼と青鬼、ゆうちゃんときいちゃん。まったく同じように辿っていくわけではないけれど、ラストシーンを読み終えた後、冒頭のこのふたりの遣り取りを読み返してみると、青鬼が残した短い別れの言葉も、少しだけ違った印象を持って見えました。

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2008.06.16 Monday * 23:47 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『さよなら絶望先生 第13集』久米田康治
 この巻ではアニメ第二期終了ということで、久米田先生がペットロスならぬアニメロス症候群に陥ってました。最初アニメ化決定の報が出たときは「嘘だ」とか「罠だ」とか言ってめちゃめちゃ懐疑的だったのに。原作者がアニメのパワーにポロロッカされてちゃ駄目ですよー。とはいえ、アニメは随分とネタを提供してくれたし、そっち経由で原作に流れてきた人たちも多くいるしで、ちょっぴり寂しくなっちゃう気持ちもわかります。あとはこの寂しさをバネに、インターナショナルな生前サーとして活躍してくれるのを願うばかり。フランチャイズ化も推し進めて、マンガも描けちゃうプロ生前サー。
 内容のほうは、イヤなところでたすきを渡されちゃう話やそれぞれの持つ“ものさし”の話にバレンタイン話、我慢強い日本人が我慢しなくなったらの話などなど。印象に残っているのは、我が国の国家機密を盗もうと某国が仕掛けたハニートラップの話です。確かにある意味精鋭部隊ですね。それに某国のコピーはクオリティが低すぎる。“ハヒル”には衝撃を受けました(笑) “我慢しないくらべ”はどれも「あるある」と思うし、“急場しのぎ力”のブラックな落ちも好きです。節分の豆まきから見えない敵と闘っている人たちの話へと繋がるところも面白い。
 キャラ的には、新しく出てきた隣の後者の一年生が可愛くって好きです。

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2008.06.16 Monday * 18:00 | 漫画 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『温かな手』石持浅海
評価:
石持 浅海
東京創元社
¥ 1,470
(2007-12)
「人間は、人間を憎むよ。深い憎しみで人を殺すこともあれば、『カッとなって』っていう突発的な憎しみでも人を殺す。人間は他の生き物を憎まない。人間が憎むのは同じ人間だけ」(「子豚を連れて」より)

 いろんな味付けの楽しめる連作短編集。登場人物はちょっと特殊な設定です。人間ではないけれど擬態として人間として暮らしている知的生命体のギンちゃんやムーちゃんが探偵役で、彼らのパートナーであり“食料”提供者である寛子と北西君がワトソン役です。ギンちゃんたちは人間の体内に発生する過剰な生命エネルギー(平たく言うと過剰カロリー)を主食としていて、寛子たちからそれを頂いて生活しています。捕食者ともいえるけど、死ぬまで吸い尽くすわけでもないし、実際吸血鬼のように牙を立てて傷を残すこともありません。手のひらで触れて、余分なエネルギーを貰うというスマートなやり方。彼らのお陰で寛子や北西君はどんなに食べ過ぎても太ることはありません。羨ましい!(笑) ああでも、魂の綺麗な人間のそれが美味であるそうなので、私からは食べてもらえなさそうです。
 収められている短編はどれも石持さんらしいロジックに溢れたものでした。登場人物は同じなのに、どれもカラーが違うのも読んでいて楽しかった。飛行機に乗らずしてマイルを貯める陸マイラーの話「大地を歩む」では、着眼点次第でいろんなことからミステリって作れるんだなと驚きました。
 個人的に一番面白かったのは、それまで一緒にキャンプをしていた仲間が森の中で心中を図っていた「陰樹の森で」。ミステリの、それも本格モノの中では死体はまるで装飾品のように美しく扱われているのも珍しくないのに、この話の死体には排泄物の描写があります。そのリアリティにもまず驚いたけれど、それが謎解きに絡んでくるあたりに感嘆。そして真相に、それまで見えていた仲間達の嫌な面とロマンチックな面が浮かび上がってくるのがよかったです。全部が全部賛成はできない、けど全部否定することもできない。そういうなんともいえない感じが石持作品の魅力だなあとも思います。
 ラストの「温かな手」では、ギンちゃんと寛子、ムーちゃんと北西君が一堂に会して共に行動していました。そこでの出会いと別れが仄かに温かくてせつないのです。特に、彼らの行った先にいたひとりの老女からは、人間の悲哀が感じられました。

【収録作品】
 白衣の意匠/陰樹の森で/酬い/大地を歩む/お嬢さんをください事件/子豚を連れて/温かな手

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2008.06.10 Tuesday * 17:57 | 国内ミステリ | comments(2) | trackbacks(2)
* 『はじめての甲子園 4』火村正紀
評価:
火村 正紀
スクウェア・エニックス
¥ 420
(2008-05-22)
 『はじめての甲子園』通称「はじっこ」の4巻目。おお〜、今回はやっくんが表紙だ。色もアイスブルーで爽やかじゃありませんか。二の線、二の線。これが超のつくド天然天才球児だとは(笑)
 さすがに4巻目ともなると、各キャラクターが自ら動き出している感じがしますね。話もどんどん野球展開になってきているし、緑ちゃんのお兄さんとか、二屋と新道の元バッテリーに触れたエピソードとか、話に広がりが出てきています。その分、いつもより犬成分が少なめでちょっぴり寂しい。でも、次巻予告で「犬も大幅増量の第5巻」とあるので楽しみです。
 さて、この巻で特筆すべきは、甲子園出場を果たした大東海学園の試合展開と新道についてでしょう。ドSで鬼畜な新道の、新たな一面が見られたのが、新道スキーにとっては嬉しい巻でした。過去話で二屋と一緒にいる時の新道は今ほどドSでも鬼畜でもないように見えるんだけど、やはりこれは二屋を置いて大東海学園へ行ってしまったことと関係あるんでしょうかね。
 ギャグ部分で面白かったのは、妹萌えと闘うアミ彦と、「公転公転」「自転自転」「寂しくって滅亡しそう」の流れと、味方の応援団から激しく野次られる新道。他にも面白かったところは多々ありますが、このあたりが一番印象に残ってます。
 ちょっぴり絆の深まった観のある二屋と緑ちゃんの土高バッテリー。次巻ではお兄さんが緑ちゃんを連れ戻しに来るようですが、果たしてどうなることか。

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2008.06.10 Tuesday * 17:17 | 漫画 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『ONE PIECE 巻50』尾田栄一郎
 ついに50巻目。スリラーバーク編も終了しました。この巻ではなんといってもゾロが格好良かった! 他のクルーたちもそれぞれみんな船長や仲間のことを思っているけれど、ルフィとゾロは最初に仲間になった者同士、とても強い信頼関係があるように見えます。ずっと前にゾロが鷹の目と闘った時や、空島でルフィが「ゾロ!おめぇがついていながら!」と叫んだ時など、何度か同じことを思ったことがあります。
 それに関連してサンジやブルックも渋いところを見せてくれました。音楽家であり剣士でもあるブルックの過去、彼の所属していた海賊団の顛末も語られていました。辛いことがあっても飄々として前向きなブルックは、麦わら海賊団と相性良さそうですね。

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2008.06.10 Tuesday * 16:36 | 漫画 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『星のひと』水森サトリ
評価:
水森 サトリ
集英社
¥ 1,680
(2008-04)
星のひと
「家族も友だちも、星座みたいなもんかもな。近くに並んで見えていても、実際には何万光年も離れてるバラバラな星なんだ」(「惑星軌道」より)

 デビュー作の『でかい月だな』に続く2作目。前作が「月」ときて、今作は「星」。
 ある日突然隕石が落ちてきた槙野家を中心とし、その前後の出来事が描かれている連作短編集。語り手は話ごとに変わりますが、どの話もその中心にいるのは中学三年の槙野草太という少年でした。明るくルックスも良く人気者の草太はさながら太陽のようで、彼を取り巻く登場人物たちは惑星であったり流星であったりと、いずれも「星」に見えます。

■ルナ
 草太と同級生の伊刈はるきは、ここではないどこかへいずれ旅立つ自分を想像することで現状の不満をなんとかおさえこんでいる少女。周囲の女子たちのように恋愛に興じたり、クラス内の人間関係のパワーゲームに上手く対応することの出来ないところがある。人気者の草太のことをいつも苦々しく思って見ないようにしている。けど、それって傍から見るともろコンプレックスってことですよね。それに気になっているからこそあえて意識の外へ押し出そうとしているのでしょう。
 うわー、青いなあ。青くて春ですよ。この自意識の塊のようなはるきの「自分は特別」「いつか自分に相応しい場所へ行くことが出来る」という焦燥にも似た思いって、誰でも多かれ少なかれ思春期に感じたものでしょう。読んでいて痛くもあり、痒くもあり。
 タイトルの「ルナ」っていうのは、読後「ああ、そういう意味も掛けてあったんだ」と思いました。

■夏空オリオン
 草太の父、草一郎の話。草太の出生時と現在の家族のことが描かれていました。草太の両親はいわゆる“出来ちゃった婚”で、草太が誰にも望まれずに生まれてきた子供だということがわかります。そして現在、仕事に追われまくる草一郎を原因として家庭は崩壊寸前でありました。「ルナ」で見えていた明るく人気者の草太の陰の部分でもあります。
 この草一郎さんが本書の中で一番の変人でした。いや、もう異性人レベル。誰よりも優しいけれど、誰のことも理解出来ない、愛してくれない。草一郎にとってはその優しさが愛なのかもしれませんが、誰にでも均等に与えられるそれってなんなのでしょう。妻でも息子でも特別にはなれないって、やっぱり一緒に居たら辛いと思うのです。さっちゃん(草太の母であり草一郎の妻)にちょっぴり同情。

■流れ星はぐれ星
 前の話「夏空オリオン」に出てきた草太の命の恩人ビビアン(元の名前は耕平、現在はニューハーフ)の話。男を愛する自分を自覚した少年期と、初恋の相手草一郎のことが描かれていました。ビビアンの過去は結構壮絶なものがありますが、そこのところはさらっと書かれるだけで、そういった過去の上に立つビビアンのケ・セラ・セラな生き方がチャーミングでした。
 ラストに出逢った謎の男沢田といい、初恋の人草一郎といい、ビビアンは不思議な男に惹かれてしまうようです。苦労するぞー(笑)

■惑星軌道
 登場人物総出演といった態の最終話。語り手は草太の同級生高宮。母子家庭の彼は、周囲の偏見にわざと応えて素行の悪さを見せつけるところのある、敏いくせに不器用な不良君です。彼と一緒に居る草太のほうが、ずっと暗い部分を持っているように見えますね。といってもその暗さは「悪」ではなく、老成しているともとれる「諦観」や「悲観」に通じる暗さです。太陽のようだと、高宮をはじめ周囲の者がみな草太を評するけど、太陽の中にも黒点があるように、草太の中にある暗い部分は明るさに隠れて見えていないだけじゃないでしょうか。だからこそ、明るさだけではない草太を中心に人々は接点を持つんじゃないのかな。

 『でかい月だな』でもそうでしたが、水森さんはどんなに近しい人間でも、人が固体である限り決して分かり合えない部分がある、ということを根底に物語を書いている気がします。これから書く作品の中でそれが変わっていくのか、いかないのか。そこのところも気になりますね。

 ※集英社の該当ページで本文の試し読みができます→こちら

【収録作】
 ルナ/夏空オリオン/流れ星はぐれ星/惑星軌道

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2008.06.06 Friday * 15:17 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)

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