|
評価:
梨木 香歩
朝日新聞出版
¥ 1,470
(2009-05-07)
|
おまえがいたから耐えられた道行であった。(本文より)
『西の魔女が死んだ』や『家守綺譚』の梨木さんの新刊。装丁からして楽しみにしていました。物語も長雨の頃から始まっているので、ちょうどこの季節に読むのにもってこい。
水辺の植物を扱おうとしているf植物園の園丁である「私」こと佐田豊彦は、歯痛に悩まされ町の歯医者に通う傍ら、幾度か夢とも現ともつかぬ不思議な体験をする。大家が雌鳥に見えたり、人に「げえろっぱ」について聞かれたり。そしていつの間にか椋の木のうろに落ちてしまっていたようだった――。
主人公と共に読んでいるこちらも足下が覚束ないような、半覚醒のような心持ちになります。「私」の語り口がやや昔の言葉遣いなんですが、それが読んでいて心地良いし、この物語の雰囲気はこの文体に因るところが大きいと思われます。
様々な者に出会い、薄靄を書き分けて進むような道行でしたが、そこで出会った坊と「私」の最後の会話に、思わず胸を突かれました。感情移入しているつもりはなかったし、そうさせない語り口であったのに。ヤラレた〜。これは再生の物語だと思います。家族の物語でもあるし、自己を追求する物語でもありました。繰り返される歯医者での遣り取りが、最後に比喩として繋がっていきます。
読むたびに解釈が変わりそうで、何度も読み返しそう。
そんな中で主人公と歯科医師夫婦(妻は時々犬の姿になる)との遣り取りが、くすりと笑わせてくれてほっとしました。
【ほんぶろ】〜本ブログのリンク集