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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿』北山猛邦
「もういやだ……うちにいたい……事件なんていやだ……」
 車中で音野が駄々をこね始めたが、今さら引き返すわけにもいかない。だいたい、現場に行くまでにイヤイヤする名探偵が何処の世界にいるというのだ。(「人喰いテレビ」より)

 ミステリ作家の白瀬白夜と、彼の友人でひきこもりがちで人見知りな名探偵音野順のシリーズ第二弾。
 今回は白瀬のボケっぷりに驚愕しました。自分が買って来たものを次の話ではもう忘れているって! もしやこれはなにかの伏線ではないのか、このシリーズの最終話が全部白瀬の脳内劇場でした、とか言ったらどうしよう……とまで考えました(笑)

■「密室から黒猫を取り出す方法」
 殺した相手を自殺に偽装して完全犯罪を目論んだところ、密室に猫が入り込んでしまった。さて、どうやって猫を外に出すか、という話。
 理屈としてはわかるトリックなんだけど、実際それをその人が実行できるのかちょっと疑問が残ったなあ。

■「人喰いテレビ」
 ロッジで殺されていた男は、前夜テレビに喰われていたという目撃証言があった――。
 これはちょっとズルイぞ〜と思った一編。トリック云々よりも登場人物たちのコミカルな会話のほうを楽しむ話って感じ。実際、そういったやりとりのほうが面白かった。

■「音楽は凶器じゃない」
 五年前とある高校で音楽教師が撲殺された。現場には女子学生も怪我を負って倒れていた。犯人が捕まらないままの事件を解くことができるのか――。
 う〜ん、この凶器は……バカミスっぽいかな。けど、話は一番シリアスな展開へ。

■「停電から夜明けまで」
 シロとペンタ兄の兄弟は義父を殺す計画を立てた。チャンス到来、停電の夜に実行に移そうとしたのだが、そこに来客が現れて――。
 この話が一番面白く読みました。トリックではなくロジック寄りな話。音野の兄が出てくるんですが、なかなかのブラコンでその立ち居振る舞いがいい感じの人でした。音野よりも名探偵然としていて頭の切れる印象。またそのうち登場するでしょうね。

■「クローズド・キャンドル」
 散歩中に知り合った女性から、家に入り込んだ変な男を追い出してほしいと頼まれた白瀬。彼女の家に行くとそこにいたのは名探偵を名乗る琴宮(きんぐう)という男で、成り行きから女性の父親が殺されたトリックを解明することになるのだが――。
 「密室から黒猫を〜」が小粒な物理トリックものだとすると、この話は大掛かりな物理トリック。他にもミステリのガジェットが幾つも出てきて、読んでいて楽しい話でした。ここで出てきた琴宮という探偵は、今後また出てくるんでしょうか。不思議と憎めない名(迷?)探偵でした。彼がメインで番外編ってのも面白いかもしれない。

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2009.09.30 Wednesday * 01:44 | 北山猛邦 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『神去なあなあ日常』三浦しをん
評価:
三浦 しをん
徳間書店
¥ 1,575
(2009-05)

 花の香りで息苦しいほどだ。研ぎ澄まされたのは嗅覚だけでなく、聴覚もだ。森はもっと静かなものだと思ってたけど、全然ちがった。いつもどこかで、葉が落ち茂みの揺れる音がする。(「二章 神去の神さま」より)

 平野勇気は、高校卒業と同時に担任教師と親によって三重県の神去村へ送り込まれた。それは、「緑の雇用」制度(林業に就業することを前提に国が助成金を出す)によるもので、右も左もわからないまま林業の見習いをすることになる。

 面白かった。初心者の勇気が語り手となることで、年間を通しての仕事と作業の段取り、手順、林業の置かれている現状など、林業についてなんの知識もない私も読んでいる少しずつわかってくるのがまず楽しいし、山や森の自然描写がとてもよかったです。踏みしめた土の軟らかな感触や、刻々と雰囲気を変える山の空気、朝に夕に目を楽しませる空の色。そういったものの描写が本当に読んでいて気持ちいいんですよね。「自然」とは、というのを勇気が仕事の先輩から聞くシーンがあって、ただ緑を植えればそれでいいと思っているのは違うんだと知りました。
 勇気が面倒を見てもらうことになった中村林業の人々も村の人々も、みな「なあなあ」が口癖で村全体がのんびりムード。そんな中で流されるように林業に身を置いていくうちに、だんだん林業の魅力に惹きつけられていく勇気の姿もいい感じです。登場人物がみな明るくて気持ちよく、自然描写と神隠しや祭りなどの出来事が山の崇高さを感じさせてくれました。
 宮崎駿氏が帯やPOPに推薦文を書いているんですが、宮崎アニメで映画化したのを見てみたい。とっても合いそうな気がします。

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2009.09.18 Friday * 20:45 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『船に乗れ! II 独奏』藤谷治
評価:
藤谷 治
ジャイブ
¥ 1,680
(2009-07-02)

 それは僕のためではない。それなのに音楽は、この卑劣で高慢でぶざまな僕に向かってさえ、感情を超えたやさしさと美しさに溢れていた。(「第十九章」より)

 私立高校の音楽科に通う高校生たちの姿を描いた青春小説の2巻目。
 1巻の冒頭で苦い青春小説になるだろうことは仄めかされていたけれど、これほど急転直下な展開になるとは! これまでの甘酸っぱい雰囲気が消え、サトルが独逸留学した中盤以降はひたすら重く辛く苦しい展開になります。これまでのサトルも多少鼻持ちならないところがあったけど、お坊ちゃま育ちの無神経さと思慮のなさが時には微笑ましく見えることもありました。けれど今回彼がしたことは、若さゆえの過ちというにはあまりに大きい出来事です。その前に手酷い裏切りにあって深く傷ついていたにしても。サトルが好きになれない、南も好きになれない。でも、これからサトルがどんな人生を歩んでいくのか気になって、次巻もきっと読むでしょう。過去を振り返る形で語られているので、現在の彼らがどうなっているのか見届けなくては。物語としては、序破急の「破」になるのかな。1巻よりも面白く読みました。
 金窪先生とサトルの「なぜ人を殺してはいけないのか」の遣り取りと、ソクラテスを自身に暗喩した最後の授業シーンが圧巻で印象に残っています。

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2009.09.17 Thursday * 16:38 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『ちはやふる (六)』末次由紀
 速さへの執着を捨てなさい

 競技かるたに打ち込む高校生達の姿を描いた文系スポ根漫画の最新刊。
 クイーンに完敗した千早に原田先生がしたアドバイスは、速さに固執するなというもの。今まで耳の良さと飛び出しの速さで勝ち進んできたため、先生の言葉に戸惑う千早。ま、戸惑うというより混乱していると言ったほうがはやいかも(笑) 瑞沢高校かるた部のみんなは昇級目指して公式戦に出場します。
 千早が対戦した相手の金井桜さんがいい感じ。彼女と対戦したことで、千早はひとつなにかを手に入れましたね。他の部員達も決勝進出でドラマが。私は百人一首が好きなので、いつもかなちゃんの言葉にぐっときてしまいます。本当に和歌が好きなんだなあ。それに和服も。たまに着物を着ると、窮屈さよりもどこか背筋の伸びる思いがします。かなちゃんはその着物の力をもっと自然に味方につけているんですね。
 一方で福井にいる新(あらた)もかるたの世界に戻ったようで、次巻が楽しみです。

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2009.09.17 Thursday * 16:25 | 漫画 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『京大芸人』菅広文
評価:
菅 広文
講談社
¥ 1,470
(2008-10-30)

 クイズ番組などでよく見るロザンの宇治原さんは京大出身。この本はその相方菅さんが書いた小説です。小説と言っているけれど、限りなく自伝に近いと思います。語られているエピソードはどれもリアルだし。二人の出会いから学生時代の話、受験と宇治原さんが京大合格後の話。吉本に入ったところで話は終わっているけど、書こうと思えば続編が出そうな終わり方でした。
 面白かったのは宇治原さんのちょっと常人離れした言動と、受験前下見のために京大の学園祭にいったふたりがちょんまげのあるサムライ男に遭遇した話。か、鴨川ホルモー?(笑) 京都大学って、なんだか面白そうなところですねー。
 それと、宇治原さんの勉強方法に感心しました。私は受験からもう随分遠く離れた年になってしまいましたが、なにか資格試験を受けることでもあったら参考にしたいと思います。

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2009.09.17 Thursday * 00:42 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『矢上教授の午後』森谷明子
評価:
森谷 明子
祥伝社
¥ 1,785
(2009-07-10)

「むろん、この状況を歓迎しているわけではないのだが。だがね、一度こんな場面に行きあってみたいと思っておったのは確かだろうな」
「というと?」
「ずばり、閉ざされた空間での犯罪」(「39 研究棟五階」より)

 嵐のせいで停電となり、いくつかの偶然や故意が重なって、大学の取り壊し間近なオンボロ研究棟に閉じ込められた数人。みんなでなんとか外部と連絡を取ろうとしていたところ、他殺体と思われる死体が見つかって――。

 章立てが細かく50にも及び、複数の登場人物たちの視点からそれぞれ語られる群像劇。正直、終始誰が誰やら登場人物が把握しにくかったです。特に学生たち。あまり特徴がないっていうか、会話文が多くて話し言葉だけでは頭の中にキャラが動いている図が浮かばなくって。図といえば、見取り図がほしかったかな。館モノじゃないから見取り図をつける必要はないかもしれないけど、研究棟の何階に誰がいて、非常階段には誰がいて、エレベーターには誰が……というのがごちゃごちゃになっちゃって読み進むのに苦労しました。またみんな落ち着きなくあっちこっち行くから(笑)
 群像劇がひとつの謎の解明に向かってぐわーっと収斂されるかというと、個々が抱えている秘密や事情が絡んできてなかなかそうもいかない。ひとつひとつを見ると面白い事情があったりするのに、読み終わったときにどうもすっきりしませんでした。本格ミステリを読むときに楽しみにしているのは「やられた!」っていう意外性と、謎が解かれたときのカタルシス。今回はその両方が弱かったな。

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2009.09.15 Tuesday * 16:56 | 国内ミステリ | comments(0) | trackbacks(0)
* 『文鳥・夢十夜』夏目漱石
評価:
夏目 漱石
新潮社
¥ 420
(1976-07)

 静かに聴いていると、丸くて細やかで、しかも非常に速やかである。菫程な小さい人が、黄金の槌で瑪瑙の碁石でもつづけ様に敲いている様な気がする。(「文鳥」より)

 虫の音を聴きながら、秋の夜に読むのにいいかと久しぶりに漱石を読む。
 昔読んだときには「夢十夜」が一番好きだったけど、今読むと「文鳥」がとてもいい。門下生の三重吉に勧められて文鳥を飼うことになった著者は、忙しさに紛れて次第に文鳥の世話を怠るようになり、そしてある日とうとう文鳥は死んでしまう。
 白く可憐な文鳥の姿に「淡雪の精の様な気がした。」と思い、文鳥が餌をついばむその微かな音に耳を済ませては、冒頭で引用したように「菫程な小さい人が、黄金の槌で瑪瑙の碁石でもつづけ様に敲いている様な気がする。」と思う著者。このあたりの描写が素敵。なんだ、気に入ってるじゃありませんか。三重吉があんまり言うもんだから・・・ってな風を見せているけど、飼ってみたらその姿を愛でている。可憐な文鳥に昔の女の面影を呼び起こされて、時折それと重ね合わせて見る。一見、文鳥ありきなのか、その女の思い出ありきなのかと思うけど、多分、文鳥の美しさと儚さを強調させるために、女の仕草を引き合いに出しているんだろうな。 
 おっかなびっくり文鳥の世話をするたびに、心の中で文鳥を持ってきた三重吉に文句を言うのには笑いました。世話の仕方を細かくレクチャーして帰った三重吉。ひとりになった著者が餌遣りをする際に、逃げないよう鳥籠の戸を押さえたはいいが、無心にチチチと啼く文鳥に、逃げると疑ったことを後悔して「三重吉は悪い事を教えた。」と思い、慣れれば指の先から餌を食べると聞いていつか自分もそれをやってみたいと何度もトライするものの、一向指先から餌を食べてくれない文鳥に落胆して「三重吉は嘘を吐いたに違いない。」と拗ねる。一羽の文鳥を前に、気難しげな先生が内心で一喜一憂している姿が微笑ましい。そうなんでも三重吉のせいにしては可哀想です(笑)
 しかしですね、文鳥が死んだのは裏表紙のあらすじに書いてあるような家人の不注意のせいじゃなくて、漱石先生の怠慢に因していると思いますよ。毎日執筆や金の無心に訪れる人々の相手に忙しい先生が、文鳥の世話にかかりきりになるのは到底無理でしょうが、一言細君や下女にこれこれよろしく頼むと言っておけばよかったんじゃないのかな。周囲もどこまで手を出していいのか図りかねていたのでは。文鳥が死んだと葉書をもらった三重吉も、返事に困ったことでしょう。

 掉尾を飾る「手紙」も、起承転結がきちっとあって面白かったです。重吉みたいな男は、性質が悪い。

【収録作】
 文鳥/夢十夜/永日小品/思い出す事など/ケーベル先生/変な音/手紙

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2009.09.12 Saturday * 02:36 | 古典・日本文学 | comments(0) | trackbacks(1)
* 『怖い絵』中野京子
評価:
中野 京子
朝日出版社
¥ 1,890
(2007-07-18)

 絵画にまつわるエピソードや、絵の中に隠されたメッセージなどを読み解き解説している本。絵画鑑賞の入門書としてもってこいじゃないかな。「怖い絵」と題されているけれど、全部が全部怖い絵というわけではなく、一見普通の風景画や人物画が、背景を知って見ると違ったものに見えてくる感じ。クノップフの「見捨てられた街」、ブロンツィーノの「愛の寓意」などは印象が変わりました。ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」、ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」、ベーコンの「ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作」なんかは、見るからに怖い絵ですね。
 怖い絵というと私は真っ先にドガの「エトワール、又は舞台の上の踊り子」を思い浮かべます。昔、あしべゆうほの漫画『悪魔の花嫁』の中でこの絵がストーリーに絡んでくる話があって、それを読んでからは踊り子の後ろ、舞台袖のところに立っている男性の姿が怖くなりました。本書の中でもこの絵は取り上げられています。
 全体的には、解説されている絵が見づらかったのがちょっと難点。けど、その絵が描かれた背景や画家たちのエピソードは興味深く読みました。ものによっては「え?そこまで?」と著者の主観が暴走気味に感じるものもあったなあ。一番印象に残っているのはクノップフの「見捨てられた街」で、この絵はローデンバックの小説『死都ブルージュ』に触発されて描かれたものだとか。その小説あらすじにも触れられていたのですが、なかなか面白そうでそちらもちょっと読みたくなりました。

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2009.09.09 Wednesday * 23:53 | 国内その他 | comments(2) | trackbacks(1)
* 『スパイ事典 「知」のビジュアル百科 27』リチャード・プラット:著、川成 洋:訳
評価:
リチャード プラット
あすなろ書房
¥ 2,625
(2006-05)

 旧約聖書の時代から既に存在していたスパイ。この本は、スパイとはなにか、から始まって実際に使われていたスパイ道具の数々や有名な実在のスパイの話、暗号解読機器、盗聴器やそれをどうやって仕掛けるか、そしてスパイ活動の内容まで。これ一冊あればスパイのなんたるかが分かる本。写真や図が多いので見て楽しめます。きっと私達には文章だけではその道具の様子が伝わり難いから、これほどたくさんの写真が使われているのでしょう。とても面白い一冊でした。
 女スパイ、マタ・ハリについては有名ですが、フランス王朝時代にいた女装の男スパイについては知りませんでした。周囲も彼を女性だと思っていて、その正体がばれた時にはみな驚いたとか。007シリーズのジェームズ・ボンドのモデルになった人物や、400以上の暗号を送り続けた女スパイなど、実在した人物の話が興味深かったです。二重スパイと彼を信じていなかった雇い主(某国)のやりとりとか。事実は小説より奇なり。
 スパイ道具の数々も、人間の知恵やアイデアが結集されていて面白いです。砂漠や砂浜に残った足跡から靴底を判明できないように考え出された裸足の跡がつく靴底だとか、二重になったトランプカードの中に隠された紙片だとか、手のひらにすっぽり入ってしまう小型カメラだとか。
 巻末には現代の産業スパイについても載っていて、スパイについての法的規制がない日本は、とても怖い状況にあるんじゃないかと思わされました。こんなに当然のようにスパイが暗躍しているとは。

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2009.09.08 Tuesday * 19:11 | 海外その他 | comments(0) | trackbacks(0)
* 『“文学少女”と慟哭の巡礼者(パルミエーレ)』野村美月
評価:
野村 美月
エンターブレイン
¥ 651
(2007-08-30)

 教えてほしい。きみが望むなら、なんでもするから。
 ぼくの手でも、足でも、目でも、命でも、なんでもあげるから。
『銀河鉄道の夜』に出てくる蠍のように、永遠の炎に焼かれてもかまわないから。(「五章 敗れた少年」より)

 先日出た“文学少女”シリーズ最新刊を買って、積読状態になっている既刊分を読むモードに入りました。ついつい買ってすぐにオイシイところだけ拾い読みしちゃって、おおまかなストーリーと要所要所を味わって気が済んじゃう悪い癖が出るんですよね。ライトノベルは特にそう。
 今回は宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』がテーマです。この本をここで持ってくるのか、とちょっと驚きました。もっとラストにくるかと思っていたので。

 遠子先輩が本格的な受験期に入り、たったひとりの文芸部員となった井上心葉(このは)は琴吹ななせと初詣デートをして、少しずつその距離が近づいているように見えた。しかし突然ななせが怪我をしたと聞き、その入院先へ見舞いに行くと、そこでひとりの少女と再会する――。

 ついに出ました。前巻あたりから「出るぞ、出るぞ」と色濃くその存在を主張してきた朝倉美羽の登場です。心葉の心に今も深々と残る傷の原因であり、心葉が幼い頃からずっと大好きだった少女。これまでは心葉の独白の中でした出てこなかったので、心葉の目を通した美化された美羽しか読者は知らなかったのですが、今回本人が登場したことでそれがひっくり返ります。今まで4巻分の心葉の独白がすべてこの巻のための長い長い前振りだったのだな、と思わせる展開でした。
 盲目的な憧憬や恋心は、向けられた相手にとってどれほど負担になるものでしょう。このシリーズは、毎回結構胸の痛い話になるのですが、それらの総決算と言ってもいいくらい重苦しい空気が満ちていました。それというのも語り手である心葉がどん底で泥沼にどっぷりはまりこんでいるからで、今回ばかりは心葉にイライラがMAX。友人の芥川君も一緒に泥沼に引きずり込まれているし、心葉を想うななせの健気な行動もなかなか状況を打破する一撃にはなりません。
 ところが3分の2をこえるあたりから、一気に収束へ向けて話が展開して行きます。それまで停滞していただけにここからはあっというまでした。溜まっていた澱が洗い流されるように、遠子先輩の語りでガチガチに絡んだ登場人物たちの感情が解れていきます。さすが今回のテーマは「銀河鉄道の夜」だけあって、こんなにドロドロしているのにラストはきらきらと水晶の砂が舞う「プリオシン海岸」のようでした。

 ここでこのシリーズも一段落。次からは遠子先輩の謎に迫ることになると思いますが、私としては、人間らしい感情を持てない竹田さんの今後が気になります。

【このシリーズの感想】
 『“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)』
 『“文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)』
 『“文学少女”と繋がれた愚者(フール)』
 『“文学少女”と穢名の天使(アンジュ)』

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2009.09.07 Monday * 17:11 | ライトノベル | comments(0) | trackbacks(0)

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