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評価:
恒川 光太郎
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,470
(2010-02-27)
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これまで書かれてきた日本から南の島へと舞台を移した新作。熱帯夜のようなむっとした空気や海のきらめきは感じられたものの、全体的に暑さで見せられた夢のようなもやもやとした感触を残します。肌にまとわりつく不安や不穏な空気を感じるのだけれど、それらの不思議な出来事に解決を示さない民話的な語りで煙に巻かれた感じ。それが南国情緒にもなっていて良いんですけどね。一番好みなのは巻末の「夜の果樹園」でした。これがラストに来たことでもわ〜んと漂っていた熱気がキュッと締まった感じ。
■「南の子供が夜いくところ」
借金で一家心中を企てた両親に連れられてタカシは海水浴場へ来ていた。そこで知り合ったユナという女性によって、タカシと両親はそれぞれ別の南の島に送られて……。
■「紫焔樹の島」
その島には「果樹の巫女」と呼ばれる乙女だけが行くことができる聖域があった。しかしある時、島に異国の男が流れ着き、それまで島にはなかった道具や物の考え方も一緒に持ち込まれ……。
■「十字路のピンクの廟」
十字路にあるピンク色の廟を調べる主人公。生徒や先生など、数名にその廟の話を聞くうちに僅かな齟齬を見つけるのだが……。
■「雲の眠る海」
シシマデウのいた島は他所の島からやってきた敵に攻め落とされてしまった。シシマデウは島を取り戻すため、伝説に聞く大海蛇の一族を探しに海へ漕ぎ出すのだが……。
■「蛸漁師」
岬の崖の中にある部屋に住み蛸を獲って暮らす男。彼は昔出て行った自分の息子を探しているうちに蛸漁師と知り合い、蛸漁と崖の中の部屋を譲り受けてそこに住み着いたのだと言うのだが……。
■「まどろみのティユルさん」
岩から生えているかのように、体が半分植物になった男がいる。その男は遠い昔、海賊であった自分の過去を思い出し、タカシたちに話して聞かせるのだが……。
■「夜の果樹園」
離れ離れになっていた息子に会いにバスに乗ったはずが主人公。どうやらバスを間違えたようでまったく知らないバス停で降りる羽目になってしまった。歩いていると頭がフルーツで体が人間の生き物が住む村に辿り着き、彼らの飼い犬として迎え入れられ……。
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