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評価:
坂木 司
光文社
¥ 1,890
(2010-04-20)
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「これはそのまま、ミステリになるなあ」
暗号のような菓子名や、基礎知識がないと来歴すらわからない菓子。私はあっという間に、和菓子の世界に引き込まれて行きました。
食べておいしい上に、物語を孕んだ和菓子。そして和菓子を学ぶことは、そのまま日本の歴史を学ぶことでした。(「あとがき」より)
デパ地下に入っているテナントの和菓子店に、アルバイトとして勤めるようになった主人公アンちゃんと同僚たちが遭遇する和菓子にまつわる日常の謎を解いていく連作短編集。といっても、作者があとがきで書いているようにトリックなどがメインの推理ではなくて、和菓子の名前や特性などを知ることが結果的に真相を解明することになる形です。
なにはともあれ、出てくる和菓子がどれも美味しそうで涼やかで、和菓子屋さんに行きたくなります。表紙のお饅頭も可愛くて美味しそう。和菓子の風流さや奥深さをもっと知りたいなあ。味わうのはもちろん、見て目を楽しませるのにも和菓子っていいですよね。一品一品が完成されていて。「松風」や「おとし文」を実際に味わってみたいです。和菓子屋さんに行って、上生菓子を物色したくなりました。
お話そのものは他愛もないことだったり、ちょっと悲しい背景があったりで、いつもの坂木節という感じ。主人公のアンちゃん(本名・梅本杏子の杏をとってアン)がいい子で、店長の椿さんも、菓子職人志望の立花くんも、見た目は可憐な美人なのに元ヤンの同僚さんも、みんなやさしい良い人です。
ところで、これって登場人物たちがみんな木の名前になってますね。アンちゃんは梅本から始まって、椿、立花(=橘)、松本などなど。坂木さんの密かな縛りなのかな。
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