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評価:
三崎 亜記
集英社
¥ 1,365
(2009-01-26)
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かつて「彼ら」は、図書館という名前ではなく、「本を統べる者」と呼ばれていた。
多数の本を引き連れて世界の空を回遊し、「統べる者」同士が引き連れる本の多寡で覇を競いあったのは、もはや伝説にしか残っていない、はるか昔の話だ。(「図書館」より)
まったくの異世界や別世界ではなく、今私たちが住んでいるこの世界をベースに、ちょっと不思議な法令や行政、文化などがプラスされた少しずれた世界観が面白い三崎亜記さんの短編集。感想を書いたつもりで書いてなかった……。第五作目にあたりますね。表題作に合わせて表紙も方眼紙のようなデザイン。
■「七階闘争」
マンションの七階で起こった事件をきっかけに、町のすべての建物から七階をなくす条例が可決され、町からどんどん七階が消えていく。主人公の「僕」は、同僚の並川さんに誘われるままその反対運動に参加するのだが――。
七階だけを消すというのは一体どうするものなのかと思いましたが、なるほどそういうことですか。「七階の誕生秘話」とか「イルムーシャの七階」とか、歴史的意義のある存在と裏付けるような文献やエピソードなどもちらっと出てきて、そこが三崎さんらしくていいですね。
『となり町戦争』と似た雰囲気。
ところでこのお話の中に「覆面着用の自由化に伴う支援策について」という議案が出てくるのだけど、するとこれは
『鼓笛隊の襲来』収録の「覆面社員」と同じ世界なんですね。んでもって、「覆面社員」は
『バスジャック』収録の短編「バスジャック」と同じ世界だから、このみっつの話は同一世界の出来事になるわけです。覆面着用の自由が確立され、バスジャックが公的に認められ、そして七階をめぐる闘争が起こっている町(世界)って!(笑) 思わず既刊作品を読み返して関連図みたいなのを作りたくなりました。
■「廃墟建築士」
廃墟を文化芸術のひとつとして認めている世界。「第一種廃墟」「第二種廃墟」「みなし廃墟」などに分類され、廃墟先進国では廃墟専門のマイスター制度もあるという。主人公・関川は廃墟に見せられ廃墟建築士として生きてきたが――。
廃墟の描写が美しい一編。特にラストシーンが印象的でした。実際にこちらの世界でも、廃墟の写真集や廃墟マニアの人たちがいるし、廃墟って眺めているとそこに至るまでの過去のドラマを想像させますよね。
この話の中にも他作品へのリンクがあって、主人公・関川の修士論文の研究テーマが「二階扉による分散型都市モデル」。ってことは、
『バスジャック』収録の「二階扉をつけてください」と同じ世界ですね。ふむ。今まで書かれた三崎作品は、もしかして全部同じ世界のお話なのかな。すべて地続きになってそうな。
■「図書館」
図書館の本の中に眠る「野性」を解放し操る術を持つ「私」。派遣された先の図書館でもうまく本たちを調教できたはずだったのだが――。
これは
『バスジャック』の中の「動物園」に出てくるハヤカワ・トータルプランニングの日野原が主人公のお話。密かにシリーズ化してますね。今回は、「動物園」の時とはちょっと違った能力の使い方。
本が飛ぶ様子がこれまた美しい光景に思えました。内容の分類ごとに本の性格も違って、飛び方にもそれぞれの特徴が出るところとか、閉架書庫に静かに収まっているのは長老たちだとか、もうこの話を読んでからは図書館に行くといろいろ想像しちゃいます。冒頭に引用した「本を統べる者」たちの物語も読んでみたいなあ。書いてほしいなあ。
■「蔵守」
略奪者から蔵を守る蔵守。その蔵守と蔵の、ふたつの視点で交互に話は進んでいきます。蔵の視点が不思議な感じでした。意識を持った「蔵」の語りに気をとられていると、いつの間にかただの不思議な話から一歩奥へ足を踏み入れかけていることに気づきます。ポイントなのは「踏み入れかけている」というところ。蔵守という制度の向こうになにか大きなものが見えそうで……。別の角度からも見てみたい話でした。例えば蔵守を配備している行政側から、とか。
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