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評価:
柳 広司
角川グループパブリッシング
¥ 1,575
(2008-08-29)
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――スパイとは、見えない存在だ。
昭和の初め、帝国陸軍内で“魔王”の異名を持つ元諜報活動員・結城中佐によって設立された諜報活動要員養成所“D機関”を中心に、ここに集まった精鋭のスパイ候補生たちと、彼らの諜報劇が描かれています。彼らを統べる結城中佐の存在感が圧倒的。悪魔的な頭脳と、どこまで先を読んでいるのが見当もつかない手の打ち方。裏をかきあう心理的攻防戦と、最後の最後まで真相を読ませない本格ミステリの面白さが巧く混交した作品でした。
「スパイは、なにものにもとらわれてはならない」――それがどれほど孤独なことか。巧妙な企みや、数ヶ国語を操りずば抜けた記憶力を持つスパイたちの能力が面白いだけではなく、スパイであるというのはどういうことなのかという、人としての有様を問う部分もあって、連作短編集で積み重ねてきたエピソードの数々が、最後の話のラストシーンでなんともいえない哀れを催しました。是非、続編も書いて欲しい。
■ジョーカー・ゲーム
陸軍中尉の佐久間は、秘密裏に設立されたばかりの“D機関”への出向を命じられる。“D機関”を監視し、ミスがあれば即報告、なければミスを捏造することも含めた命令であった。採用試験から立ち会った佐久間は、そこで驚くべき異能の才を持った受験生達を目の当たりにする……。
■幽霊
洋品店店員に扮した蒲生は、英国総領事のチェスの相手として公邸に出入りしていた。任務は、総領事に掛けられたスパイ容疑の正否を明らかにすることだった。抗日テロによる記念式典での爆破テロ計画があるというのだが……。
■ロビンソン
イギリスで目も当てられない失態が起こった。赴任していた伊沢はロンドンでスパイ容疑で逮捕されたが、“D機関”で叩き込まれた「死ぬな殺すな」という教えを守り、なんとしても生きて国へ情報を送らなくてはならない。敵の手に落ちた絶体絶命の状況の中、相手側から二重スパイになるよう持ちかけられる……。
■魔都
元特攻の陸軍軍人・本間は、上海に配属されて三ヶ月になる。直属の上司・及川大尉から、部内にいるらしい敵の内通者を探り出すよう命じられ、その矢先に及川大尉の屋敷が爆破される……。
■XX
日本で派手な生活を送りながら、ドイツとソ連の二重スパイ活動を行っていたドイツ人が死んだ。“D機関”の飛崎が扱っていた男だった。ターゲットを死なせてしまったのは大きな失態だが、飛崎がぴったりとマークしていた中で誰がどうやって殺したのか、他の“D機関”メンバーに協力を要請して調査することになり……。
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