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2011.01.19 Wednesday * | - | - | -
* 『小さいおうち』中島京子
評価:
中島 京子
文藝春秋
¥ 1,660
(2010-05)

 今期直木賞受賞作。以前から名前をよく見かけてはいたけれど、読んだことのない作家さんでした。
 戦前〜戦中に東京のとある中産階級のお宅に、女中として働きに出ていたタキという女性が語る回想録の体裁をとった歴史小説。戦時下の生活を想像するとき、どうしても映画やドラマ、小説に描かれた悲惨な状況を思い浮かべてしまうけれど、この本の語り手であるタキの回想はどこかおとぎ話のよう。それが最終章を読むと違う印象に変わるのが面白かったです。
 若々しく美しい奥様、穏やかな旦那様、可愛らしい坊ちゃん。タキは本当にこのお宅が好きで、奥様のことが好きで、毎日幸せに奉公しています。戦争は急に始まるものでなく、じわじわとその影をちらつかせてやってくるので昨日と今日の境目はそれほど劇的なものではありません。私は戦争を体験していないのですが、こんな風にゆるやかに社会が戦争へとスライドしていくのだとしたら、止めようとするきっかけは一般庶民には掴めないだろうなと思って、それが少し怖かったです。
 つらつらと語られていたご奉公の様子が途中でぷっつりと途切れ、そこからタキの甥っ子視点の最終章が書かれています。タキの手記を読んだ彼が、タキのご奉公先のお宅のことを調べ、そこから見つかる真実はせつなく美しいものでした。故人の想いが死後に判明するというのは、それがどのようなものであってもある程度の感慨をもたらしますよね。ちょっぴり悲しいけれど、読後感の良いお話。

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2010.08.26 Thursday * 23:24 | 国内その他 | comments(0) | trackbacks(2)

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