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評価:
道尾 秀介
幻冬舎
¥ 1,470
(2009-08)
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「あなたがたが、私のやったトリックを見破ることができれば、私はもちろんお二人に、欲しいだけのお金をあげます。しかし、もし解答を見つけられなかったときは――」
男は左手の人差し指を伸ばし、真備の胸元を真っ直ぐにさした。
「あなたの右手、消してもいいですか?」(「モルグ街の奇術」より)
『背の眼』『骸の爪』に続く真備(まきび)シリーズの三冊目で、シリーズ初の短編集。読んでから気づいたけど、真備シリーズの前二作をまだ読んでませんでした。しまった。すっかり読んだつもりになってた。けれど、それらを未読でも特に差し障りなく楽しめました。
死んだ妻に会いたくて霊現象探求所を構えている真備庄介とその助手の北見凛、そこに出入りしている真備の友人で売れないホラー作家の道尾秀介。彼らのもとに、さまざまな依頼人がやってくる形式です。店頭で見かけたとき、今までのシリーズ作の黒っぽい表紙と違った、白く美しい装丁にしばし見惚れました。タイトル文字もグラデーションがかかっていて綺麗。
■「流れ星のつくり方」
海沿いの町で知り合った不思議な雰囲気の少年から、友達の両親が密室状態の家の中で殺された話を聞いた凛。友達が帰宅したとき犯人はまだ家の中に居たという。誰にも気づかれずに犯人はどうやって家の中から消えたのか――。
タイトルも中身の構造も美しい話。なんていうか、全体的に澄んだ夜気をまとっているような雰囲気が漂っていて、哀切な終わり方が印象的でした。第59回日本推理作家協会賞短編部門の候補になったというのも頷けます。この話が最初にあることで、一気にこの本に集中することができました。
■「モルグ街の奇術」
小さなバーで飲んでいた道尾と真備は、痩せて右腕の手首から先がない外国人に話しかけられた。彼はマジシャンで、自分がどうやって右手を消したのか見破る賭けを持ちかける。果たして、真備たちは男のトリックを看破できるのか――。
いつもミステリを読むときは自分も一緒になってトリックや犯人を考えるんですが、今回この本の中で一番考えるのを楽しんだのがこの話でした。面白いとか愉快な話という類ではないんだけど、コナン・ドイルの話から始まってタイトルもポーの『モルグ街の殺人』からきているし、マジシャンも出てくるしで、妙にわくわくしました。
そして、真備の推理が開陳された後の、背筋がゾワリとするような幕切れがとても好みです。この本の中で一番のお気に入り。やはり奇術師が出てくるミステリはいいなあ。
■「オディ&デコ」
真備霊現象探求所に小学4年生の少女がやってきて、死んだ捨て猫の幽霊が自分が撮った動画に映っていると相談する話。
肝心の真備が風邪でダウンしていて、道尾と凛が調べることになるせいか、どこかやわらかい雰囲気。しかし、可愛らしい中にもちらりとブラックな部分が覗きます。
■「箱の中の隼」
三月半ばに真備霊現象探求所に顔を出した道尾は、忙しそうな真備と凛に相手にしてもらえず、そこに訪れた美しい女性に連れられて、とある宗教団体の見学に行くことになるのだが――。
邪険に扱われる道尾がかわいそうだけど、どうも彼は真備や凛にあしらわれる役割のようで、人の良いところも含めて巻き込まれ型人間の典型のようです。
宗教法人の内部の様子はもちろん、冒頭の真備たちとの遣り取りや描写までもが、最後になって効いてくるところなど「おお〜」と思わされました。
■「花と氷」
誤って孫を事故で死なせてしまったと相談に来た老人を、数日後友人の披露宴の帰りに見かけた凛。老人はうってかわって明るく元気な様子で、公園で子供達になにか紙を配っていた――。
この出来事の真相やトリックの内容もさることながら、凛と真備の関係にさらりと触れられた最後が印象的でした。それまであまり見せられなかった真備や凛の哀しみが最後の最後で出てきたので。
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