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評価:
湊 かなえ
東京創元社
¥ 1,470
(2010-01-27)
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その人のためなら自分を犠牲にしてもかまわない。その人のためならどんな嘘でもつける。その人のためなら何でもできる。その人のためなら殺人者にもなれる。
みんな一番大切な人のことだけを考えた。一番大切な人が一番傷つかない方法を考えた。(第一章より)
『告白』『少女』『贖罪』に続く四作目。これで著者の既刊本はすべて読んだことになるかな。
裕福な暮らしをしている野口夫妻とダイビングで知り合った、就職も決まり大学卒業を控えた安藤と女子大生の杉下。安藤と杉下は同じボロアパートに住んでいて、台風による床上浸水がきっかけで西崎という作家志望の青年とも親しくなった。ある時、食事に招待された野口夫妻の高級マンションで夫妻が亡くなる事件が起こるのだが……。
タイトルを見ると「N」が誰なのか、誰が「N」のためになにをしたのかに興味を惹かれたのですが、読んでみると主要登場人物すべてに「N」のイニシャルがついていて、みんなそれぞれがそれぞれの「N」のために動いていました。
杉下希美、安藤望、西崎真人、成瀬慎司らの複数の視点で物語は描かれています。ひとつの真相に向かって話が収束するのではなく、登場人物の数だけの真相が語られていく。みんな「N」のために動いているのに、そのベクトルはひとつも向かい合わずに一方通行です。湊さんはいつも作品の中に痛みの部分があると思うのですが、この作品においての痛みは、彼らの交わることのないベクトルでしょうか。
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